ドラマーIN US #18 思い出つなぐ

矢野アヤ

思い出つなぐ

 生まれて初めて映画館で観た映画は、サウンド・オブ・ミュージックだった。

 姉妹四人、母に連れられて行ったのだが、五人揃って映画を観たのも、立ち見をしたのも、これが初めで最後の体験になった。多分ストーリーはわかっていなかった。それでも前に並ぶ大人たちの間から覗いた眩しく光るスクリーンの大きかったこととワクワク感を、今でも覚えている。私は小学校低学年、末っ子はまだ幼稚園に入った頃だった。

 四女、末っ子の結婚が決まった夏、最後の思い出にと家族でスイスに旅行した。大学の山岳部で出会い結婚した両親の、特に母の長年夢見た場所だった。登山電車の終点、ユングフラウヨッホ駅を降りた先にあったのは、夢以上に夢のような光景だった。いくつもの山が重なる白い峰々に囲われて、緑の草原で食べたソーセージの美味しかったこと。ホテルの人に、こんなに晴天が続くことは滅多にないと言われたほどの晴天に恵まれたのは、母の思いの強さの賜物だったのだろうか。誰の結婚式でも泣かない母の、無言で涙する乙女な姿を姉妹で笑いながら、母に連れられて立ち見をしたスクリーンを思い出していた。

 まだ小さい二人の息子を連れて帰省した実家で、サウンド・オブ・ミュージックのビデオテープを見つけ、一緒に観たことがあった。子供が中学生になった頃にも、今度はアメリカの自宅で、夫と四人揃って観てみた。初めは乗り気でなかった、普段はハリウッドの大作映画ばかりを観ている息子たちも、思ったより良かった、と楽しんでいた。

 スイスで涙した母の年齢に近づいて来た。次男の結婚が決まったら(ってまだ学生だけど)、家族でスイスを旅してみたい。出産から今に至るまでアメリカで生活してきたために、日本の家族と過ごせる時間は少なかったが、いろんな形で家族の思い出をつないでいきたい。そしていつか、今度は孫とサウンドオブミュージックを観れるといいな。まあ、まずは旅行資金を貯めないと。

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