第25話 関東の覇権

 関東の覇者はどの都県であるか。

 野球マンガを調べてみたら、おおよそは東京になるだろう。

 だがかの偉大なドカベンは、神奈川が舞台であった。

 実際に神奈川は、近畿を除けば愛知や東京と並ぶ、野球強豪である。

 昨今では埼玉がそれなりに舞台となることも多く、千葉は基本的に少ない。

 あくまでもフィクションの話である。


 現在の神奈川県は、関東では東京と並ぶ強豪地区であるのが事実だ。

 同じく強豪の大阪に比べると、新陳代謝がそれなりに大きい。

 ただ古くからの名門もあれば、復活の古豪もある。

 その中では桜印は、復活した古豪と言えるであろう。


 夏の大会は甲子園に出場し、ベスト8に進出。

 そこで優勝した白富東に負けているが、ピッチャー同士の対戦ではほぼ互角に近かった。

 ただしノーヒットノーランで負けたので、そこは考慮すべきであろう。

 一点もやらない投手戦をするのが、まず勝利への第一歩。

 しかし野球というのはよほどのピッチャーであっても、県大会上位にまでくれば一点ぐらいは取られるのだ。


 それが分かっていても、一点もやりたくないというピッチャーが、高校レベルのエースである。

 だいたいプロの壁に阻まれて、最初にある程度は挫折する。

 だが野手に比べればピッチャーは、まだしも高卒で通用する人間が多い。

 一年目から一軍のスタメンで、三冠王を取ってしまった大介であるが、そんな人間はもう現れないであろう。




 桜印学園は秋季神奈川県大会を、無事に優勝した。

 戦力的には足りていても、甲子園に行っていただけ新チームは、始動が遅かったというのはある。

 だが甲子園を経験してきた、一年生エースはさらに成長している。

 そして敗北した相手を、今度こそ倒そうと思っている。


 千葉県と同日に行われた、神奈川県大会決勝。

 試合中はピッチングに集中していた上杉将典であるが、それが終われば気になることは一つ。

「千葉の試合はどうなったんですか?」

「ああ、あちらも終わったな」

 桜印の監督早乙女も、試合が終わればそちらを気にしていた。


 千葉県大会は、白富東が優勝していた。

 決勝はこれまた甲子園経験のある東雲で、同じ一年生エース同士の対決となったらしい。

 だがそのエース同士の対決が、結局は勝敗を分けた。

 昇馬はピッチャーだが、同時にスラッガーでもある。

 ホームランを一本打って、他にもう一本ヒットも打って、スコアは1-0で白富東の勝利。

 もっとも東雲のエースも、全部で被安打四本と、かなり健闘はしたのだ。


 詳細な分析はともかくとして、これで関東大会に出てくることは決まったし、その一回戦では当たらないことも決まった。

 優勝校は他県の優勝校と、一回戦では当たらないシステムになっているからだ。

「関東大会まで10日ちょい、実際に当たるまでには二週間ぐらい……」

「今度はこちらに、ホームのアドバンテージまであるぞ」

 早乙女の言葉に、桜印の選手たちは頷く。


 前日の三位決定戦で、横浜学一が勝利しているため、神奈川県から出て行くのは、3チームとも全て全国優勝の経験がある学校となる。

 もっともその中では、桜印が一番、過去の実績では劣っていたが。

 東名相模原や横浜学一は、複数回の全国制覇の経験がある。

 どちらも甲子園で、ベスト4ぐらいには簡単に残ってしまう実力があるのだ。

 もっとも甲子園は、一回戦から優勝候補同士の対決が、ありうるという魔境の世界でもあるが。




 桜印が白富東を、いや昇馬を苦しめたのは間違いない。

 120球も投げさせたのは、夏の大会の中でも一番多い球数であった。

 またランナーも、デッドボールで二人出している。

 際どいところのボールだったので、怪我になるほどの当て方ではなかったのが幸いだが。


 しかし出たランナーはその二人だけ。

 あとはヒットを一本も許さない、ノーヒットノーランで封じられたのだ。

 もっともその後の仁政学院はパーフェクトを食らっているし、他の試合でもヒットは打たれて二本まで。

 とんでもない怪物であり、デッドボールでむしろ萎縮してしまったというところはあるだろう。


 だが、あれとあと二年は戦うのだ。

 夏の甲子園だけではなく、春のセンバツを争うために、あと二回は関東で対戦すると考えた方がいい。

 同じ関東でも東京とは、別枠での出場となるのが春だ。

「ただやはり、チーム力はかなり落ちてるみたいだな」

 夏も県大会は、多くがコールドで勝っていたし、この秋もコールドで勝っている試合はある。

 しかしベンチから出てくる、控えのメンバーが少ないのだ。


 たったの20人しかいない強豪野球部。

 マンガじゃないんだぞ、と早乙女は言いたくなる。

 もちろん現実では、それよりも少ない人数で、甲子園を制したチームもあるのだが。

 しかし白富東は、情報班という野球研究をメインとし、基本的に試合には出ない選手がいるのでも有名だ。

 既にこの年齢から、野球おじさんの素質を開花させていると言っていいだろう。


 白富東を倒すには、どうすればいいのか。

 それはもう単純なことで、昇馬を抑えて昇馬から打てばいい。

 あとはどのくらい、クジ運があるかということだろう。

 関東大会は基本的に、準決勝と決勝しか連戦はない。

 他は日程を調整して、中一日は空くようになっているのだ。

 そもそもベスト4にまで進出してしまえば、それでセンバツはほぼ決定する。

 そう考えればそこまでを、苦しい日程にしないというのは、分からないでもない話だ。


 だが桜印もだが、他にもセンバツを目指すチームは、昇馬の攻略を第一に考えているだろう。

 その中では桜印は、春の関東大会と、夏の選手権と、二度も負けているチームである。

 他に県内であれば負けているチームは、他にもいることはいる。

 県大会などは勝ち抜いていけば、準決勝や決勝は、かなり似たメンバーになるだろうからだ。


 昇馬は秋の大会は、相変わらず無失点である。

 公式戦では無敗というのを、ずっと続けているのだ。

 だが練習試合で、早大付属のBチームに破れたという話は耳に入っている。

 チーム力の低下を、昇馬のピッチングでは補いきれなくなったということだ。

(そんな状態の相手でも、油断したら負ける)

 エース上杉と、監督の早乙女。

 二度も負けているという点では、帝都一と並んで、白富東に全力を注ぐつもりのチームであった。

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