第16話 連勝の記録

 ダブルヘッダーでベネズエラ戦を終わらせたため、日本は一日休養日となっている。

 既に決勝進出を決めている日本は、その決勝のオーダーも決めていた。

 先発はここまで、見事に無失点のピッチングを見せている佐上。

 もっとも真琴もまた、ピッチャーとしては無失点であるのだが。

 基本的には一日の休みがある、真琴と三園にもリリーフの可能性があると言われた。

 ただ真琴はスタメンで出て、ライトで四番という役割になっている。


 台湾は最後のカナダ戦も勝っている。

 ほぼ予想していた通りでありが、決勝は日本と台湾、三位決定戦はアメリカとカナダの対決。

 東アジア最強決定戦と、北米大陸最強決定戦のようなものになってしまった。

 これではアジアカップと同じではないか、と思えなくもない。


 日本は結局、ここまで八連勝の全勝である。

 本当に女子は強いのだな、と日本で中継を見ていた直史は、娘に対してメルメルしていたりする。

「全勝優勝も、普通にあるんやな」

 聖子はそう言っているが、考えてみれば高校野球の夏のトーナメントなど、完全に全勝しなければ優勝できない勝負ではないか。

 あれを経験しているからこそ、日本は短期決戦に強いのではなかろうか。


 男子だけではなく、女子もまたトーナメント戦である。

 チームが少ないのだから、リーグ戦をやってもいいだろうし、実際にそういうことをしているところもある。

 だが夏は結局、トーナメントの一発勝負であるのは変わらない。

 強烈なプレッシャーを与えられて、どれだけそれに打ち勝てるか。

 日本のスポーツは楽しむよりも、苦難に打ち勝つということを優先している気がしてならない。

 プロならばともかくアマチュアならば、まずは楽しめることが一番であろう。

 もちろん奥深い楽しみは、懸命に努力したからこそ、与えられるものであるのだろうが。




 たっぷりと一日は休んだ日本チームであるが、さすがに日本語がほとんど通じず、英語もあまり通じない台湾で、観光をしようという図太い人間は少ない。

 もう少し昔であったなら、日本統治下で日本語を学んだお年寄りなどが、それなりにいたものだろうが。

 文化的にはベースは中国にあるが、日本の影響もかなり大きい。

 何よりも政治体制は、明らかに西側のものであるのだ。


 特に問題もなく、一日は過ごせた。

 台湾のこれまでの試合を確認していけば、その分析で一日は潰れるのだ。

 真琴は普段は、エレナや明史がやっていることを、自分でやってみる。

 ただ情報を収集する段階で、既にリソースが足りないので、完全な分析には至らない。

 しかし台湾も、ピッチャーの質は数人が突出していても、ある程度の格差がある。

 オープニングラウンドでアメリカに勝っている台湾は、最終日前に既に決勝進出は決まっていた。

 なのでカナダ戦はピッチャーの継投で乗り切り、再びの日本との対決で、決勝を争うことになっている。


 真琴としては特に、プレッシャーなどはない。

 わずかだが日本から来ていたマスコミも、決勝前にはインタビューなどは自粛している。

 高校野球に比べれば、熱量が全く違う。

 下手をしなくてもシニアより、注目度は低いのではないか。

 なにしろシニアは、高校野球につながっている。

 高校野球関係者と、さらにその上のプロ野球関係者が、シニアには目をかけていたのである。


 真琴と聖子は普通にぐっすりと眠ったが、他のメンバーもどうやら、必要以上に緊張して眠れなかったという者はいないらしい。

 本日の先発の佐上は、中二日で投げることになっているが、短いイニングの予定になっている。

 七回で終わる女子野球であるが、それを他に真琴と三園でリリーフしていく。

 男子のWBCでもやっていたことだが、日本の投手力を上手く使って、継投で勝っていくのだ。

 特に女子の場合は、イニングが少ないこともあって、三人が投げればそれで試合が終わる。

 あとは打線のほうで、どうやって点を取るかが問題だ。


 真琴はライトで四番、というスタメンに入っている。

 先発の佐上はバッティングがダメなので、やはりDHを使うことになる。

 足を軽く捻った選手の代わりに、他のバッティングの強い選手を入れていく。

 また三園もバッティングはいいのだが、今日はピッチングに集中してもらう。

 投げるのも打つのも期待されているのは、真琴だけである。




 果たしてどちらが勝つのか。

 ここまでのスコアを見てみれば、日本は予選から全て全勝している。

 台湾はオープニングラウンドで一つ、スーパーラウンドで一つ負けている。

 この勝率だけを考えれば、日本の方が強いのでは、とも言える。


 だが台湾はしっかりと、強いピッチャーを温存していた。

 ここで勝てば、これまでに負けた試合などは関係ない。

 プロ野球においても、確かにペナントレースに勝つことは重要であるが、クライマックスシリーズでの下克上はある。

 最終的にはやはり、日本一になった方が強いのだ。


 WBCなどでも日本は、予選のラウンドでは負けていたが、最終的には勝率と得失点差で決勝に進出し、優勝したのが第一回大会。

 WBCではなく普通にNPBであっても、リーグ戦の後のクライマックスシリーズは、また別の戦い方になる。

 MLBではさらに、レギュラーシーズンとは戦い方が違う。

 どれだけエースを温存していて、ここで一気に使うかで、ワールドチャンピオンが決定するのだ。

 そのあたり真琴は、チーム数の多いMLBの方が、NPBよりも色々と作戦を立てる余地があると思う。

 日本に帰ったら、NPBもそろそろ終盤。

 そしてその終盤に重なるように、秋季大会がやってくる。


 夏に比べて白富東は、一気に戦力がダウンしている。

 それは他のチームも同じであるはずだが、そもそも白富東はチーム内競争がそれほど激しくないのだ。

 関東大会まではともかく、神宮大会で勝つのは難しいのではと、真琴は日程を計算している。

 たださすがに勝てないと言われていた試合を、ずっと勝ってきたのが今年の白富東である。

 どうにか春のセンバツの、出場権を獲得したい。

 関東大会なら、ベスト4でほぼ確実だと言われている。

 その後の神宮大会にもよるが、そこが一つのラインである。


 秋は白富東の場合、県大会の予選なしで本戦から始まる。

 なのでそこは少し、スタミナに余裕があるとも言える。

 もっとも重要なのは、関東大会でどういう選手起用をしていくのか。

 日本では鬼塚が頭を悩ませているのだろうな、と考える真琴の目の前で、U-18の決勝が始まろうとしていた。

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