第47話 一年紅白戦
30人の新入部員があり、選手志望も20人以上。
春の県大会、またそこから続く関東大会に向けて、一年生からもレギュラーを出すことは充分に考えられる。
和真は鬼塚も知っている即戦力である。
センターにアルトが入っているので、ポジションはレフトにするべきか。
足もあるので上位に持ってきてもいいかな、と即戦力で間違いない。
他の選手もシニアで、それなりに有名だった選手が数人いる。
またピッチャーであった選手が六人もいた。
ただしサウスポーは一人だけ。
もっとも一人もいれば、公立の高校としてはありがたい限りである。
実際の実力を見てみたい。
数日軽い練習をして体力測定の結果などからも、紅白戦をさせてみることにした。
新入生が入ってくるまでは、分析班にも出てもらわなければ、紅白戦など出来なかった。
ちなみに部活紹介の期間の後に、さらに数名が入ってきた。
全員に機会を与えるために、紅白戦を行う。
どちらもおおよそ、戦力が均衡するようにする。
ここでアピール出来れば、春の大会からベンチに入ることが出来る。
鬼塚は和真以外にも、数人はベンチ入りを考えている。
実際に鷺北シニアからは、レギュラーでありながら、他の強豪に行かなかった選手がいるのだ。
野球のキャリアを逆算して考える、というものはあるのだ。
プロを目指すというのが、野球のキャリアの上がりではない。
野球によって大学に進学するとか、社会人までやるとかいった、選択肢がある。
また選手によっては、極端に早熟であったりする選手もいる。
シニアまではとんでもない逸材だったと思えても、高校からは伸び悩む。
強豪の特待生であっても、プロにまで行くのはせいぜい、年に二人か三人といったところだ。
白富東の場合は、名門の公立校というだけあって、大学への推薦枠が多い。
そのあたりも考えれば、野球のやり方も変わってくる。
プロ野球に対する幻想が、昔よりもずっと薄れてきているのだ。
現実的に考えて、シニアの段階でおおよそ、もう可能性は限定されている。
フィジカルからその未来は、おおよそ見えてしまっているのだ。
もっとも今の投打の最強選手は、共にそこまでの体格ではない。
鬼塚としては自分がコーチをしていたシニアからも、数人の選手が入ってきてくれたことが嬉しい。
ただ一年のこの時点で、即戦力とまではいかないのだ。
ピッチャーも六人いるが、そもそも左は昇馬と真琴の二人がいる。
右も昇馬とアルトの二人がいるではないか。
……三人しかいないように見えるのは気のせいである。
紅白戦はおおよそ、戦力が均等になるように分けたつもりである。
ピッチャーは一人あたり3イニングまで。
バッターも多くて三打席までとなる。
(さすがにピッチャーで、強豪に行くような子はいないか)
鬼塚としては、さすがにそうだろうな、という気持ちである。
ただ軟式出身の中に、スピンのいいストレートを投げる一年生はいた。
そしてもう一人、注目していたサウスポー。
こちらはなんと、ほとんどサイドスローに近いフォームで投げている。
最速のピッチャーが、一年の春の時点で、120km/hぐらい。
昇馬やアルト、そして真琴を見てると錯覚するが、本来なら充分なものなのだ。
この紅白戦、圧倒的に有利なのはピッチャー。
3イニングなら強打者相手でも、二打席までしか勝負はない。
困ったことが一つある。
キャッチャー志望が一人しかいない。
なのでここは三年生が、守備だけは入っていく。
そして試合が始まった。
まだ数日しか練習していないだけあって、軟式出身者であるとボールが手に付かなかったりする。
ただこの数十年で、中学からシニアでやるという人間は、随分増えたと思う。
中学の野球が部活から、習い事に変化した。
もっとも今でも、部活軟式から高校に、引っ張ってこられる人間はいる。
シニアの世界というのは、学校の部活よりもずっと、金がかかるものなのだ。
中学校時代は他のスポーツをしていて、高校から野球を始める、などという稀少なパターンもないわけではない。
運動能力が圧倒的であれば、他のスポーツで鍛えられた肉体が、あっという間に野球に最適化される。
ちょっと違うが昇馬などは、他に色々なスポーツもやっているからこそ、今のパフォーマンスを発揮していると言える。
たとえば無尽蔵とも思えるスタミナは、登山などで鍛えられたものだろう。
とんでもないスピードを発揮させる競馬など、馬には相当走らせるトレーニングをしていると思う者が多いだろう。
しかし実際は歩くだけという運動を、ずっとやっていたりもするのだ。
新入部員に関しては、体力測定も行った。
他には過去のスポーツ歴や、親兄弟のスポーツ歴に、身長体重まで記載させたりする。
データは多ければ多いほどいいというわけではない。
だがどう育てれば一番いいのか、それは選手によって違う。
鬼塚が迷うのは、その判断がなかなか分からないからだ。
去年までの白富東は、人数が少なかった。
なので全員の違いに合わせて、課題を作ることも出来た。
しかし一気に人数が増えて、これを管理していかないといけない。
ただ白富東は、幸いなところもある。
真の意味でのマネージャーとも言える、情報班の部員がいることだ。
体力測定とここまでの数日の練習に、この紅白戦。
様々なデータはそれなりに取れている。
ネットの上部に着弾したらホームラン。
そういった打球が何度か出ている。
和真はレギュラーで問題ないだろう。
ただポジションの問題をどうするか、それは考えないといけない。
ショートの鵜飼は、守備は抜群で足もいいし、さらには肩も悪くないのに、全く打てない。
だがこのポジションは、彼に任せるべきであろう。
和真は外野のレフト、また他に数人打撃の良さそうな一年生はいる。
だが一番ほしい、昇馬のボールを捕れるキャッチャーはいない。
ここから一年少しかけて、育てるというのも難しい話。
単純に捕るだけなら、アルトでも捕れるわけだ。
白富東はとにかく、守備だけは確かに全国レベルなのだ。
もっともそれも、一年生たちが夏までに追いつけないこともない。
数人はベンチに入れるが、スタメンで変わったのは和真ぐらい。
それでも昇馬のボールには、全くついていけない。
160km/hを打てる、高校一年生というのはちょっといないだろう。
昇馬自身でさえ、自分の球は打てないはずだ。
春の大会は、特に県大会などで、一年生の出番を作っていく。
最悪関東大会には、出られなくても問題はない。
ベスト16に入れば、それでシードは取れるのだ。
そしてよほど変なことが起こらない限り、トーナメント表ではベスト4まで進める。
昇馬ばかりが注目されるが、アルトも球速を順調に上げている。
150km/hには達していないが、140km/h台の後半は出ているのだ。
それでも基本的には、外野を守らせる。
守備範囲も肩の強さも、はっきりと外野向けであるからだ。
新入生が加わったことにより、一枚スラッガーが増えた。
もっともホームランの打てる和真でさえ、まだ発展途上であるのだが。
今年の夏に間に合うかは、微妙なところであろう。
しかし来年の夏、昇馬たちの最後の年には、かなりが主力になってくると思われる。
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