第40話 さすがのセンバツ
センバツという名前がつくだけあって、本当に弱いチームは少ない。
それでもやはり一回戦ぐらいは、ある程度の差がついていた。
しかし白富東の二回戦の相手は、またも尚明福岡。
そしてそこを勝っても、瑞雲と花巻平の勝者が、準々決勝の相手となる。
瑞雲も花巻平も、ハイパーつよつよ一年生ピッチャーの力で、去年の夏は注目されたものだ。
そして瑞雲がもし勝ち上がってきたとしたら、去年と同じ対決になる。
なお準決勝に上がってくるかもしれないのは、桜島実業、大阪光陰、仁政学院、桜印の中のどれか。
反対の山には帝都一や上田学院が残っているが、ともかく強豪ばかりが残っているのが、二回戦の時点で確定である。
そして六日目からは、いよいよ二回戦が始まる。
現在のセンバツの日程は、基本的に準々決勝以外は一日に三試合まで。
準々決勝だけは、一気に四試合をやらなければいけない。
この六日目、対戦カードはまず帝都一と理知弁和歌山の対決。
去年の秋の和歌山大会では、紀伊高校の畠山を下したのが、理知弁和歌山である。
ピッチャーをしっかりと育てるというのは、かなり難しいことだ。
だが部員数が多い強豪では、それなりに強い打線を育てるのは比較的簡単だ。
もちろんその中から、本当にプロでも通用するバッターというのは、そうそう出てくるものではない。
しかし理知弁和歌山は、今年は打撃のチームではある。
対する帝都一は、あくまで全国制覇を目標としている。
エースの長谷川は当然のように、プロのスカウトからの注目を浴びている。
毎年のようにしっかりと、エースをしっかりと育てていくあたり、ジンの監督としての手腕は優れている。
もっとも本人は、キャッチャーをこそ育てようとしているのだが。
今のNPBのキャッチャーには、ほぼ全試合でマスクをかぶるというキャッチャーが、数人しかいない。
だいたい併用するのが、今の流行であろうか。
データ野球が昔よりも、さらに浸透している。
そのため一人のキャッチャーが、全てのデータを把握することが、昔よりもさらに難しくなった。
樋口などは簡単にやって、さらにバッティングまでやっていたので、本当にずば抜けた存在であったのだ。
今のキャッチャーで一番バッティングがいいのは、誇張でもなく迫水であるかもしれない。
だが高校の段階であれば、自軍のピッチャーもせいぜい、五枚まで把握しておけばいい。
相手の打線のデータにしろ、おおよそはベンチで理解している。
ただキャッチャーボックスの中からしか、感じ取れない何かというのはあるのだ。
キャッチャーとして優れていて、さらに打つことも出来る選手。
多くの選手をプロに送ってきたジンであるが、キャッチャーで高卒からそのままプロに行ったのは、一人しかいない。
去年のセンバツも優勝している帝都一と、地元近畿勢の対決。
これは当然のように盛り上がるものであった。
ただし理知弁和歌山の得意とする、ハイスコアゲームに持ち込ませないことが、帝都一の戦略。
エースの長谷川は特に、緩急で理知弁打線を揺さぶった。
一回戦で好投手の中浦から、ホームランを打っている司朗。
当然ながら警戒されていたが、それならそれでやりようはある。
充分にボールを選んで、難しいところはカットしてしまう。
そしてピッチャーが自信を持って投げ込んだ、アウトローのストレートを逆らわずレフトスタンドへ。
またもソロホームランを放り込んだのである。
確かに見た目にも、少し体は分厚くなっている。
だが甲子園での通算本塁打数は、かなり増えてきている。
大介にはさすがに及ばないが、あれは二年の夏の桜島が、絶対に勝負を避けないという、狂気の路線で進んでいたからだ。
ガッツリホームラン数を稼いで、また準決勝でも決定的なホームランを打っていた。
四大会しか出場していないのに、30本以上のホームラン。
さらに言うなら最初のセンバツでは、一回戦と二回戦で、五本のホームランを打っていたのだ。
あれに比べれば普通。
そうは言ってもこの試合、司朗の活躍が光った。
確かに長谷川も、立派な内容のピッチングをしている。
しかし三打席目と四打席目、敬遠気味にフォアボールで塁に出た司朗は、そこから二つの盗塁を決めたのだ。
パワーは増したが、代償として足のスピードを失う選手というのはいる。
だが司朗は完全に、バランスのいいアスリートタイプの選手となっていた。
去年の夏も、スラッガーの片鱗はあったものの、それよりは打点の多さが目立った。
今の司朗は完全に、チャンスではない時こそ自分で、一点を取ってしまうバッターになっている。
ただしこのパワーアップは、まだ完全に完了したわけではない。
終盤に入って、ある程度帝都一がリード出来た。
そのため長谷川は温存し、他のピッチャーで理知弁和歌山の打線と対決する。
最終的なスコアは、7-2というもの。
強力打線を二点までに抑えたのだから、完全に帝都一の貫録勝ちといったところか。
ジンは全盛期の大阪光陰や白富東でも不可能であった、甲子園五連覇を目指していたのだ。
それは去年の夏、白富東に負けたことにより、もう果たせなくなった。
しかし司朗のいるこの春と夏は、やはりまだ狙っていける。
実際にピッチャーの力も、相当に優れているのだから。
ただ強いチームが続くと、ちょっと難しくなるのが選手の獲得である。
あまりに強くなりすぎると、同じ東京であるだけに、チーム内の背番号争いも厳しくなり、西東京やもう少し競争の緩いチームに行ってしまうのだ。
ずっと毎年、全国制覇を狙い続ける。
それがどれだけ難しいか、ジンは分かっているつもりだ。
白富東が全盛期と言えたあの時代、よくも秦野などは監督が出来たものだ。
もっとも白富東には、帝都一と違って面倒な、OB会などというものはなかったのだが。
二回戦も勝利した帝都一であるが、準々決勝の相手は、またも近畿勢である。
滋賀県代表の淡海高校。
私立の強豪であり、これまでにも何度も甲子園には出場している。
ただ滋賀県というのは、実は近畿において唯一、優勝経験がなかったりする。
それなりに強豪はいるし、チーム数が圧倒的に少ないわけでもないのに、これは少し不思議なことだ。
おそらく理由としては、その地理的な要因にあるのだろう。
滋賀県は近畿地方の中で、最も北東部に存在する県だ。
よって応援団を送り込むにも、手間がかかるというわけだ。
もう一つも地理的な要因である。
滋賀県は特にその北部、積雪が多いのが昭和ぐらいまでであった。
今はそれほどでもないが、グラウンドを使える期間が、やや短いというのもあるだろう。
どちらも決定的な理由ではない。
ただ雪というのは、東北や北海道、北陸のチームが優勝しにくいという、理由付けの一つにはなっていた。
帝都一としては、理知弁和歌山に続いて、またも打撃のチームが相手である。
そして最終的には、準決勝では上田学院が上がってくるのではないか、とも思っている。
神宮大会にも出場していた上田学院。
新二年生エースの真田は、あの真田の甥にあたる。
同じく出場している仁政学院の真田とは、従兄弟の関係でもある。
ただ上田学院は、かなりスモールベースボールに近い。
エースを中心として守り、そして走塁を重視しているのだ。
だがそれまでに上田学院は、大阪の理聖舎と当たることにもなっている。
大阪代表はどこであろうと、あの激戦区を勝ち抜いてきているチームだ。
東京や神奈川以上に、甲子園においては強い。
またも近畿勢と戦うよりは、上田学院の方がいいのではなかろうか。
帝都一はそんなことを考えている。
だが白富東から見れば、トーナメントの反対側の話。
センバツ七日目、第三試合。
白富東と対決するのは、福岡代表の尚明福岡。
昨年の夏も対戦し、昇馬にヒット一本に抑えられたチームである。
だがそれだけに、逆に戦意は高いチームでもあるのであった。
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