第14話 2度目の錬金術(強力な助っ人あり)
「今日の戦利品は、真珠蝶の鱗粉2種類それぞれ30包、アグルの巣、リュオール草に……、おお、雨の石だ、珍しい」
『それは雪わたげを転がりながらかわしたときに地面で見つけた石だね』
「ウィリーちゃん、やるっすね!」
褒められてウィンはちょっと得意げになった。
『子どもの頃に山で培った素材センサーに引っかかったんです』
「こっちの赤い実は?」
『それはなんとなく心ひかれて、思わず』
「ふーん。これ、確かハトが好きな木の実ですよ」
「素材センサー、ハトに乗っ取られてるじゃないっすか」
3人はわいわいとやり取りをしながら、今日の戦利品をそろえていく。
ウィンとリオは、素材を瓶詰めしたり、窓に吊るしたりして採取した素材の片づけ。レグルスは晩御飯の支度をした。
晩御飯を食べ終えると、あっという間に夜も更けた。
「さて、ではさっそく明日ウィンさんの魔法を解くための道具をつくります」
食器を片付けたテーブルにリオが本を開いた。
「変身魔法は、その対象に大きな魔力が注がれています。そのため、その魔力を吸い取ってしまえば変身は解ける。その手段としてよく使われるのは鏡ですね。人に化けて悪さをするモンスターが鏡に本当の姿を映されて逃げ出した、なんて聞いたことありません?」
そう言われてみれば、子どもの頃にそんな絵本を読んだことがある。
あれは錬金術が絡んでいたのかと、ウィンはしみじみ感動した。
「今回作るのは、
リオがとん、と指さしたページには、シンプルな銀色の指輪の絵が描かれている。
『鏡石の指輪』
材料
鏡石: 30個(大きめ)
宝石:お好み
真珠蝶のりんぷん(雄):2包
研磨剤
『鏡石?』
「川で採れる石です。石の断面が鏡のように反射していることから、そう呼ばれています」
「これを作って指にはめれば、すぐに元に戻れるはずっすよ。つけている間は、他のアイテムの効力も打ち消してしまうのが難点っすけどねえ」
いよいよ人の姿に戻れるのか。
ウィンは感極まって震えた。
いよいよこのくちばしやもふもふした頭ともお別れなのだなあとウィンは自分の鳩頭を撫でたのだった。
□■□■□■
そして翌日。いよいよ鏡石の指輪を作る時がやってきた。
リオたちの家の周りにある石造りの小屋とログハウス。ログハウスは保管庫で、石造りの小屋は工房だそうだ。
本日の作業はその工房の1つ、鍛冶場で行われる。
鍛冶場へ足を踏み入れると炭のにおいがした。
さまざまな形をした炉に、半円形のかまど。 煙の充満を防ぐためか、小屋のあちこち穴が開いている。
道具入れにつっこまれた金床、ハンマー、火ばさみ。板に並べて掛けられた大小さまざまなやすり。
部屋の四隅には防火のために、水の加護が宿った水晶玉が置かれている。
ちなみに、リオたちも火傷対策として水の加護のついた耳飾りをしている。ウィンはハトの頭に耳飾りはつけられなかったので、首飾りに変更した。
さらに全員長袖に着替えて、準備は万全だ。
まずは鏡石を溶かす作業。
使用するのは円柱型の炉。
炉の真ん中に、高温処理に使う容器である「るつぼ」を置いて、炉とるつぼの隙間に、赤黒い砂利石を詰めていく。
この砂利は「火めぐり石」と呼ばれる可燃性の石だ。これを使えば、普通より高温で火を燃やすことができる。
炎はどんどん明度を増していく。温度が上がっている証拠だ。それにつれて、るつぼの中の鏡石がどろどろに溶けていく。
注意深く観察していたリオが、火バサミでるつぼを掴み、持ち上げた。
「はい、どいてどいて。触ったら火傷しますよ」
用意したのは、円柱型の石膏。上部に小さめの穴が1つ空いている。
るつぼを傾け、その穴に向かってどろりと溶けた液体を流し込む。
円柱型の入れ物なのに、どうやって指輪になるのだろうか。
ウィンが首を傾げていると、それを察したらしいレグルスが解説してくれた。
「あの穴から先が細長くなっていて、さらに指輪の形の空洞ができてるんす。液体を流し込んで固まった後に周りの石膏を砕いて、差し込み口の部分の細長い鏡石の塊を取り外せば、指輪が出来上がり、ってわけ」
「ぽう(なるほど)」
液体を注ぎ終えたリオが、火を消して一息つく。
「……よし。あとは明日の朝、指輪を取り出せば完成です」
ウィンとレグルスは、両手をあげて喜んだ。明日の完成が楽しみだ。
「ウィリーちゃん、石膏から指輪を削り出すの、やってみるっすか?」
「! ぽう(やりたい)!」
ウィンは羽を真っすぐに上げて挙手したが、リオが即座に却下した。
「いや、その羽がばさばさついた手じゃ無理でしょ。絶対石膏の破片を撒き散らかします。掃除が大変だから却下」
「ぽう……」
戦力外通告を受けてウィンは悲しげに鳴いた。しょんぼりしたウィンを見て、リオは眉を下げてふっと笑った。それを見たレグルスが目を丸くした。
「指輪の削り出しは俺がやりますから、明日は大人しくレグルスと木の実の仕分けでもしておいてください」
リオにそう言われて、ウィンは大人しく頷いた。レグルスがぽんぽんと肩を叩いてくる。
「明日には元に戻るんすよ、よかったっすね、ウィリーちゃん」
心からの笑顔とともに偽名を呼ばれ、ウィンの胸がずきりと痛んだ。
「さ、レグルス。後片付けをしちゃいますよ。ウィリーさんは一足先に家に戻っていてください」
リオに促され、ウィンは大人しく工房を出て家の方に向かっていく。
ぺたぺたと歩きながら、ウィンは1人考える。
(……きっと私が貴族だと知られていたら、こんなにうまくはいかなかっただろうな)
昼間、自分を見つけてくれたリオの姿を思い出す。あんなに懸命に自分のために動いてくれた人を、自分は騙しているのだ。
ウィンは重たい足取りで、家に向かって歩くのだった。
□■□■□■
燃え尽きた火巡り石を片付けながら、レグルスが呟いた。
「兄弟子、ウィリーちゃんへの態度が優しくなったっすねえ」
「は? 何言ってんですか」
「だって、朝はあんなにとげとげしかったじゃないすか」
「別に。指示された労働をこなした以上はちゃんと『お客さま』ですからね。それに見合った対応をしているだけですよ」
「はは。確かに虫捕りの手際は良かったっすねえ。街娘って言ってたし、もしかして、農家の娘さんなんすかね」
リオは少しだけ動きを止めて「街娘、ねえ」と呟いた。だがその声はとても小さく、レグルスが聞き返すことはなかったのだった。
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