第13話 台湾戦
台湾はここまで、オープニングラウンドで一度負けただけである。
ただその負けた相手というのが、なぜか格下のプエルトリコであったりする。
つまり自軍のピッチャーの弱いところと当たって負けたわけで、やはり投手陣のレベルは同じ代表であっても、かなりの差があると言っていい。
日本でも真琴、佐上、三園の三人が、特に突出している。
かといって他のピッチャーであっても、充分に対抗出来るぐらいの力はあるが。
確実に勝っておきたいので、ここはおそらくナンバーワンピッチャーである真琴を使うことになった。
だがこれには、他の理由もあったりする。
日本の女子野球は、かつて国際大会において、43連勝していたという記録がある。
現在のU-18においても、実は28連勝していたりする。
こうなると優勝だけではなく、全勝優勝までもが求められたりする。
柔道は銅や銀でもあまり称えられず、金を取ってやっと誉められる、という時代があったがそれに似ている。
ちなみに昨今の日本の柔道は、そこまでの圧倒的な強さはない。
女子野球以外でも、女子サッカーが圧倒的に強い時代などもあった。
それと同じで女子野球は、今は負けてはいけないというプレッシャーがあるのだ。
もっともU-18など毎年のようにメンバーが変わるため、それで連勝を続けるというのも、難しいものではある。
しかし実績が実績なので、負けてしまうことが許されない。
決勝進出が決まったなら、あえて一度負けてしまったほうが、プレッシャーがかからないかもしれない。
だがもちろん選手たちに、負けろと言うわけにはいかない。
もしも負けてしまったら、そこで苦手意識がついたり、緊張感を失ったりするかもしれないからだ。
そんなわけで決勝の相手になりそうな、台湾との試合で真琴は投げる。
思えば最初からこうなると分かっていれば、もう少し運用は変わっていただろう。
しかし対戦相手とその日程は、相手チームの成績から出てくるものなのである。
ならば全てのことは、事後孔明というもの。
結果から逆算していいなら、野球というスポーツはいくらでもイフがあるスポーツになるのだ。
開催地である台湾だからということもあるが、今までになくスタンドには観客がいる。
そして日本代表に対しても、拍手が送られてきた。
「親日国家って、本当だね」
親日と言うよりは、普通に対戦相手に、敬意を払っているだけだが。
日本でもアマチュアのこういった大会に、ブーイングなど滅多にないではないか。
甲子園ではそれなりに昔、ブーイングの嵐もあったものだが。
あれはちょっとアマチュアの中でも特殊すぎるので、例外としておくべきであろう。
この試合は日本が先攻となっている。
ちなみに前日にはしっかりとミーティングを行っているが、基本的に台湾もスモールベースボールだ。
その影響は日本から受けたと言ってもいいもので、日本のプロをクビになって、台湾のプロリーグに移籍した選手などもいたものだ。
昨今は独立リーグがあったりするので、比較的そういった例は少なくなっている。
だが日本の高校野球優勝投手も、NPBをクビになって、台湾で活躍した例というのは確かにある。
東アジアの日本、韓国、台湾にはプロ野球のリーグがあるのは、知っての通りだ。
その中でも実力はこの順で、そして給料もこの順である。
ちなみにNPBの場合は、外国人選手だとアメリカでも台湾でも、さらにそれ以外でも外国人選手扱いとなる。
なので実力のある韓国や台湾の選手は、まずMLBを最終目標にする。
ただしその前に、NPBで腕試しという選手も前にはいたりした。
昨今ではかなり少なくなっているのは、MLBの選手を獲得する情報網が、それだけ遠くまで一気に伸びているからであろう。
DHが入っているので、真琴はこの試合投げるだけである。
そうなるとまずは先取点がほしい。
自分で自分の援護が出来ないというのは、既に経験しているはずなのだが、相手が今度は前よりもはるかに強いのだ。
打ってバッティングでも貢献したい。
実際に日本代表の中では、総合的なバッティングの能力は、真琴が一番なのであろう。
MVPも取れそうであるが、それはまだ分からない。
基本的には優勝したチームから選ばれるからである。
真琴としては特に、MVPなどには興味がない。
そもそもこの女子の世界大会自体が、甲子園よりもはるかに注目度は低いものであるからだ。
帰国して少しすれば、もう秋季大会が始まってしまう。
正確にはブロック予選はもう始まっていて、夏に甲子園に出場した白富東は、それを免除されているだけなのだが。
一回の裏、台湾の攻撃。
基本的に台湾もまた、スモールベースボールをしている。
過去には台湾からの留学生が、白富東の実質的なエースだったということなどもある。
日本と台湾、そして韓国の野球はそれなりに似ている。
特に似ているのは、日本と台湾であろうか。
オープニングラウンドで、アメリカに勝っている台湾。
日本もアメリカには勝ったが、ここまでの試合を全て見ていけば、チームとしての姿勢の多くが共通しているということは分かる。
先制点を取ることが、おそらく重要となってくるこの試合。
真琴としても最初から、ある程度は力をこめて投げていく。
バッティングをやらなくていいというだけで、かなりそれは楽になっている。
そしてサウスポーのサイドスローなど、台湾でもほとんど見ることはないだろう。
男子基準で鍛えられた、真琴のピッチング。
軟投派の要素も少しはあるが、基本的には技巧派である。
いざとなれば魔球もあるが、あれは確かに肘に負担がかかる。
秋季大会を目前に控えて、真琴はある程度の温存さえ考えていた。
直史が、そういう考えではあったのだ。
完全に計算し、体力も温存して試合に勝つ。
15回まで平気で投げてしまう、それが高校時代の直史であった。
父の姿を真似ているわけではないが、真琴もまた上手く打たせてここを無失点に抑える。
まずは0が二つ、上下に並ぶ試合の開始であった。
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