第27話 新チームの機能

 大差で勝つか僅差で勝つか、極端な試合ばかりになっている新しい白富東である。

 勇名館戦も決勝の東雲戦も、結局は昇馬の力が大きかった。

 まあ終わったことは終わったこととして、トーナメント表を何度も眺める鬼塚。

 自分たちの時は、軽く神宮まで勝ってたよな、という記憶を思い出す。

 そもそも一学年上の世代は、秋の初戦から夏が終わって国体まで、年間無敗であったのだから、付き合わされた鬼塚も無敗なのは当たり前だ。


 ただ鬼塚としては今年の場合、関東大会のベスト4に入って、センバツ枠に入っていればそれで文句はない。

 反対側の枠には東雲とトーチバがいるが、それぞれ初戦で栃木一位と茨城一位と対戦するので、ベスト4まで両方が残ることはないだろう。

 もしどちらかが残ったとしても、ベスト4に千葉が2チームでも、普通に選ばれてきたのがこれまでのセンバツだ。

 3チームとなると問題だが、さすがにその可能性は低いし、もしも残っても県大会で白富東が優勝している事実もある。

 昇馬がいる白富東を、選出するのは当然であろう。

(問題は一回戦と二回戦、ちゃんと勝ってベスト4に残ることだ)

 一応そこで、桜印と当たる。

 そろそろ負けてもおかしくない、チーム力の差がそこにはある。


 日程を考えれば、ベスト4にまで残ったら、土台から選手たちを鍛えていきたい。

 まずは練習試合を繰り返し、課題を浮き彫りにしたいのだ。

 春のセンバツに間に合わせるためには、この冬が重要となる。

 ただ純粋に戦力の三分の一が減った白富東に比べると、他の強豪はせいぜい二割といったところか。

 とにかく選手層が厚いために、三年生が引退しても、すぐに下級生が台頭してくる。


 白富東は一応、体育科があるため県内のどこからでもと、学区に隣接する県から入学してくることが出来る。

 ただ特にピッチャーの取り合いなどは、鬼塚が現役であった時代よりも、さらに露骨になっている。

 一つの学校だけでは人数が足らず、合同チームでの参加も多い。

 昔からそういうことはあったが、最近は特に多くなってきている。

 一応は少子化の割に、野球人口の減少が止まった時代もあったのだ。

 しかしあの二人がMLBに行ってしまってから、やはりまた競技人口が減り始めた。


 二人がNPBに戻ってきて、野球人気が復活したか。

 確かに下げ止まりはしたが、再び爆発というのはライガースぐらいだ。

 やはり時代が変われば、新たなスーパースターが必要となる。

 この数年の高校野球には、確かにスターが現れている。

 ピッチャーが注目されがちな高校野球だが、今は高校野球でも継投が主流になってきた。

 なのでバッターの司朗に、注目が集まってきたりはしている。


 司朗も昇馬も、MLBに行ってしまうのだろうか。

 司朗はともかく、昇馬はなんとなくアメリカ向きだとは思う。

 もっとも鬼塚は、司朗に関してはさほど知らないのだが。




 セカンドのスタメンは、現在聖子が固定化されている。

 内野の中で一番、身体能力が必要なのが、ショートとされている。

 実際にアメリカなどでは、ピッチャーではなくショートが花形の守備ポジションだ。

 しかし実際に、一番難しいのはセカンドとも言われる。

 もっと正確に言えば、昔よりも難しくなっているというところだろうか。


 昭和の頃などはライトなど、バッティング以外には出来ない選手が、そこに置かれているとまで言われていた。

 そんなはずはないだろう、と思う人は年配の人間に聞いてみればいい。

 ガチ野球勢はともかく、ちょっと野球をやっていただけならば、ライトは打撃専用ポジションだった、などと言ってくる人間がそれなりにいる。

 あとは内野ならば、ファーストはやることが少ない、などとも言われていた。

 実際のところは、内野の中ではもっとも、ボールに触れる機会は多い。

 ゴロをアウトにするためには、ファーストに投げなければいけないからだ。


 スモールベースボールが浸透していくと、どのポジションでも守備に穴は空けられない。

 特に左バッターが増えてくると、右方向に打って行く打球も増えた。

 ダブルプレイを防ぐために、右方向に打つというのも、それなりに増えてきている。

 投内連携においては、ファーストが前に出て打球を処理し、ピッチャーかセカンドがベースに入るというのは多く見られる。

 ファーストが送球をキャッチできればそれでいい、という時代は終わったのだ。


 バッターは左が有利、というのは随分と前から言われている。

 実際に左バッターは、どんどんと増えていっているのだ。

 一方でプロの世界では、右の大砲が欲しかったりもする。

 なにせピッチャーが、本来は右利きなのに、ピッチングだけは左でするという選手も増えたからだ。


 それにしても、選手層が薄い。

 春から夏にかけては、必死で鍛えてきた鬼塚である。

 だが圧倒的に数が足りていない。

 データ班まで入れても、充分にベンチに入ってしまうのだ。


 高校野球レベルなら、確かに中核メンバーだけで勝つことは出来る。

 リトルなどの大会であると、またリトルでなくても日本以外であると、選手を全員出すのが常識になっていたりする。

 子供の頃からそこまで勝ちにこだわるというのは、本当に日本ぐらいではなかろうか。

 そもそも日本の場合は、野球による進学ルートというのが強力である。

 甲子園に出たということが、推薦では有利になるのだ。

 そして大学の野球部の派閥が、そのまま大企業の中に存在していたりする。


 野球は人生を変えるのだ。

 実際問題、社会人野球にでも進んで、そのまま定年まで勤めたとしたら、下手なプロ野球選手より稼ぐことが出来る。

 多くのプロ野球選手は、平均すれば野球で多くを稼げるわけではない。

 ノンプロチームを抱えるような会社の、サラリーマンは最強なのである。

 しかも下手をすればそのまま、チームのコーチなどにもなれたりする。

 ただ最近は、ノンプロのチームは減ってきてしまっているのだが。




 そういった事情は、プロの高卒で入ってから知った鬼塚である。

 自分のようなタイプの人間は、大学野球では絶対に通用しないな、と思ったのが大きい。

 上下関係が年齢ではなく、実力で存在した白富東。

 その上下関係もゆるゆるであったため、鬼塚はのびのびと野球が出来た。

 おかげで地元枠として、そのままマリンズに入団。

 そのマリンズが今年は、日本シリーズでレックスと対戦することとなった。


 関東大会と日本シリーズが、ほぼ完全にかぶさった日程。

 もっとも神宮とマリスタが使われるので、関東大会を行う神奈川には関係がない。

 そもそも神奈川県は、歴史のあり野球場が随分とあるのだ。

 分散して試合を行うため、一回戦と二回戦の間に、中一日しかない。

 ただそこから準決勝までには、中三日の休養がある。


 プロの世界に慣れた鬼塚としては、過酷な日程だなと思う。

 ここで壊れなかったピッチャーだけが、プロに入ってくるのだ。

 ただ成長期のピッチャーというのは、壊れやすいというのも確かである。

 故障の多いスポーツなどは、親などはやらせたくはないであろう。

 もっとも本場のアメリカなどでは、危険なアメフトの方が人気はあったりする。

 選手生命の短さでは、野球よりもはるかに問題があるらしいが。

 衝突が多いので脳にダメージが伝わり、実際に統計でもはっきりしている。


 プロとなって、そしてアマチュアの指導者にもなって思うのは、日本における野球という存在の歪さだ。

 サッカー人気だとか、バスケ人気だとか、それは確かにそうなのだろう。

 だが日本の中高年以上の、社会的な地位を持っている人間は、野球を特別視している。

 大学野球の人数が、増えているのもそれと関係しているのか。

 派閥というわけではないが、同じ大学出身ということで、つながりを持っている人間は多い。

 鬼塚の先輩のジンなどは、それも考えて帝都一の監督をやっている。


 それに鬼塚は勝ってしまった。

 完全に選手のおかげであるが、全く働かなかったというわけでもない。

 つくづく野球というのは、負けたら監督の責任となるスポーツだ。

 しかし選手の責任にしてしまうよりは正しいだろう。

 偶然性が高すぎる、と直史などは言っていた。

 あんたが言っても説得力がない、と鬼塚は思ったものだが。


 ともあれ、関東大会が始まる。

 先発は昇馬で、先頭バッターも昇馬。

 試合の行方の九割は、昇馬の調子次第。

 ただ昇馬は自分のコンディションを調整するのが、野生の動物的に上手いところがある人間であった。

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