第10話お、おいしーい!!
「アリー、じゅんびできた?」
嗚咽の止まらないボニーをなだめながら、やっと着替えが終わったころ、お兄様がお迎えにいらっしゃったわ。
小さなふっくらした右手を私に差し伸べていらっしゃる。
エ、エスコートですのね!!小さなジェントルマンにアイリーン、昇天です。
********************
「まあ、私の天使たちは、なんて可愛らしいの。」
「むっ、おかあさま、アリーは、てんしでかわいいですが、わたしはもう、かわいいというねんれいではないのです。」
お兄様が、ぷっくりと頬を膨らませ、唇を尖らせている。可愛いの最上級ですわ。あ、いけない、お兄様に天使、可愛いは禁句ね。覚えたわ。
「あらあら、ふふふ、お母様が悪かったわ。立派な紳士に失礼なことを言ってしまって。ねえ、セルジュ。」
「ええ、お嬢様を立派にエスコートする姿。あまりの品の良さに、このセルジュ感動いたしました。」
セルジュに褒められ、とびっきりの笑顔のお兄様。かわい…いえ、素敵です。
「さあ、お食事にしましょう。二人とも座って?」
席に着いてはみたものの、
あれ?そういえば、お父様の姿が見あたらないわ。
「おかあさま、おとうさまはどちらに?」
「お父様は、急なご用事で王宮に向かわれたわ。アリーに会ってからと渋っていたけど、ふふ。そのまま領地へ向かう予定ですから、しばらくは、お会いできないわね。」
ほうほう、なんだかんだ言って、しっかりお仕事に行かれたのですね。やはり侯爵家当主は、お忙しいのね。そして、ドタキャンへの迅速な対応、お父様、リスペクトです。
********************
お、おいしーい!!舌が肥えている日本人の記憶が戻った今、食事が心配だったけど、いける!いけるわ!激うまじゃない。
ラ・フランスの生ハム巻き、ベーコンと玉ねぎのコンソメスープに鴨のコンフィ。
フランス料理寄りね、トレビアンよシェフ。
記憶をたどっても日本食はなさそうだけど、熱が出た後のご飯は、ミルク粥だったわね。ボニーは、ライスプディングと言っていたけど。
そうね、あの甘さは、お粥ではなくデザートに近いわ。まあ、でもお米があるなら、そのうち、白飯に味噌汁もいけるでしょ。ああ、食事の心配をしなくてすんで、ホッとしたわ。
「どれもこれもすべておいしいですわ。とくに、このひんやりシャリシャリしょっかんのモモのソルベ、さいこうよ。」
壁際に立つシェフに告げると、シェフの嬉しさに揺れる艶やかな微笑みが返ってきたわ。…シェフに色気って必要だったかしら。
…ふっ、期待を裏切らないわね、雨恋よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。