第3話 パラレルワールド
結局、日本への無差別爆撃で、それまで残っていた城もほとんどが崩壊し、天守で現存天守が12個になったのだ。
現存天守としての定義は、
「江戸時代以前に建てられ、そこから、一度も焼失して建て直されていない城」
というもので、
築城時とは形が違っているとしても、その再建時が、江戸期であれば、それは、
「現存天守」
ということになるのだ。
今残っている城としては、九州には、一つもなく、四国に集中している。
「伊予松山、宇和島、高知、丸亀」
の4城で、中国地方では、
「松江、備中松山」
の2城、近畿では、
「姫路、彦根」
の2城で、中部、北陸で、
「丸岡、犬山、松本」
の3城、そして最後に東北に、
「弘前」
の1城ということである、
この中で、姫路城は、実際には、姫路大空襲では、爆弾が落ちたのだが、それが運よく不発弾だったことで、焼失をまぬかれたのだという。
空襲の翌日、城が残っているのを見た市民が涙したという話もあるくらいで、本当に、街のシンボルだったのだろう。
広島などでは、今でこそ、世界遺産として保護されている、
「原爆ドーム」
であるが、街の復興の最中には、
「危険だ」
というような理由から、取り壊しが検討されたというが、現在の形で保持できているのは、市民のおかげといってもいいだろう。姫路も同じような意思が働いていたのかも知れない。
今では姫路も、世界遺産として保護されていて、
「白亜の世界遺産」
ということで、親しまれているのだった。
元々姫路城というのは、最初から今の形だったわけではない。
昔は戦国期からあったのだが、天守などはないところで、ただ、中国地方を目指した時の拠点となることで、当時の黒田官兵衛が、秀吉に城を明け渡したという話が残っているくらいだ。
現在の城になったのは、関ヶ原の論功行賞によって、池田輝政が転封された時、
「西の大名の防波堤」
ということで、今のような立派な城郭ができあがったのだ。
櫓の数もハンパではなく、難攻不落としても有名だった。
特に連立天守としても有名で、
「日本三大連立天守」
に数えられ、
「三大平山城」
にも数えられる国宝にも指定されていたのだった。
櫓の現存もかなりあり、
「近世城郭の代表的な城だ」
といっても過言ではないだろう。
ただ、このような姫路城が現存していることから。
「天守を持ったものが城だ」
というイメージが強く持たれているのは、少し心外なところもある。
別に天守は、城主が住むところでも何でもないわけで、
「悪しきイメージを持たせた」
という意味があったとしても、姫路城の豪華さを否定するものでもなんでもないのだ。
ただ、実際に、現存、非現存に関係なく、これほどの立派な城は類を見ない。
なるほど、
「大坂城や江戸城も立派であっただろうが、総構えの中に、あれだけの大都市が建設されているのだから、元々の城をイメージするというのは、実に難しいものだ」
といってもいいだろう。
そんな城の事情や、戦国期からの日本の歴史を勉強していれば、結構楽しいものである。特に戦国期、幕末、大東亜戦争の時期というのは、歴史好きにはたまらない時代ではないだろうか?
後は、
「治承・寿永の乱」
で、いわゆる、かつては、
「源平合戦」
といっていた時代だった。
この時代は、あたかも源平合戦のように見えるが、実際には、源氏同士の戦いというのも結構あり、考えてみれば、平家一門の間に争いはなかった、そういう意味では、
「団結していたのは平家一門」
ということであり、結構源氏方は、一族でも争いが絶えない家系だったといってもいいかも知れない。
「治承・寿永の乱」
が起こる原因となった、
「保元の乱」
でもそうだったではないか。
崇徳上皇方と後白河天皇方との争いに、藤原摂関家の問題も絡んだことと、武士が台頭してきたことで、混乱した世情であったが、崇徳上皇側に、源為朝、為義親子が絡み、後白河天皇方に、源義朝が絡んだことで、源氏が割れたのだった。
さらには、その後の、以仁王の、
「平家討伐」
の宣旨から挙兵した、木曽義仲と、頼朝軍として派遣された、
「範頼、義経軍」
との間でも、合戦が起こった。
さらに、平家を滅ぼした義経との間に、
「朝廷からの官位譲渡問題」
から生じた確執で起こった、
「頼朝による義経討伐」
まであったではないか。
武士の世界の確立のためということで、幕府ができた後、頼朝の死後から、鎌倉では、北条氏の暗躍から、数々の血なまぐさい事件が起こったりした。
「梶原景時の失脚」
から始まって、
「比企の乱」
「畠山重忠の乱」
「範頼失脚」
「二代将軍頼家暗殺」
「義政追放」
「和田合戦」
とどめが、
「三代将軍実朝暗殺」
であった。
これが、約20年にも満たない間に起こったことであった。
「どれだけ、当時の武家政治が不安定だったのか?」
ということと、
「政治を安定させるために、どれだけの血を求めたというのか?」
ということである。
「元々が土地というものを保証することにより、家臣たちが、将軍のために兵を出す」
という、いわゆる、
「ご恩と奉公」
という絆が、武家政権における、
「封建制度」
というものだったのだ。
これが、中世の政治体制であり、江戸幕府が亡ぶまでの、650年間ほど、日本の政治体制だったのだ。
その後の、
「大日本帝国」
という国家にして、
「立憲君主の中央集権国家」
が、100年も続いていないことを思えば、かなりのものだったのだろう。
もっとも、大日本帝国は、最初から決まった目標に対して突っ走っていたので、壁にぶつかると、ひとたまりもないというのも、無理もないことではないだろうか?
そんな日本の歴史には、いろいろとターニングポイントがある。
そんなターニングポイントには、
「人物がいて、事件がある」
といっていいだろう。
「人物がいるから、数々事件が起こる。事件が起こるから、その事件を中心に、歴史を見る」
といってもいいだろう。
歴史というのは、当たり前のことだが、時間軸に沿って進んでいくので、一種の、
「原因と結果」
のようなものである。
だから、歴史の中で、たまに
「歴史が答えを出してくれる」
という言葉を映画などで見るが、果たしてそうなのだろうか?
前に見たのが、昭和初期に起こった軍事クーデターである、
「226事件」
であるが、決起軍が、反乱軍として鎮圧されることにあり、決起将校たちが、自分が率いていた隊を、原隊に戻す時、
「我々が正しかったことは、歴史が証明してくれる」
ということで、あくまでも、自分たちの正当性を訴えるシーンであった。
ただ、映画だけを見た人は、
「226事件は、皆のために青年将校たちが起こしたクーデターだったんだ」
と思い込むことだろう。
実際に、そういわれていたこともあったが、歴史の勉強をしている人は、そうは思わないだろう。
というのも、
「226事件というのは、陸軍内部の、派閥争いだった」
というのが、定説だからである。
歴史の勉強をしていると、そこに行きつくのだ。
実際がどうだったのかということまでは、正直分からない。しかし、実際に分かっていることだけを研究した今の時点で考えられることは、
「統制派と皇道派という2代派閥の抗争から起こった事件だ」
という結論に行き着くのだ。
というのも、それまでに陸軍の動きを見ていると、最初は皇道派が力を持っていて、統制派を軍から左遷する形で権力を握っていたが、今度は、逆に統制派が優位に立つと、皇道派が、肩身の狭い思いをするようになる。
裏では暗殺事件などの血なまぐさいことが起こっていて、
「血で血を洗う陸軍内の抗争」
だったのだ。
そんな時、統制派が軍を牛耳っているのを、皇道派の青年将校が決起して、
「天皇の近くにいて、暴利をむさぼっている連中を懲らしめる」
という、まるで、討ち入りのような言い訳を用いて、首相官邸や、大蔵大臣邸、さらには、教育総監などを次々に襲撃し、警視庁も占拠し、東京市をクーデターで地に染めたのであった。
それが、
「226事件」
の正体であり、だからこそ、天皇が怒ったのだ。
陸軍は、情状酌量の余地も考えていたが、天皇自ら、
「私が、自ら指揮を執って、反乱軍を鎮圧する」
とまで言いだしたのだから、側近も慌てたことだろう。
そもそもが、天皇の軍隊を、天皇の許可なく動かしたことが、重罪であった。
「226事件」
というと、実際の歴史を知っていれば、派閥争いだということは容易に分かるのだが、映画などの影響からか、どうしても、
「反乱軍を可哀そうだ」
という目で見る人が若干いて、それが日本人における
「判官びいき」
に結びついて、真相がよく分からない状態になっているのではないだろうか?
そんな、
「226事件」
であったが、本城光重という男が、大学生で、アニメのシナリオを書いているやつが、いたが、彼が、226事件をアニメ風にした脚本を書いているのを見たことがあった。
「本庄重光」
という名前は筆名であったが、いろいろなところに顔を出しているようで、その際には、別に名前を変えたりしていないようだった。
彼がやっているのは、そもそも、歴史小説を書いていたようだ。
歴史小説は時代小説と違って、基本的にはノンフィクション。時代考証もしっかりしていて、他の登場人物のこともしっかり調査しておかないと、歴史小説としては、まずいのではないだろうか。
当然時代考証も間違ってはいけない。歴史小説と謳う以上は、まずいに決まっている。
歴史小説としては、主に、幕末のあたりを描いていたようだ、
本人は、以前雑誌の取材で、
「幕末の話が中心なんですか?」
とインタビューアーに聞かれた時、
「私は、新鮮組が好きなんです」
という話であった。
「やっぱり、憧れますよね?」
と聞かれて、彼はその時、
「憧れというよりも、作品としてその隊士一人一人の人生が好きなんです。飾ることもなく、正直に描く。それが僕の新選組なんですよ」
ということであった。
「なるほど、一人一人のドラマですね?」
と聞かれて、
「事実は小説よりも奇なりというでしょう? あれと同じで、一人一人をその人物を正直に書いていくと、そこに関わってきた人生が浮かび上がってくるんですよ。そこが重なり合うことで、自然とまるでフィクションのように膨れ上がってくる。それが楽しいんですよ。僕はあくまでも、フィクションが好きなんですが、こういう形のノンフィクションが、フィクションのような形になるというシチュエーションが一番醍醐味があって、好きなんですよ」
と、いうのだった。
「ところでどの隊士が好きなんですか?」
と聞かれると、少し考えていたが、
「誰が好きとかというわけではなく、憧れの人はいるかも知れません。だけど、僕は小説を書く時は、そのお話の中の主人公になりきる気持ちがあるので、そうなると、新鮮組のような話しをリアルに描くのは、難しいんですよ」
というのだった。
「だったら、そこは、内緒ということで」
というと、
「これ以上聞いてもダメというよりも、下手に聴いて、作家に白状させると、話が通じなくなるということを含んでいるのかな?」
と考えてしまった。
もちろん、考えすぎだという感覚はあるだろう。
しかし、本当に好きな人を話してしまうと、
「作家として書けなくなるということだろういか?」
ということを考えると、
「好きな人を言ってしまうと、ノンフィクションでは書けなくなるということを自分から暴露しているようではないか?」
と考えるのだった。
そう考えると、
「歴史の話を書く場合、歴史小説か、時代小説かということで、結構厳しい境界線のようなものがあるのかも知れない」
とインタビュアーは感じたことであろう。
「作家の世界というのも、結構面倒臭いものなのかも知れないな」
と、作家の世界を知らないだけに、勝手な想像ができるのだろうと思うのだった。
「あくまでもノンフィクションで、時代考証も、取材もきっちりしておく必要がある歴史小説」
と、
「架空の話で、登場人物や時代背景は、実在の話である必要があり、まるで、別の次元のようなお話が、時代小説ではないか?」
というものだった。
そんなことを考えると、
「歴史小説と時代小説の境について、真剣に考えてみたい」
と考える人がいた。
それが、時代小説家の安藤信光だったのだ。
二人は、元々、学生時代からの知り合いだった。
同じ大学のサークルに所属していて、お互いに切磋琢磨していたのだが、ある時、二人が些細なことで口論となり、それは、二人の運命を決めることになったのだから、おかしなものだ。
といっても、口論というだけで、別に喧嘩をしていたというわけではない。
どちらかというと、お互いの自論を戦わせていたというだけのことだったのだが、周りが見ると、
「まるで喧嘩しているようにしか見えない」
というのだった。
そもそも。二人は、普段から話をするような二人ではなかった。同じ小説家を目指している間柄だったが、それ以外のところで接点はない。
「フィクション小説を書くことに情熱を燃やす安藤」
そして、
「忠実な研究から、論文形式の発表を目指して、コツコツと取材や、読書で小説の材料を集めて、少しずつ固めていくという堅実派の本庄」
二人は、ハッキリ言って、大学文芸部のホープであり、
「もし、プロになれなくても、二人はお互いに自分の道を探りながら、小説を書き続けるだろうな」
と言われていた。
まったく性格の違う二人が、大学で双璧となるというのは、実に面白いものであった。
そんな二人のうち、最初に賞を取ったのは、安藤の方だった。
彼が描いた作品は、時代小説ではあったが、話としては、どこか違う次元の話のようだったが、本人がいうには、
「これは、パラレルワールドですね」
というのだった。
「パラレルワールドというと?」
と聞かれて。
「平行世界と呼ばれるものなので、私としては、同一次元の別宇宙という感覚でしょうかね?」
というのだった。
インタビュアーが、
「意味がよく分かりませんが?」
と聞くので、
「普通、異次元というと、本当に違う次元が存在し、その世界はこの世界と背中合わせのようなものだと考えるんですよ。でも、実際のパラレルワールドというのは、この世界とまったく同じ世界で、同じ人間が同じようにいる世界なんですよね。だから、背中合わせとかではなく、同じ世界線上にいるという感覚なんです」
と言われて、質問したインタビュアーはパニックになっているようで、きっと心の中では、
「聞くんじゃなかった」
と思っていることだろう。
「異次元というのは、違うんですかね?」
と聞き返すと、
「異次元は、世界が違うんです。だから、ワームホールのようなものがあれば、向こうの世界にいけるんですよ」
という、
「どうしていけるんですか?」
と聞いてくるので。
「それは、次元が違うからですよ。同じ次元であれば、実際に存在する距離を超越することはできませんからね。つまりは、異次元だから可能なこともあるという考え方ですね」
というではないか。
完全に、相手は頭が混乱していた。
相手も、本当に聞くんじゃなかったと思って、
「ありがとうございます」
といって引き下がった。
本来なら、作家インタビューには慣れているつもりだったが、ここまで話がカオスになってくると、本人もどうしようもないのだった。
その時に書いた話を、出版社側が、宣伝として、SF小説として、出してしまった。それを彼は、
「これは決してSF小説ではない、これは、あくまでも、パラレルワールドの世界だ」
と言い張っていたようだ。
その状態を、本人は、出版社に、
「ドッペルゲンガーだ」
と言ったという。
どうやら次作がドッペルゲンガーの話のようで、それが、続編になるということであった。だから、あくまでも、
「パラレルワールド」
であることにこだわるのだった。
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