第2話悪役令嬢アイリーン・ノヴァック
私が前世の記憶を思い出したのは、2日前。
邸の庭での散歩中、急に雨が降り出した時だ。
雨に濡れたことのない私は、慌てる侍女ボニーを尻目に、じわじわと濡れ重くなっていくドレスを見ながら立ちすくんでいた。
『ふ…ふふふ…あー、もう終わりなのね、最後に見る顔があなただなんて…いいわ、やりなさい!その剣で!』
頭の中で、響くその台詞と美しくも悲しいノエル様の表情がフラッシュバックし、次々に前世の記憶を思い出していった。
時が高速で巻き戻るような感覚、そして一気に流れ込んできた情報を処理できず、気持ち悪さにぐらついた私は、そのまま意識を失った。
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「お嬢様!ああーお嬢様がお目覚めに―よがっだあ゛ーーー」
ボニーの号泣とともに、慌ただしく部屋に出入りする医師たち。
きらびやかなシャンデリアとエレガントなプリンセスベット。
ーああ、日本じゃないね。記憶がまだ混乱しているけど、うん、これ、転生だわ。ー
ノエル様のお気に入りスクショをお風呂に入りながら見ていたところまでは覚えている…。
げ!まさかそのまま寝たのか私。
真っ裸で死んだのか私…ああ、泣ける。
前世に不満もなく、家族も友人もいた。恋人はいなかったけど…。
はぁ、さよならくらい…言いたかったな。25歳。若すぎるだろ、神よ。
はらはらと涙が流れて止まらないわ。
「どこか痛むのですか!?大変!!お医者様―お医者様――――!!!」
「ボニー、さけばないで。だいじょうぶだから。」
ボニーの感情が私より不安定過ぎて、涙が引っ込んだわ。
まあ、今の私は5歳児。幼女が急にはらはら泣いたら焦るよね。
それよりも確認しなきゃならないことが。
「ねえ、ボニー?わたくしのなまえは、アイリーンかしら?」
ボニーの目がものすごくカッと見開いたわ。
うわあ、目が零れ落ちそうじゃない。ふふ。
「…どうされたのですか?お嬢様はノヴァック侯爵のご令嬢アイリーン様ですよ?
ま、まさか!記憶喪失…お医者様―お医者様――――!!!」
「だから、さけばないでといっているでしょ。なまえをいっているのだから、きおくそうしつではないわ。」
「た、たしかに。で、でも、では、なぜ?」
―ああ、やっぱりアイリーンかぁー
「かがみをとってもらえる?」
なぜ?の返答をしていないからか、ボニーは、混乱した顔のまま、それでも、丁寧に鏡を渡してくれた。
幼児特有のぷにぷにほっぺ。
白銀の髪にアメジストの瞳、ぷっくりした桜色の唇に長いまつ毛。
鏡には美天使…いや、悪役令嬢アイリーン・ノヴァックが映っていた。
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