第13話sideヴィルジール・ノヴァック侯爵ーお父様ー②

「こ、国王陛下、ノヴァック侯爵閣下がおいでになりました。」



慌てる侍従を押しのけ、許可なくソファに乱暴に座る。



「おい陛下、人払いをしろ」



目の前の男は、テオフィル・ロレーヌ国王。何をへらへら笑っているんだ。



「珍しいね、ヴィル。先ぶれもなしに。それに、言葉が乱れているよ。レティシアちゃんに怒られちゃうんじゃない。」


そう言って、侍従たちに手のひらで部屋から出るように指示をする。


人の愛する妻をちゃん付けで呼ぶんじゃない。誰が許可した!

は!!まてまて、邸でも怒りのあまり口調が乱暴になっていなかったか?

まずい…冷静になったレティが今頃気付いているのでは…


いや、それは後で考えよう…。



「なあ、テオ。私の天使アイリーンがな。倒れて熱を出したんだ。」

「え!アイリーンが、大変じゃないか。そうだ、王宮から医師を派遣しよう。今、すぐに!」


このやろう、何が原因だと思っているんだ。



「いや、それは遠慮しておく。幸い目覚めたからな。それに、倒れたのは2日前だ。王宮にも連絡は来ているはずだがな?」

「そ、そうなのか。お、おかしいな。それより、いいのか?あんなに溺愛している娘のそばに付いていなくて。」


いいわけないだろう。



「…知りたいことがある。アイリーンの王宮でのカリキュラムを見せろ。」


「カリキュラム?皇太子妃教育のか?うーん、皇太子妃の教育は皇后の管轄だからな。私は持っていないし、さっぱり知らないのだよ。はははは…はは…顔が怖いよヴィル…。」


「知らないだと!大事な娘をお前の息子の婚約者にしてやったのだぞ。知らないとはどういうことだ!ああ、嫌だ、こんなやつと親戚になるなんて。」


「またまた~本当は嬉しいくせに。…あ、あれ?本気?」


「本気に決まっているだろう!お前は、昔から、どれだけ俺に迷惑をかけていると思っているんだ。魔法で学院を燃やしかけた時も、院外での演習で迷子になり、魔獣に追いかけられていた時も、いったい誰が助けてやったと思っているんだ。卒業してからだって」

「しーーー、それは内緒って…。」


何が、「しーーー」だ。誰も知らないと思っているのはお前だけだ。あーもう、怒りが止まらん。



「大体、あの婚約者候補が集められたお茶会だってそうだ。俺は事前に娘はやらんと言ったよな。なのに、あんな大勢の貴族の前で、『ああ、もうこの子しか考えられないわ♡この子が、エドガールの婚約者よ。』なんて皇后に言われてみろ。辞退なんてできるわけがないだろうが!」


「皇后の真似がうまいな!はは…あ、いや、すまない。カ、カリキュラムだったな。すぐに持ってこさせよう。」



********************




「ヴィ、ヴィル?」


この国の歴史、マナー、家系・家柄の暗記、語学、算術、薬草学、歌唱、絵画、音楽、ダンス、乗馬etc…て、帝王学!?私の娘を国王にでもするつもりか!?



「見ろ……、この量はなんだ。」

「これは…。」

「アイリーンが倒れた原因…分かるな?」

「…。で、でも、皇后とのお茶会もあるのだぞ?」


どういう意味だ。癒しになるとでも思っているのか?余計に疲れるだろうが。



「皇太子も同じ量をこなしていると思っていいんだな?ん?」

「……。」


お前その沈黙は「違います」の意味だろ。目が泳いでいるぞ、おい。



「よし、分かった。今後アイリーンの教育は、しばらく侯爵家のみで行う。あー、相談ではない、決定事項だ。詳細は書面でやり取りをしよう。皇后にも伝えておくんだな。」



「えーーーー!それは、さすがにその、あまりにも、ふ、不敬では、ないかな?」



「婚約白紙でもいいんだぞ?」



心配して待っているレティに、すぐ手紙を届けさせよう。ああ、アリー、領地から戻ってくる頃には、あどけないお前にまた戻っていてくれ。

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