第6話天使が舞い降りる

うーん、話が終わらなそうね。

なかなか戻ってこないわ。やっぱりお仕事の話かしら?

ドタキャン…相手の時間を無駄にしてしまったことに対する謝罪、社会人として常識ね。この世界にも菓子折りはあるのかしら。



まあ、いいわ。お母さまに食べさせてもらっていたリンゴでも食べて、気長に待ちましょう。



ボニーが、食べさせたいっていう顔をしているけど、無視よ。無視。

誰にでも「あーん」すると思ったら大間違いなんだから!




ん!?きゃーー。こ、これは!

さっきは気づかなかったけど、このリンゴ、蜜が入ってるじゃない!

テンション爆上がりだわ。


さすが日本人が作ったゲームの世界ね。

芯の周辺が透き通ったはちみつ色。最高よ。






上機嫌でリンゴを口に頬張り、目線をベットの端に移すと、あら、あらら、ぴょこぴょこと動くシャンパンゴールドの髪が見えるわ。ちょっとずつ近づいてくるわね。

お父様…なわけないか。



「ぅーわあ!ふふ、アリー、びっくりした?」



口元を隠し、してやったり顔の天使。はい、私のお兄様ですね。


ええ、びっくりしましたとも、天使って下から舞い上がってくるのですね。

舞い降りるとばかり思っておりました。

瞳は、私と同じアメジスト色。色合いはお父様そっくりだけど愛らしさはお母様似ね。1つ年上のお兄様。私に負けていない、ぷにぷのほっぺ。さ、さわってもいいかしら?




「アリー、わたしも、しんぱいしたのだよ?」

よじよじとベットに上り、私のそばまで来ると、そう告げるお兄様。





あざとい、あざといわ。

潤んだ瞳。私の返事がないことに戸惑いコテンとかしげる首の角度。

計算されつくしているとしか思えないわ。


くぅーーーーーーー

決して、決してショタ好きではないのに…

今日は何度、新しい扉が開きそうになるのかしら。


はっ!お兄様は、お兄様なのだから年上よね。

じゃあセーフよ。セーフ。よかったわアイリーン。



きっと真っ赤であろう、悶絶する私の顔を見て、具合が悪いと思ったのか、

「まだ、おねつがあるのかなぁ」

と、そういって、おでことおでこをくっつけるお兄様。



ないようだね、とアメジストの瞳を細めて微笑み、手を頬に添え、さらに私の髪を指でくるくるしだしたわ。


ああ、6歳にしてこれはいけない。

乙女心を惑わせる片鱗が現れている。天使の未来が容易に想像できる。

末恐ろしいわ…。



悪役令嬢の兄。攻略対象の設定にぴったりではないか。

あと10年もしたら…いや5年で、ヒロインを翻弄すること間違いなし。

なのに、なぜ、この兄もモブなのです?




「お、お、おにいさま、ごしんぱいをおかけしました。おわびといってはなんですが、リンゴ、たべますか?」



「うん!たべる。あーん」




ためらいもなく「あーん」だと!

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