第152話 最後の甲子園

 日本全国の代表校が決まった。

 優勝の本命とされるのは、10年に一人の怪物とも言われる、昇馬を擁した白富東。

 かつての栄光の時代が、またも蘇ろうとしている。

 往年の高校野球ファンが、これこそ高校野球だとばかりに、甲子園に注目していく。

 そんな中で鬼塚は、マスコミ対策を徹底する。

 基本的にマスコミも、大手はアマチュア野球に対して、下手な記事などは書かない。

 ただ今の時代は一般人が、簡単に情報を拡散していく時代だ。

 スキャンダルが一番恐ろしい。


 高野連も一般マスコミも、ここはタッグを組んでいる。

 今度二度と起こるかどうかも分からない、特別な夏の始まりだと、双方が了解しているのだ。

「というわけで酒とかタバコとか女とか、突っ込み入れられることすんなよ」

「監督はどうしてたんすか?」

「俺は酒もタバコも中学校で卒業したんだよ」

 笑いが漏れる一幕であった。


 学校の方では寄付金集めなど、やらなければいけない仕事が多い。

 鬼塚は出来るだけ、雑務のほうは任せてしまっている。

 彼がやるべきは、全国の代表校の攻略を考えること。

 その中でも一番の強敵は、やはり桜印であろう。


 同じ関東圏なので、それなりに情報は入ってくる。

 これで白富東と同じく、五季連続での甲子園出場である。

 もっとも五季連続というなら、他にもそんなチームはいる。

 怪物級のピッチャーを揃えたチームが、全国に存在する。


 今年は高校生のピッチャーが豊作過ぎる。

 ドラフトはまた大変だろうな、と鬼塚は完全に他人事である。

 ただ上杉将典は、スターズが絶対に指名するだろう。

 上杉伝説を再びと、Bクラスに落ちているスターズは、期待しているであろうからだ。

 さすがに父親と同じレベルを求められるのは、将典も大変すぎると思うが。


 昇馬を何球団が競合してくるか。

 ただ上杉や大介の時と違い、今は完全に昇馬も、メジャーに行くと思われている。

 司朗もそういう話をスカウトとしていたので、六球団競合までに抑えられた。

 まさかその中に、タイタンズが入ってくるとは思っていなかったが。


 昇馬の気性からして、スターズが将典を指名するなら、あとは福岡も他を選ぶか。

 各球団のスカウトたちは、昇馬の思考などをある程度分かっていて、プロ向きではないのでは、と考えているだろう。

 まず指名しないであろう球団は、他にタイタンズといったところ。

 司朗が五年でメジャーに行くのに、昇馬までそのルートをたどるなら、やはり他の選手を指名しそうだ。

 ちょっと読めないのが、レックスとライガース。

 ライガースは親子でという売りを作れるが、それよりは親子対決を煽った方が、数字は取れると思うのだ。

 もっとも大介の選手寿命を考えれば、次のスターはほしいのだろうが。


 例年ならば複数球団から指名される、ピッチャーが高校生に他にもいる。

 獅子堂、真田、中浦、中浜といったあたりのピッチャー。

 このあたりはバッターとしても評価が高いので、どう判断していくのかが重要だ。

 バッティングに関して言うなら、福岡の風見がいるだろう。

 レックスは打線を考えるなら、風見を取ってもおかしくはない。


 ライガースはやはり、真田の甥ということで、真田新太郎を一本釣りするだろうか。

 おそらく一巡目であれば、それも可能であろう。

 獅子堂、中浜、中浦はハズレ一位で、一巡目に消えると思う。

 大学生や社会人が不作なわけではないが、このあたりの高校生が豊作過ぎるのだ。




 鬼塚としてはアルトの行き先が心配である。

 ただ地元の千葉に加えて、レックスもかなり重点的に見ている。

 三位までには消えるだろうな、と考えているのだろうが、レックスとしては欲しいのは、果たしてどのポジションなのか。

 とりあえず緒方の次は、絶対に必要だろう。

 一時的には小此木を置いて、どうにかすることも出来るだろうが。


 ドラフトというのは高校野球ファンにとっては、甲子園を熱くさせた選手が、どこに行くのかを決める場所である。

 もっとも兵庫の、真田兄弟は既に、関西のリーグにセットで内定が出ているらしいが。

 体格などを考えて、大学野球でも通用すると見せないと、ドラフトにかけるのが難しいのだろう。

 かなり技巧派でもあるし、またキャッチャーの評価は難しい。


 鬼塚としては二人がどこに行くかを決めて、それが望ましい場所であるならばいい、と思っている。

 昇馬などは出来れば、このまま千葉に入れるなら、それが一番だと思う。

 高卒は最初、寮に入ることになっている。

 だが昇馬の場合は、すぐに一軍で活躍するようになるだろう。

 すると埼玉から通うのは難しいので、また千葉に出来たもう一つの寮に、移ってくる可能性が高い。


 アルトは将来の、メジャー行きを考えた方がいい。

 するとやはり、パ・リーグの方が望ましいか。

 セでもポスティングを容認しているチームは多いが、タイタンズもライガースも、やや消極的なところがある。

 その点ではレックスも悪くはない。


 ただこういった取らぬ狸の皮算用は、全て二人が甲子園で、問題なく活躍することが重要となる。

 そのため集めた試合の動画と、データをじっくり眺めていくこととなる。

「瑞雲が強いかもな……」

 桜印は別格として、高知の瑞雲もかなりの注意が必要だろう。

 元々中浜を擁しているここは、一年の夏や先ごろのセンバツで、対戦している。

 しかしそのセンバツは、問題なく勝ってはいるが、中浜はまだ成長通で追い込みが出来ていなかったとも聞く。

 高知大会では、エースとして君臨していて、さらにホームランも五本打っている。


 150km/hオーバーの選手であり、身長も2mほどある。

 だが本質的には、バッティングの方が向いているのではないか。

 同世代にはとにかく、とんでもないピッチャーがたくさんいる。

 昇馬を筆頭に将典も、10年に一度レベルのピッチャーなのだ。


 打てる選手が揃っているということは、自然と強くなるということだ。

 エース一枚に頼っていては、甲子園を勝ち抜くことは難しい。

(どういうトーナメントになるか、それが問題なんだよな)

 一回戦で桜印とは当たらないはずだが、二回戦では当たる可能性がある。

 白富東は比較的、強いチームとばかり当たることが多かった。

 このあたりのくじ運の悪さは、いったい誰のものであるのか。

 10年に一度の、スターが揃った甲子園と言われている。

 灼熱の舞台が、また始まろうとしているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る