第2話 聖女候補
途中でクラーラと合流する。
「うわ〜、マリアちゃんだ。久しぶり〜」
クラーラはマリアの手を握り、とびっきりの笑顔を向ける。
クラーラの年齢は20で、身長は156cm。マリアと比べるとぽっちゃりに見えるが、世間一般的には普通寄りの体型だ。少し気にしているのか、服は必ずゆったり目なローブを着ることが多い。
美人ではないかもしれないが、たぬき顔で愛くるしい顔をしているため、人からは好かれやすい。
髪は淡い灰色がかった黄色で、おさげにしている。
ローブは白く可愛らしいデザインのものを身に着けており、木製の杖は、かなり短いものを選んでいる。
「あららー、彼女の前で堂々と浮気とは、クラーラもやるようになったわね」
「ち、違うよ、イレーネさん。私はイレーネさん一筋だから!」
クラーラは慌てたように、マリアから手を離すと、パタパタと手を振った。
マリアは思う。その本人は全く一筋じゃないですけどね!
イレーネが大声で笑うと、クラーラはしばらく放心した後、頰を膨らませる。
「イレーネさんは、本当に意地悪なんだから」
「クラーラが愛しいから、意地悪しちゃうのよ。だから、許してくれる?」
イレーネが後ろから抱きつくと、クラーラは顔を真っ赤にし、徐々に顔がとろけて行く。そして、鼻血が垂れる。
マリアの顔が引き攣る。
私は一体何を見させられているんだ?
「あれは多分、お前に断れた腹いせをクラーラにぶつけているだけだ」
バルカスの言葉に、マリアはげんなりとする。
本当、最低だ。
――――――
王都の北の門に向かい、手配された馬車は軍用の特別製だ。
馬は特殊な品種であり、しかも魔法具により速度や体力が普通の馬の何倍も優秀である。
荷台も特殊な魔法工具を使用し、馬の負担が少ない。振動も全く感じない為、快適性にも優れている。
「これ、王国の方で準備してくれたんですよね?」
「そうよ」
「さすがは姫様案件ですねぇ」
「普通なら、私達が乗れるものではないわね」
バルカスは手綱を握り、他の3人は荷台に乗り込む。
「姫様を追いかけるのって、もしかして私達だけ何ですかね?」
「そうよ、私達だけね」
「それって、まずくないです?」
「戦力のことを言っているのなら、過剰なくらいよ。何せ、オーガ数十体ぐらい、姫様一人で十分だからね」
「それは、王国の人もそう言う認識ってことですよね?」
「王国は、姫様の容態なんて全く心配してないと思うわよ。私たちを姫様のもとに差し向けるのは、ただの建前よ」
「ただの建前で差し向けるなんて、姫様に対して失礼なんてもんじゃないですよぉ」
マリアは抗議の意味も込めて、拳を作り、手を振り上げる。
「と言うか、なぜに私たちに行かせるんです? 自分たちで行けばいいじゃないですかぁ」
「1部隊動かすにも、ちょっとした騒ぎになるからね。まぁ、仕方ないわよ」
「これじゃあ、ますます私のいる意味、ないような気がするんですけど?」
「まさか、あんたがこの作戦の肝になってるわよ」
「どー言うことです?」
「流石に、冒険者風情だけで姫様の護衛、送り迎えなんて以ての外よ。女神に使える、由緒正しきシスター様が必要なのよ。王国も送り迎えは私達じゃなくて、あんたにって言われているのよ。すごいわね、ご指名よ。私達もあんたに縁があるから選ばれた訳だし」
「それって、マジですか?」
「ええ、大マジよ」
「嫌われていると思ってたんですけどねぇ。平民出身の私のことは」
マリアは首を傾げる。
「大丈夫でしょ。何せ次期聖女候補なんだから」
「それ、マジで止めてください。聖女様が勝手に言ってるだけなんで。正直、回りは大反対ですし、何より正式な聖女候補の、大貴族のご令嬢からの視線が痛いなんてものじゃないんですからぁ」
頭を押さえるマリアを見て、イレーネは笑う。
「私はあんたに聖女をやって欲しいけどね。これは国民の大半が願っていることよ」
「何を言ってるんです? 適当なことは言わないでくださいよぉ」
「まあ、多少大げさには言ったけども」
「多少なんてレベルじゃないと思いますけど?」
「でもまあ、あんたはもう少し、回りの期待に応える努力をしてもいいんじゃない? 私は、マリアならそれが出来る人間だと信じているから」
「私も、マリアちゃんなら立派な聖女様になれると思うよ。でも、マリアちゃんが聖女様になったらもう、こんな風には気軽に喋れなくなるんだね」
クラーラは徐々に悲しげな顔になる。
教会の実質のトップは教皇だが、その上に聖女は祭り上げられ、国王も無視は出来ない存在となっている。
――と言うのは、先代までの話である。今の聖女が実質のトップであり、教皇が顎で使われている状態である。
「私は聖女様に色々仕事を押しつけられているからわかるんですけど、あんな息が詰まる立場は無理ですねぇ。だから、私は絶対に聖女なんかにはなりませんよ。ってか、なれません。だから、クラーラさん、喜んでください」
「よ、喜んで大丈夫なのかな?」
「大丈夫です。クラーラさんとは、おばあちゃんになっても、仲良くお喋りする仲になりたいですから」
「マリアちゃん」
クラーラは感激したように、少し涙ぐむ。
「マリア、人の彼女にプロポーズしないでくれるかしら?」
「ふぇぇ!?」
クラーラは顔を真っ赤にして、マリアを見つめる。
「違いますから!」
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