第23話 進軍

 高台にある目的地へ到着し、二人は馬車から降りる。


「マリア!」


 イレーネが手を上げ、こちらに向かってくるのが見える。

 今回はエディの姿もあり、全員がこの作戦に参加するようだ。

 前回の仕事では彼が参加していなかったため、マリアにとっては久々の再開だ。


「エディさん、お久しぶりですねぇ」


 マリアは小さく、手を振った。


「お、おう」


 エディはぎこちなく手を振り返す。

 年齢は24、身長は174cm。少し長めの金髪と、タレ目で瞳の色は青。

 大貴族の3男坊であり、長男は若くして騎士団長になる天才。優秀な兄と比べられることに嫌気がさし、冒険者の道へと進むことを決め、親と喧嘩し家を出た。

 クラーラとは昔の知り合いであり、その繋がりで、バルカスのチームに参加したのが、3年前の話だ。

 マリアに惚れており、誰にも気づかれていないつもりだが、本人以外にはバレバレである。


 バルカス達は、マリア達から少し離れた位置で足を止める。

 エディはソフィーに睨まれていることに気付き、バルカスの後ろに、コッソリと隠れた。


「マリア、彼には気を付けてください」


 ソフィーは小声でマリアに話しかける。

 

「エディさんのことです? あの人、意外といい人ですよ?」

「いいですから、私の言う通りにしてください」


 ソフィーは語気を強める。


「わ、分かりました」


 よく分かっていないが、マリアは取り敢えず了承した。


「本当に分かっていますか?」

「だ、大丈夫ですよ?」


 ソフィーからジト目を向けられ、視線を反らした。


「マリア、ちょっといいかしら」


 イレーネがマリアに向かって手招きする。

 マリアは首を傾げた後、彼女の方に近づいた。


「あんたがこの作戦に参加している話は聞いてたけど、何であんたの隣にはあのお姫様がいるのかしら?」


 イレーネはマリアの肩を組み、彼女の耳元で話す。ソフィーには聞こえないよう、小声で。


「だって、私はソフィー様の付き人なので」

「は? 何があって、そうなった」

「色々あるんですよ、色々と」


 正直、今の状況をうまく説明できる自身がない。


「イレーネさん、マリアちゃん、近いから」


 クラーラは頬を膨らまし、2人を引き離す。

 

 そんな中、オーランドは嘘くさい笑顔でこちらに向かってくる。

 

「皆様、お疲れ様です」


 オーランドは大げさに両腕を広げる。

 バルカス達は、膝をついて敬意を表す。

 マリアはそうするべきだったのかと反省したが、今更どうしたものかと思案した。

 ソフィーは相変わらず、我関せず。


「私に敬意を表す必要はありませんよ。少しの間ですが、命を預け合う仲間となるのですから、細かい礼などはよしましょう、バルカスさん」

「心遣い感謝いたします。オーランド殿」


 バルカスが立ち上がると、他の3名も腰を上げた。

 オーランドは彼らを見回し、満足気に頷く。


「今後の話ですが、ゴブリンは町の南側に向かって進軍していますので、兵士達には北側まで迂回してから村に攻め入るよう伝えてあります。その後、我々は、中にある坑道の方に向かいます」

「何人の予定でしょうか?」


 バルカスはオーランドに尋ねる。


「全員で8人です。私と姫様、マリアさんにバルカスさん達、私の側近の1人で作戦を行います」

「オーランド様、8人で大丈夫でしょうか? 我々が町に進軍を開始した時点で、南に進軍したゴブリンが引き返してくる可能性が考えられます。さらに、常に増殖する敵のことを考えると、討伐に掛けられる時間は短いかと思われますが」


 イレーネが口を挟む。

 

「メア」


 オーランドが言葉を発すると、彼の隣の地面が波打ち揺らめく。そこから人が静かに浮かび上がると、波が消えた。


「彼女は私の側近の1人でメアと申します。彼女は地属性の魔法を使い、地面の中を自由に移動することが出来ます。基本、隠密活動に専念してもらってます」


 メアと呼ばれた人物は黒いフードを深めに被り、顔が見えない。身長は155cmと小柄な人物だ。

 バルカス達は、彼女が普通でないことだけは理解できた。


「彼女には色々と調査をして頂き、分かったことがあります。ああ、そう言えば、メア、もういいですよ」


 オーランドの言葉で再び彼女の足元の下で黒い波が渦巻き、メアの体が沈む。姿が消えると共に、渦が拡散した。


「因みに彼女が私達と一緒に作戦を行う最後のメンバーです」


 オーランドは少し間を置いてから、話始める。


「結論から話すと、町に出たゴブリンは引き返すことをせず、女王を攻撃している間、増殖が止まります」

「それは、先程のメア様が調べた結果と言うことでしょうか?」

「イレーネさん、その通りです。ゴブリンの行動はいくつかのパターンしかありません。近くの人間を襲う、近くの街を襲う、そしてこれはまだただの推測ですが、王都の襲撃です」

「なぜ王都なのでしょうか?」

「それは分かりません。王都には、彼らが望む何かがあるのかも知れませんね」


 オーランドは薄ら寒い笑みを浮かべる。


「村に関しては、実際に合った通りです。マリアさん、高台の下は見られましたか?」


 急に話を振られ、マリアは首を振る。


「それでは、暫く歩きますが、現場を見ながら話しましょう」


 高台の下まで行く前に、ゴブリンの姿が見えた。殆どが子供のようなサイズだが、2m近い姿のものも複数体見受けられる。

 ゴブリンは長い列を作り、南の道を大軍で行進している。


 村は、殆どの建物が崩壊していた。それでも執拗に破壊行動を繰り返すゴブリンが存在している。

 マリアの心が負の感情に満たされ、吐き気がした。


「ゴブリンそのものに意思等はありません。奴らの行動の殆どが女王からの命令だと思われます。あれだけの数が存在しているのです、できる命令などたかがしれています。先程言ったように、人を襲うこと、村の破壊行動、そして王都への襲撃です」


 オーランドは立ち止まり、高台の下を眺める。


「命令が曖昧なのは、村で繰り返される無駄な行為が物語っています。村を出たゴブリンは、10m程近付かなければ反応しませんし、直ぐに逃げれば追いかけてくることもありません。遠距離からの攻撃にどう対応するかは確認していませんが」

「そのため、我々は村の外にいる敵は気にしなくてもいいと言うことでよろしいでしょうか?」

「そうです。そして、メアに地中で女王のところまで侵入して頂き、攻撃している間、増殖が止まることを確認しています。マリアさん、あなたは魔物を寄せ付けない結界を張れますよね?」

「そうですね、一応は」


 何故知っているんだとマリアは思ったが、口にはしない。

 

「作戦としてはこうです。まずは北側から兵士達で町の中に攻め入ります。そして僕たちはそのあとに続き坑道の中へ入った後、マリアさんに結界を張って頂く。そしてメアには先に地中で侵入し、適度に女王へ攻撃し増殖を防ぐ、又は抑える、というのが簡単な流れとなります。人数を絞ったのは坑道の広さから、最適な人数を推定したつもりですが、すぐに応援を呼べる手筈は整っています」


 イレーネは少し考え込む。


「バルカス、どう?」

「行くしかあるまい」


 イレーネは他の二人に目配せし、頷くのを確認した。


「オーランド様、私達に異存はありません」


 オーランドは満足気に頷く。


「ソフィー様とマリア様は、どうでしょうか?」


 マリアは了承したが、ソフィーは無言。オーランドは彼女の顔を見て、問題ないと判断した。

 

 オーランドは進行ルートが書かれた地図をバルカスに渡す。


「それでは、15分後に進軍を開始します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る