第24話 私の価値
オーランドの言葉通り、15分後に進軍を開始した。
町の北側の入口から兵士達が流れ込み、戦いが始まる。
メアは先に先行し、他7名で作戦を開始する。
バルカスを先頭にし、町の中へ入り込んだ。兵士が討漏らした敵をバルカスは簡単に薙ぎ払っていく。
「バルカスさん、相変わらずの馬鹿力ですねぇ、流石ですよ」
長い大剣を片手で軽々しく振り回し、小柄とはいえ、敵が遠くまで吹き飛ぶ姿を見れば、マリアとしては感心せざるを得ない。
「その言い方だと、あまり褒められている気がしないがな」
「そんなことありませんよ、最高の褒め言葉です。格好良いですよぉ、バルカスさん」
「そうか、ならいいがな」
バルカスは適当に相槌を打ち、目の前の敵に集中する。
マリアの言葉に、ソフィーとエディはムッとする。
ソフィーはマリアに、エディはバルカスに腹を立てた。
ソフィーはマリアの頭を小突き、エディはバルカスの前に出ると、ハルバードを振り回し、敵を薙ぎ払う。
「エディ、勝手に前に出るな!」
「す、すいません」
バルカスに叱られ、エディは直ぐに頭が冷えた。マリアの方に振り向くと、彼女はソフィーと戯れており、彼の方には意識が向いていない。
エディはガックシと肩を落とすと、イレーネが彼の肩を叩く。
「どんまい」
「な、何がですかね!?」
「さあ」
イレーネはわざとらしく肩を竦めた。
――――――
北口から坑道までの道は村の中でも離れにあるため、人の死体は転がっていない。
マリアは村の方には目を向けず、前を走る仲間だけに意識を向けるようにした。
坑道の入口前で交戦している。
「皆、一旦止まって」
イレーネの言葉で、全員足を止めた。
ソフィーまでちゃんと止まってくれたことに、イレーネは我が目を疑うが、直ぐに頭を切り替える。
「クラーラ、魔法」
その言葉だけで彼女は理解し、杖を坑道の方に向け、詠唱に入る。
杖の先端に小さな火の玉が灯ると、直径1m以上まで膨れ上がり、勢いよく迸る。
火の熱気にマリアは後退った。
「今から坑道に向かって魔法を放つから、みんな退きな!」
イレーネの言葉を受け、坑道前の兵士達が後退する。
「クラーラ」
「分かってるよ、イレーネさん!」
炎の渦が高速で打ち出され、直線上にいたゴブリン達は跡形もなく灰になる。
打ち漏らした敵はバルカスとエディにより倒される。
一番後ろで待機しているオーランドは、呑気に手を叩いて称賛した。
「エディ、皆に補助魔法を」
「分かってますよ」
エディの属性は水。魔法は攻撃より補助に特化している。
ハルバードを地面に突き刺し、目を閉じると、詠唱を行う。
空気中に7つの水泡が浮かび、7人の体全体を覆う。
水の泡は、速度、力、魔力を向上させ、体にまとった水の魔力は簡単な攻撃なら無効化してくれる。
「そう言えば、ソフィー様、おとなしいですねぇ。もっと前線に出て暴れまわるかと思ってましたよ」
ソフィーの狂気的な話をよく聞いていたが、今日はずっと後ろから黙って付いて来ているだけで、剣も持たずに手ぶらな状態だ。
「今日はただ、気分が乗らないだけです」
ソフィー自身、良く分かっていない。ただ、自分の戦う姿を、マリアにはあまり見せたくないと思った。
それは、何故?
今までは戦うことが、自分の全てだと思っていた。敵を殺す時、自分は生きているのだと実感できた。心が満たされ、自分は生きていていいのだと思えた。
だけど今は、戦場にいることを苦痛に感じている。
それは、何故?
心の中で問いかけても、答えは誰も教えてくれない。
ソフィーは、考えることを放棄した。
「私は、ソフィー様にはあまり戦って欲しくないですから、嬉しいですけどね」
マリアはそう言って笑う。
それを嬉しいと思ってしまう自分は、きっとどこかおかしいのだろうと、ソフィーは思った。
だって、戦う自分にしか価値はないのだから。
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