第3話 許されざる行為

忘れもしない11年前の5月10日木曜日三時間目の英語の時間だった。

授業中、円香が先生に「体調が悪い」と青い顔で告げて席を立ったのだ。


高木は朝から円香が「お腹がいたい」と友達に話していたのを小耳にはさんでいたのでトイレに行ったと確信したのだが、ここでよこしまな考えを抱き始めた。


学校のトイレは男子用も女子用も和式で壁と床の間には隙間があって、のぞこうと思えばのぞける構造である。

常日頃からやってみたい誘惑には駆られていたが、のぞきたい相手をのぞけるとは限らないし、女子トイレに入るところを見られたらアウトである。

だが、今は授業中で人もいないから女子トイレに入るところを見られる可能性は低いし、ターゲットはのぞきたい相手ナンバーワンの円香。


これはひょっとしたら千載一遇のチャンスなのではないか?

その時そう思ってしまったのだ。

下半身も期待で反応し始めている。


日頃から円香の入浴やトイレ、あるいはそれ以上を想像してはオナニーをしていた高木はのぞきたいという衝動を抑えきれない余り行動を起こす。

彼女が出て行った直後に自分も「気分が悪い」とか言って教室を出たのだ。


廊下に出ると、予想通り三教室ぶんくらい向こうの女子トイレに入って行く円香の後ろ姿を遠目から確認できた。

高木も間を置いてその女子トイレに入ると、個室が一つ閉まっている。


ここ以外はありえない。


彼女が入った個室の隣の個室に入ってカギを閉めた。

尻を向けている側であることは言うまでもない。


壁の向こうの魅惑の世界への期待にもう股間ははちきれそうになっている。

意を決し、そして胸を高まらせて壁と床の隙間からのぞき込む。


「・・・」


まず目に入ったのは丸い尻。

これがあの円香の尻なのか?

形状と質感から女の尻であることは間違いなさそうだが、意外と普通の尻である。

二つに分かれた何の変哲もない尻だが、あの円香の尻も二つに割れていることに妙な安心感と感慨を感じて拝見していたのもつかの間。

その直後、圧巻のスペクタクルが始まる。


ぶぶっ、ぶうぅうう~、ぶりっぶりぶりぶりっ…ぶり!もりもりもり


音消しの水を流していたにも関わらず丸い尻から大音響の屁が響いた直後に肛門がせり出し、盛大にグロテスクなクソが大量にひり出された。

それから「ん、んんっ」と踏ん張る息遣いが聞こえてからプリプリと第二波第三波のクソが垂らされ、尿もジョボジョボ同期して放出される。

ほどなくして漂ってきた鼻が曲がりそうなクソの臭いに高木の思春期の股間は決壊。

ズボンとパンツをはいたまま盛大に射精した。


その情景は目に焼き付いて離れず、悪いことをしたと思いつつも26歳になった今でも高木の重要なズリネタになり続けているくらいだ。


だが、射精し尽くして股間がしっぽり濡れて不快を覚える賢者タイムに至って「何ということをしてしまったんだ」という思いに襲われた。

罪悪感よりも「ここから早く脱出しなければ、のぞきがバレる」という焦りである。

くそをし終わった円香はケツの穴を拭き始めており、あと二、三回拭いたら出てくるだろうから今しかない。


高木は自分も用を足していたふりをして水を流し、急いで個室を出た。


このまま何食わぬ顔をして教室に戻ることができていたら、中学校時代の極上にいい思い出として残った完全犯罪となったはずだ。


だが、そうは問屋が卸さなかった。

女子便所を出た時、廊下を巡回していた体育教師の矢田貝と鉢合わせしてしまったのだ。


「お前何やってたんだ!?」


厳しい顔で詰め寄る矢田貝に高木は「男子便所と間違えて」と言い訳したが、「個室から出てきただろ!」と決定的なことを指摘されてしまう。

どうやら見ていたらしいが、なぜこいつは女子便所の中を見ていたんだろう?

だが、今はそれどころではない。


おまけに矢田貝はかなり気のきかない男だった。


「お前さっき女子便所で何をしとったんだ!!」

と大声で怒鳴った時には、女子便所から円香が出てきていた。


このやり取りと状況から、彼女が自身の脱糞を高木に見られていた可能性が高いことに気づかないはずはない。

みるみる顔をゆがませて高木を睨みつけ、その場で泣き崩れて教室へ走り去った。


「お前ちょっと生徒指導室へ来い!!」

高木は生徒指導室へ引っ立てられ、矢田貝にさんざん怒られたが、より深刻なのは円香に何て言い訳すればいいかである。


休み時間になってからいったん教室に戻され、恐る恐る円香の席を見たが、いなかった。

どうやら教室に戻った後、泣きながら鞄を持って帰ってしまったらしい。


その日の放課後、再び生徒指導室に呼ばれて体育教師や高木の担任教師、生徒指導の教師にこっぴどく叱られて親にまで知らされて家でも怒られる羽目になったが、頭の中は円香のことでいっぱいだった。


これからどうなるんだろう、円香はまた自分と口をきいてくれるだろうかと、そればかり考えていたのだ。


しかし、高木の考えは甘かった。

この許されざる行為は円香との関係どころか、クラス全員との関係をも破滅させることになったのだ。


そして翌日から、現在につながる本物の地獄が始まる。

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