第21話夢はいつか覚めるもの
夢のような1週間だったわ。
走るノエル様。お兄様と剣の訓練をするノエル様。食事を頬張るノエル様…
スマホはどこ?カメラは?なんでもいいの。この瞬間を切り取ってくれるのなら。絵師?そんな悠長な!!とボニーに八つ当たりしたのが遠い昔のよう。
あ、あと、私が来たのに気づくと、ノエル様がいつもお花を摘んで、私の耳にかけてくださったわ。素敵!それに、木の枝や木の実や小石もどんどんくださったの。
…いるわ!いるに決まっている。推しからいただくものよ!
でもなぜかこの世界のワンピースにポケットがないのよ。ドレスはしょうがないにしても。ポシェットもないなんて。ボニーに預ける気にならず、この小さな手で持ち帰るが大変だったわね。
お兄様からいただいたダンゴムシは、ごめんなさい、自然に帰っていただいたわ。
頂いたものをお父様に保護魔法をかけてもらうのが日課となってしまったけど、毎回、『これを?』という顔はやめていただきたい。
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「もう、帰っちゃうの?」
ノエル様の瞳が揺れている。この1週間で気づいたのだけど、ノエル様の瞳の色は、見る角度や光によって見え方が違うのよね。スチールでは青一色だったけど、美しく澄んだ奥深い青色、まるで夜空に月光が差したような美しい風合い…。
「また、おてがみかくよ。ノエル。」
お兄様の瞳も揺れている。
「わたくしも、おてがみをかきますわ。あ、そうだ!ノエル様、これを」
渡しそびれていたレターもどきを出す。初めての推しへのプレゼント。緊張で足が震えるわ。
「わたくしがつくったものですの。」
「すごい!もらっていいの?あれ、この花は勿忘草だね。辺境伯領ではこれから咲くよ。ふふ、僕の瞳の色かな?なんて。」
推しの色を使ったのがばれましたか!?お、重いですか?大丈夫ですわよね?
「嬉しいよアリー、大事にするよ。」
ああ、よかった。ぜひ、使ってやってください。
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だんだん、小さくなっていくノエル様。
まだ、手を振っていらっしゃる。
ああ、毎日の彩りやハリも小さくなっていく。
せめて、写真や映像があれば、推しにいつでも会えるのに。
いいえ、推しの存在を日々感じていた毎日と比べてしまったら、…満ち足りないわね、きっと。
お兄様は、もうウトウトしだしたわ。ふふ、いいわね、子供は…。
…ダメよ、しっかりしてアイリーン!やらねばならないことが、たくさんあるはずよ。弱気になっている場合じゃないわ。
そうよ。自分ひとりで想像や妄想を広げて楽しむ活動。それもすべて「推し活」。私、大得意じゃないの。
待っていてくださいノエル様。完璧な準備を整え、必ず、すぐに会いに行きますわ。そして、レベルアップアイリーンをご覧に入れますわ。
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