第4話 学年八分
翌日、学校に行くのは不安な気持ちでいっぱいだった。
糞をしているところをのぞかれた円香が犯人の自分にどういう反応をするか心配だったのだ。
一番恥ずかしいところを見られたんだから怒っていないわけはない。
間違いなくいつものように接してくれるはずはない。
だが、結局それについては取り越し苦労だった。
円香は学校に来ていなかったのだ。
昨日のことが相当ショックだったとみられる。
悪いがちょっとホッとした。
どう言い訳しようか、それとも謝るべきなのか昨日からずっと心穏やかでなかったのだ。
先伸ばしにしたことにはなるようだが。
だが、クラスの雰囲気が昨日までとは明らかに違うことにほどなくして気づいた。
何となく自分に対する目がおかしいのだ。
特に女子などは性犯罪者を見るような目つきで、睨むような視線を感じた。
そしてそれは気のせいでは決してなかったことに気づいたのは、いつも仲の良い難波に話しかけたところ露骨に無視されたからだ。
難波は同じく高木と親友の中本とばかり話をし、中本も高木を完全にシカトした。
どういうことだ?
昨日ののぞきがみんなに知られてしまったのか?
昨日生徒指導室で教師たちは、「他の生徒には知られないようにだけはしてやる」と言ってくれてはいたが、泣きながら教室に戻って行った円香が仲のいい友達に打ち明けたのが伝わってしまったのかもしれない。
どう考えてもそうとしか思えない。
そして、ここから本物の地獄が始まった。
まず始まったシカトにも打ちのめされたが、その日のうちにさらなる災難が高木を襲う。
放課後、高木のクラスに学校の不良グループが押しかけ、体育館の裏に連れていかれて殴られたのだ。
高木を殴った不良のうち、番長格と言ってもいい二井川は学年一の美少女の円香に気があったらしく、正義の鉄拳とばかりに張り切って「変態野郎!」とか「のぞき魔」とか罵声を浴びせつつタコ殴りにしてきた。
しこたま暴行された翌日、しょげた顔を腫らして教室に入ったが、クラスのみんなは「ざまみろ」とか「いい気味だ」とかせせら笑う者までいる始末。
そしてクラスの者たちもそれを機に積極的に攻撃してくるようになった。
机に花は置かれるわ教科書は破かれるわ、上履きに画鋲は入れられるわ。
男子には一日に何回も代わる代わる殴られたり蹴られるようになった。
女子には同性にも好かれていた円香の敵討ちとばかりに、集団でズボンとパンツを脱がされて陰茎に輪ゴムをかけられ肛門にチョークを突っ込まれるという屈辱を味わわされるなど正真正銘のいじめに遭うようになる。
それまで和気あいあいとした居心地のいいクラスだったので、この豹変ぶりに高木は呆然とした。
始めから一体感があって団結した雰囲気があったが、こういう場合はより団結するようだ。
高木ののぞきはクラスを超えて伝わっていたらしい。
休み時間に廊下に出ると、他のクラスの連中から「性犯罪者!」と罵声が飛んだり、モノが投げつけられたし、高木をボコったニ井川たち不良も出くわすたびにパンチをくらわせて「テメー登校拒否するか自殺しろよ」とまで脅してきたからクラス八分どころか学年八分になっていた。
担任に訴えても「お前にも原因があるんじゃないか」と言って聞いてくれやしない。
どころか、のぞきをやった一件について高校受験で重要になる内申書に書かざるをえないことまで宣告してきた。
もう限界だ、そして終わりだ。
高校受験を控えた学年だったが、高木は夏休みになるのを待たずに学校に行かなくなった。
二学期になっても三学期になっても行かなかった。
卒業式にも出なかった。
もちろん高校受験をすることはなく、高校にも行っていない。
高木の両親は登校拒否した当初やそれからの数年は死に物狂いで息子を社会復帰させようとしたが、その後はあきらめたようだ。
今後について何も言ってこなくなって何年も経った。
よって26歳の今になってもズルズルとニート生活を送っている。
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