第2話 三年七組

船津円香を初めて見たのは中学校の入学式だった。


高木の入学するO市立北中学校はO市内の北小学校と中川小学校の学区の生徒で占められ、高木は北小学校出身で円香は中川小学校出身だったので小学校時代に接点はなかったのだ。


彼女は他の女生徒とは一線を画する可愛らしさの持ち主であった。

北中学校の女子生徒の制服は濃紺に白いラインの昭和チックな色気もくそもないセーラー服だったが、セミロングの髪型の円香が着ると良く映え、すでに中二か中三くらいに大人びて見えたものだ。

その姿を一目見た瞬間から高木の目はくぎ付けになり、それまで小学校四年生から片思いだった同じ北小学校出身の水野智恵が一気に眼中に入らなくなったくらいである。

ランドセルをしょってたイメージしかない智恵は中学生の制服が「着ている」というより「着られている」くらい似合わず、ガキっぽいことこの上ない。


それから中学校では円香を目で追うようになったのだが、一年も二年も違うクラスで遠くから眺めることしかできなかった。

観察していていつも目についたのは彼女は男女ともに好かれる華のある生徒で、いつも大勢の中心にいたことだ。


いつか彼女を囲んでおしゃべりができる人間のうちの一人になるか、あわよくば彼女と二人っきりになりたいといつも夢想していたものである。


その思いは中学校最終学年の三年生になってようやくかなう。


新たなクラスとなった三年七組で円香とようやく同じクラスになったのだ。

高木は中学最後の学年で大当たりを引いたと感じていた。


しかも七組には小学校から通算して半分強が過去に同じクラスになったことがある者であり、中には彼の小学校時代からの親友二人がいたからなおさらである。


さらに極めつけに幸運なことに新学期早々席は円香の隣。

二年間遠くから見ているだけだった円香のすぐ近くにずっといられるのだ。

そして初日から初めて口をきく機会にも恵まれる。

恋焦がれるあまり話しかけづらい存在だった円香は、どちらかと言えば女子に好かれる方ではなかった高木にも優しく、極めてフレンドリーに接してくれるために話しやすい人柄であることがわかったため、天にも昇る気持ちになった。


円香とお近づきになれただけではない。

新たなクラスは全体の雰囲気も明るく、全員がすでに団結していると言っても過言ではない理想的なものだった。

4月末の時点で早くも来年の3月には卒業してこの楽しいクラスとはお別れになるのか、と目が潤みかけたこともあったくらいである。


七組での一か月間は小学校一年生から中学三年生までの学校生活で一番楽しい期間であったと今でも思う。


だが、それは長くは続かなかった。


5月のゴールデンウィーク明けに、以後十年以上悔やみ続けることになる過ちを犯す日がやってくる。

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