第7話 貴族と平民

 児童施設の子供達にお菓子をあげ、喜ぶ姿を見たマリアはホクホク顔になる。

 子供達と昼食を共にし、夕方まで一緒に遊んだ後、教会に戻った。

 自分の部屋でダラダラとしていると、ノックもなしに扉が開く。


「マリア、入るよ」


 部屋に入りながら口にする。

 

「アンナじゃないですか。どうしました?」


 マリアは上体を起こし、急な訪問者に対応する。彼女が断りもなしに入ってくるのはいつもの事であり、特に気にしない。


「次期聖女候補とは思えないだらけぶりだね」

「ちょっとー、それは言わない約束ですよね?」

「ごめんごめん」


 アンナは快活に笑うと、部屋の真ん中にあるテーブルから椅子を引き、逆向きに座った。

 

「マリアには頑張って貰わないとね。何せ、私達平民の希望なんだから」

「それも禁止ですよー」

「そうだったっけ?」


 アンナはわざとらしく首を傾げる。

 身長は170cm、そばかすと男の子のような短い赤毛が特徴的だ。

 年齢はマリアより1歳年下だが、教会に入ったのは彼女が先である。先輩としてマリアの世話を焼き、今は一番の友人となっている。


「聖女様が探してたよ。見つけたら私の部屋にくるように伝えてくれって、言われちゃった」

「マジですか?」

「うん、マジだよマジの話」


 マリアは呼び出される理由が分からない。

 昨日の雑用を頼んだ件か? マリアは顎に手を置き、首を傾げる。

 

「怒ってました?」

「そんなことないよ。それを聞いていた、他の聖女候補のご令嬢は嫉妬で怒ってたかもだけど」

「面倒事を押し付けられ、更に嫉妬までされたら、そんなの堪ったもんじゃないですねー」


 マリアはウンザリとした顔になる。


「私だって、聖女様とフランクに話せるマリアが羨ましいもん」

「そんなものですかね?」

「そんなものだよ。だって、聖女様に憧れている子はやっぱ多いよ?」

「なるほど、気を付けますかねー」


 アンナは笑う。


「気を付けなくていいよ。だって私、聖女様とマリアが話てるのを聞くのが面白くて好きなんだから」


 マリアはアンナをジト目で睨む。


「私が他の方から嫌な感情を向けられてもですか?」

「うん」

 

 マリアはベットから腰を上げると、アンナの額に軽くチョップをかました。

 

 アンナがひとしきり痛がって見せた後、しばらく2人で笑い合った。



 ――――――

 


 貴族は血統を重んじる。魔力の高い者が多く、平民は魔力が低い。それが一般的な認識である。

 魔力が高い者ほど優遇される。そのため、貴族は平民に対して優越感を抱く。

 

 光属性の者は教会に所属する。それも一般的な考えだ。

 人は必ず1つの属性を持って生まれる。魔力は遺伝すると言われているが、属性は個性であり、遺伝しないと考えられている。

 光属性は女神の祝福だと、教会は信仰する。


 貴族は産まれた時に、自分の子供の属性を調べ、小さい時から魔法の英才教育を行う。

 平民は自分の子供の属性は調べないのが大半である。魔力の低い可能性が高く、そもそも魔法の教育には多額のお金がかかるからだ。

 そのため、教会は12歳になった平民の子供を集め、光属性だと分ると教会に引き入れ、教育する。


 貴族も、平民も12歳の年で教会の門を叩く。それが1つの流れとなっている。が、その時点ですでに差は開いている。

 マリアは14歳の頃に教会へ入ったが、それは稀なケースである。


 教会は各地にあるが、王都にある教会が大元になる。そこに聖女がおり、教皇がいる。各地から魔力の高い者を集め、聖女候補と呼ばれるエリートが存在する。

 建物も綺羅びやかで壮観、王家の方が住むお城にも決して引けは取らない。


 王都の教会に滞在している貴族と平民の比率は6対4で、貴族の方が多くなっている。

 雑用は全て平民の仕事であったが、今では貴族も同じ事を行う。

 それは今から13年前、まだ聖女になったばかりの女が起こした1つの革命だと、王都中で話題になった。

 本人としては、効率が悪いからそうしただけで、革命を起こしたつもり等さらさらない。それは彼女がまだ30歳になったばかりの事だ。


 聖女はシンボルとしての存在であり、全てを取り仕切るのは教皇。それが一般的な認識だったが、今では聖女の采配により教会が動く。

 教皇は聖女より20も年上の男性であり、昔は抵抗をしていたが、今では聖女に付き従っている。


 貴族が平民と同じ仕事をさせることには、当然不満が出た。それでも大した争いにならなかったのは、聖女の絶対的な魔力の高さと、人をひきつけ、心酔させる力があったからだ。


 聖女の采配により表面上の平和は10年以上続いたが、マリアが現れ、決壊した。

 マリアは平民代表として祭り上げられ、槍玉となった。彼女としては平和を望み、静かにしていたいのに、周りが勝手にヒートアップして行く。

 聖女も面白がって、危険がない内は好きにさせた。

 今は少し落ち着いたが、今だに貴族VS平民の火種は燻ぶったままである。


 ちなみに余談だが、男女の比率も6対4であり男の方が多い結果となる。

 


 ――――――



 王国は精霊を信仰する。

 

 王家には精霊の血が入っていると言われ、王国は精霊の地と呼ばれる。

 

 火、水、風、土の魔法は、精霊の力によると信じられている。

 人は1つの属性しか扱えず、自分の体内にある魔力しか扱えない。

 精霊の子は4つの属性が扱え、自然界にあるマナの力を扱い、その力はほぼ無尽蔵と言われている。


 それは、人の範疇を超えている。


 化け物の子。


 誰かがそう言った。


 だけど、誰も否定できなかった。

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