第10話 残り三試合

 リーグ戦は残り三試合である。

 6チームによるリーグ戦だが、同じグループの対決結果はオープニングラウンドから持ち越されるため、日本は既に二勝していることとなる。

 スーパーラウンドで対戦するのは、台湾、アメリカ、ベネズエラの三国。

 ここでの勝率上位4チームが、決勝と三位決定戦を行うので、実際はもう一試合あると考えるべきだ。

 台湾もアメリカとベネズエラには勝っているので、二勝からのスタート。

 つまり決勝戦の相手になりそうなのは、台湾が第一候補ということだ。


 試合の日程も決定した。

 スーパーラウンドに四日間をかけて、その翌日が決勝戦と三位決定戦。

 日本は一日目と四日目には試合がないが、二日目に一試合、三日目に二試合のダブルヘッダーという予定になっている。

 抽選により決まったものなので、文句を言うわけにもいかない。

 他にベネズエラなども、ダブルヘッダーの試合があったりする。


 シニア時代にも、ダブルヘッダーの試合はあったし、高校入学後も練習試合ではダブルヘッダーがあった。

 あとはこれに対して、どういうピッチャーの起用法をしていくかだ。

 佐上と真琴、そして左の三園の三人が、エース格と言っていい。

 サウスポーが二人というのは、なかなか恵まれているのかもしれない。

 対戦相手は二日目がアメリカ戦で、三日目第一試合が台湾、第二試合がベネズエラとなっている。


 台湾などはホスト国なので、こういったマッチメイクがやや有利になっても仕方ないかなと思う。

「これは上手く継投をしていくしかないかな」

 コーチ陣は日程表を見て、そんなことを言っていた。

 アメリカはなんだかんだ言いながら、女子の野球も強かった。

 ただそれでもオープニングラウンドでは、台湾に負けている。

 ホームの有利が、やはりあるのかとも思う。

 だがそれを言うなら日本であっても、過去にはホームとなって行ったことがあるのだ。


 MLBが利益を追求している、WBCとは違う。

 そのWBCにしても、日本はしっかりとエースクラスを出すのに対して、アメリカはMLBのエース格が出ていないということもあり、なかなか最近は優勝できない。

 それなのにWBCの利益の多くを持っていくのであるから、ふざけた話ではあるだろう。

 直史や大介が出場していなくても、日本はおおよそWBCで優勝か準優勝をしているのだ。

 もっとも上杉も引退した今、さすがにエースクラスがいなくなってはいる。

 ピッチャーの優位がなければ、アメリカはさすがに勝ってくるかもしれない。




 スーパーラウンドの一日目、日本は試合がない。

 そのためミーティングにみっちりと、時間を使うこととなった。

 またピッチャーの起用についても、順番を決めている。

 一試合目を佐上。

 二試合目を真琴、そして同日の三試合目を三園という順番だ。


 他のチームに関しては、オープニングラウンドを戦ってきた中で、さすがにある程度の情報は露出している。

「決勝戦には佐上に投げてもらうつもりだけど、台湾戦やベネズエラ戦で継投が必要になった場合、そちらのリリーフに回ってもらうかもしれない」

 すると決勝戦は中一日で、真琴と三園の二人を軸に使っていくことになるのか。

「それと、佐藤が登板する場合は、DHを解除する可能性もある」

 うげえ、と真琴は顔を顰めた。

 だがここまで日本の打点王なので、それも仕方のないことなのか。


 ソフトボールのDHに近いものでは、DPというものがある。

 これは投手以外にも使えるものだが、DHは投手に限ったものである。

 学生野球レベルであると、昇馬のような投打のどちらも優れた選手がいるので、DHを他のポジションに使いたかったりもする。

 ショートやセンターなどの守備職人というのが、いても面白いではないか。

 もっとも今は、試合の守備固めとして、普通にそういう選手は使われているのだが。


 DHは途中から使うことの出来ない制度で、逆に途中で解除することは出来る。

 あるいは試合展開次第では、真琴のDHを解除してバッターボックスに入ってもらうこともあるかもしれない。

 もっとも佐上はともかく三園なども、バッティングにも優れた選手ではある。

 いっそのこと攻撃は攻撃だけ、守備は守備だけという割り切り方に、いずれ野球も変わるのではないか。

 とりあえず真琴としては、デッドボールにだけは気をつけなければいけない。


 台湾、アメリカ、ベネズエラの試合であるが、ベネズエラはさほど注目するような選手はいない。

 だが台湾とアメリカには、やはりエースと呼べるようなピッチャーがいる。

 あえてリーグ戦の中では日本相手に使わず、決勝で使ってくるという可能性もあるだろうか。

 逆に言えば日本にしても、台湾相手のリーグ戦では負けてしまっても、決勝にさえ残れればそれでいいと考えられなくもない。

 リーグ戦では負けて、決勝でリベンジする。

 それもロマンになりそうだが、素直にリーグ戦でも勝って、相手に上下関係を教えておいた方が戦いやすいだろう。




 一日目は台湾がドミニカと当たり勝利。

 ただ思ったよりも競った試合になったのは、他のチームも相手の情報を手に入れて、しっかり対策を練ってきているからであろう。

 オープニングラウンドでは完勝した日本であるが、それでもカナダ相手にはそれなりに苦戦した。

 そしてスーパーラウンド二日目、日本はいよいよアメリカとの対決である。

 野球発祥国アメリカ。

 今でもプロの野球の規模では、最大のマーケットを誇っている。

「マコのお父さん呼んできたら、それだけで勝てそうやけどな」

 女子を相手にはともかく、男子であれば未だに、MLBのトップクラスのバッターでも、トラウマを残している者は多いかもしれない。


 MLBでのキャリアはわずかに五年であるが、確実に特例での殿堂入りが約束されているレジェンド。

 その残した記録をスコアだけを見れば、訳の分からないことになっている。

 真琴も我が父ながら、おかしい成績だなとは思う。

 今年もいまだに敗北がないというのが、まさにおかしいのだ。

 昇馬もたいがいおかしいが、父ほどではない。


 アメリカ戦、真琴は四番ライトでスタメンに入っている。

 明日は片方をピッチャーとして、片方をバッターとして入る。

 もっともピッチャーとバッターを兼任するかは、最終的に順位がどうなるかで決まるだろう。

 決勝に残れそうならば、デッドボールの危険性のあるバッターで出る必要はない。

 それを言うならそもそも、ピッチャーに専念しろという話になるのだが。


 ピッチャーとして投げて、打席に立っていない試合があるにもかかわらず、日本チームの中では打点王。

 四番にいることが多いからとも言えるが、これを外すわけにもいかない。

 本人も大変であるが、首脳陣も大変な、真琴の運用法であった。

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