第38話 楽しい抽選会
センバツというのはどうしても、夏に比べれば注目度が低い。
それでもスターのいる大会は、充分な観客が入ることもある。
抽選会の前の段階で、明らかになっている出場校。
東京からは都立が出てきて、珍しいこととなっている。
他に珍しそうな現象を見てみれば、和歌山から二校が出場となっている。
もっとも和歌山は元から強豪が少ないので、それが勝ち残る可能性は充分にあるのだ。
奈良なども二強だし、高知なども二強。
白富東は一時期、完全に千葉の一強であった。
京都からも二校が出場している。
これは片方が21世紀枠で、それでも府大会のベスト4にまでは進んでいるらしい。
エースが一人で頑張ったらしいが、あまり実績のない公立校。
そんなところからも強いピッチャーが登場するのか。
ただ甲子園では、エース一枚で勝つことは難しい。
昇馬レベルならば別の話だが。
到着から早々に、抽選会が行われる。
去年の白富東は、本当に強豪や地元ばかりが相手となって、よくも優勝できたものだという対戦が続いた。
それに比べれば今年は、まだマシと言えるであろうか。
「和歌山県から二校って珍しいな」
誰かが言ったが和歌山や奈良、あとは高知なども二強であるため、案外ありうることなのだ。
それにそこは21世紀枠が適用されることもある。
他には今年、大阪も二校が選出されている。
ここは実力的に、妥当な私立が二校、近畿大会で勝ち残っただけだ。
一回戦からいきなり、帝都一や桜印と対戦することも、ありうるのが高校野球である。
シードがないという点では平等だが、どうしても偏りは存在するのだ。
ただ今回、その運の偏りは白富東の有利に働いた。
一回戦はその、21世紀枠の和歌山の高校との対戦となったのだ。
「総合力ではうちが勝ってると思う」
「珍しい」
鬼塚の言葉に、真琴がまぜっかえす。
だがいつも言われていることなのだ。総合力では明らかに負けていると。
「紀伊高校は文武両道を謳い文句にした、どちらかというと進学校なんだよな。だけど去年の秋、私立を破って決勝まで進んだ」
この原動力となったのが、新三年生のエースで四番の畠山である。
中学時代からそれなりに優れた選手ではあったが、名門校に特待生で入るほどではなかった。
そのため進学校でもある紀伊高校に進学したのだが、ここで上手く成長してしまった。
和歌山が比較的、チーム数の少ない県であることも、運が良かったと言えるであろう。
おそらく夏には、この甲子園にやってくることは出来ない。
バッティングもピッチングも、昇馬より少し落ちる選手が中心となっている。
ほぼワンマンチームであり、おそらく夏は相手の油断もなく、甲子園に出場することは難しいだろう。
一応は21世紀枠ではないため、近畿大会の映像が残っていないわけではない。
「一応和歌山二強の片方には勝ってるし、近畿大会もベスト8に残ったから、弱いわけじゃない」
鬼塚は確認するが、だが絶対に全国では優勝できないチーム力である。
それだけにデータが少ない。
そして一回戦を勝てば、おそらく次は尚明福岡が対戦相手となる。
あちらは一回戦を突破して、校歌を歌うことを、全力で目指してくるだろう。
総合力では勝っているし、エースとしても昇馬が勝っているだろうが、それだけに戦いにくい相手だ。
甲子園ではどうしても、近畿地方に中国四国あたりが、地元の人気がある。
去年の夏の全国制覇を果たしたチームに、ワンマンエースの引っ張るチームが挑む。
この構図を見てみれば、とても分かりやすい地元が贔屓しそうな組み合わせだ。
しかし昇馬はライガースのスター大介の息子で、去年の夏のスーパースターでもある。
決勝までの全試合で完封し優勝などというのは、そもそもありえないものである。
あの上杉でさえ、そんなことは出来なかったのだ。
相手チームの四番でエースを、こちらの一番エースが上回っている。
向こうのピッチャーも150km/hを出しているといっても、昇馬に比べれば平均的だ。
高校二年生の春で、もう162km/hを出しているのが昇馬だ。
もっとも春のセンバツで、しかも一回戦であるのだから、ペース配分をしていくかもしれないが。
とりあえず一日目が始まる。
白富東は守備やバッティング、そしてピッチングのために、小さなグラウンドを確保しておいた。
ただ一日目の第一試合は見ないわけにはいかない。
青森代表の青森明星と、帝都一の対戦。
青森明星の中浦が、果たしてどれだけ成長しているのか。
そしてこれを司朗を中心とした帝都一が、どうやって攻略していくのか。
「3-1か4-2で帝都一かな。それに勝負は終盤にもつれ込むと思う」
その鬼塚の予想は、ほぼ正しかった。
帝都一は二回の表、先頭打者の司朗がソロのホームランで先制した。
しかしすぐに追いつかれて、1-1となる。
七回までその均衡は破れることがない。
しかし司朗は八回、四打席目でまたもソロホームラン。
さらにそこから一点を追加した。
青森明星は一点を返したが、そこまでが限界であった。
3-2で帝都一の勝利。
「中浦のスタミナが、課題になるだろうな」
超長身の中浦は、ストレートを150km/hに乗せてきた。
しかし安定して投げていたのは、148km/hぐらいである。
カーブとスライダーのコンビネーションは、終盤まで司朗以外を、ほとんど封じてみせた。
ただ司朗に二本目のホームランを打たれて、そこで切り替えられなかったのが、この試合の肝となったのだ。
開会式のあった一日目は、残り二試合。
地元近畿勢の理知弁和歌山と、滋賀の淡海高校が勝利した。
帝都一と青森明星の対決からスタートし、近畿勢が2チームもあった初日、かなりの観客が動員された。
ただチーム力や応援の動員などでは、順当な結果になったと言えようか。
二回戦で帝都一は、理知弁和歌山との対決となる。
近畿大会も打撃力で、ベスト4にまで進んだ理知弁和歌山。
ここでも帝都一は、チーム力なら上回る、と評価されるのだ。
白富東が帝都一と当たるとしたら、それは決勝になる。
そこまでお互いが残っているとは、限らないのが高校野球だ。
ただもしも当たるとしたら、お互いにデータがそこそこ揃っていく。
二日目以降も、おおよその番狂わせはなく大会は進行していく。
21世紀枠で出場した東京の都立も、一回戦で岡山の強豪と当たって姿を消した。
そして同日の第三試合、白富東がついに登場する。
どちらのチームも主力選手は決まっている。
だが鬼塚としては、油断さえしなければ勝てると思える試合だった。
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