俺の明日が疼く時

 この家の中は、俺の家の中にいなかったはずの精霊がたくさん飛び回って、部屋を色鮮やかに輝かせている。

 この光景は、俺にとってはちょっと新しい感じがする。


 突如、何かに呼ばれているような感覚に陥る。

 部屋の隅の、何もないはずのその場所に迷うことなく足を運ぶ。

 皆が、俺を不思議そうに見ても歩みを止めない。

 俺が歩みを止めた途端、木の枝が生き物かのように動き、床を突き破ってきた。

 そこから一冊の本が現れた。

 見た目は、俺の家にもあるようなごくごく平凡的な本。

 だけど、吸い込まれるかのように、運命(さだめ)かのように感じる。

 こいつを、開けと。


 「ウァキウムの禁書がなぜここに?!?!フィン!今すぐ離れて!!!」


 マミーエールがそう叫んだ。

 だが、俺の右手は言うことを聞かない。

 マミーエールが俺に手を伸ばすが、その手は俺を通り抜けた。

 そんなことが起ころうと、俺の右手はページをめくり始める。

 包帯を溶かしながら青く淡い光出す右手で、青く霧がかかったような光出す本を読み始める。


 その時、巨大な目がこちらを覗いた。

 異質に、浮いているかのように。

 見惚れてしまうかのように美しいその青いまなこは、俺の過去を見つめているかのように俺の瞳を見つめる、未来を見つめているかのように真っ直ぐ俺を見つめる。

 白いだけの空間に異質に浮く瞳。

 

「白の空間などという単純なものではない」


 俺という存在を読み取り、空間が揺れ、空気が揺れ、声よりも心地いい音がの波長が、耳に流れた。

 そんな気がした。

 

「空間が存在で、存在が空間なのだ。存在はモノではなく空想。妄想でもなく幻覚でもない、確かに存在はしている。世界の特異点である我を可視化する為の道具に過ぎない」


 俺はまるで理解ができない。

 ただ茫然と、その現実を眺めることしかできない。


「我がソナタを選び、ソナタも我を選んだ。ただ、それだけの事だ」

 

 この喋り方、俺がこの世界に来る直前に聞いた喋り方、そう、俺の右手だ。声は違うが、同じ存在としか思えない。


「お前は、俺の右手なのか?」


 その問いに対し、それは間違えだと瞬時に気づく。本能的に。

 きっと、こいつと俺は似たもの同士なんだろう。だから互いに引き寄せ合ったのだろう。

 

「今はまだ眠れ。ただ覚えておけ。我が力のかけらに出会え、そして抗え。全てを「無」に返すその時まで」


 互いに、選び、選ばれたから、俺はここに立っている。 

 だとしたら、この本を開く事ができた俺以外の唯一の存在、ひいひいおじいちゃんこそがこいつの力のかけら、、、なのか?


 その心の言葉を遮るように、世界が揺れ、この謎の空間の崩壊が始まった。


「不可解な干渉が始まった。他空間に干渉する程の力か、あの時以来だ」


 その瞬間、俺は上へ、ただ上へと吹き飛ばされた。

 気付くと、目の前には何も書かれていない真っ白な本が広げてあった。

 そして僕の手を握る一つの手があった。


「リリス、、、」


 実の家族かのように、前世の妹のように、安心できる手だった。

 

「二人とも離れて!」


 そうマミーエールに言われた俺たちはその場から離れた。


「ウェントゥス、イグニス」


 そうマミーエールが唱えるとその本をが浮き、窓外まで吹っ飛び、跡形もなく燃やし尽くされた。


「何も忘れてはいない?!」


マミーエールがそう慌ただしく言ったので、俺は頷いた。


「あの本は、世界の呪いと呼ばれる八つの禁書、 オリシス・ウェールの禁書群が一つ、ウァキウムの禁書。全てを虚無と返す。忘却の書。見つけた人は多い。けれど、開けることが出来たのは、私の知ってる限り、フィンと、フィンのひいひいおじいちゃんにあたる人物だけ」


「本には、何が書いてあったの?」


「何も覚えてない、、、」


 さっきの出来事を何も言うな、そう本能は言う。

 いや、これは呪いだろう、使命と言う名の呪いをさっきのなにかにかけられてしまったのだろう。

 

 騒がしかった部屋に沈黙が訪れ、皆が静止している中、俺の右手だけがただただ、青く、醜いくらいに美しい光を放っていた。


 リリスの手をとり、俺はリリスを外へ連れ出した。

 

「君は一体何者なんだ?」


 その問いかけに対し、彼女は不安げな顔をしながら首を傾げた。


「いや、ごめんなんでもない。俺はもう大丈夫だと2人に伝えてあげてくれ」


 俺は妖精たちに降ろしともらおうと、玄関の端に立つが、妖精たちは1体たりとも俺に近づこうとはしない。

 その光景に、リリスも驚いたような表情をしながらこちらを見ている。

 今思い返してみれば、ここへ上がって来る時も妖精たちは、俺のもとへ近づかず、マミーを運んでいた。手で、支えられている感じがしなかったのは、きっとマミーの魔法のおかげなのだろう。


「リリス、もう魔法は使えるのか?」


 彼女は自信気に頷いた。

 魔法が使えない出来損ないには妖精すら近寄ってくれないのかよ。

 教室で一人、妄想をしていた時と何も変わらないじゃないか。

 今も、妄想だけか、、、

 ならまた同じように、初めからやって生きても、、、


「ウェントゥス」

 

 彼女がそう唱えると、地面から少し浮き上がった。

 その光景は、まるで、そう、これは、雨上がりの雲一つない晴天に浮かぶ、真っ白な鳥のよう。

 そんな、可愛らしい白いパンティを履いている彼女を見て、僕は、すごく興奮した。

 この虚しい気持ちが気持ちい気持ちに成り変わった。 

 妄想?はははっ俺は、今、夢を、叶えた!!!


「リリス、俺魔法使えないからその浮き上がる魔法今度教えてね!」

 

 絶望の顔から急にめちゃくちゃ笑顔になる俺に戸惑いながらも「うん!」と大きく、明るい声で返事をしてくれた。

 この笑顔に笑顔を返してくれる彼女の顔は、俺の生きる希望になってくれるはずだ。


「ありがとう」


 そう呟く俺に「何か言った?」と言ってくる彼女を横目にみながら明日への希望を胸に、空に手を伸ばした。



 

 


 

 


 

 

 

 


 

 

 





 

 

 


 

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俺の右手が疼く時 キアラト @kiarato

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