4月

『勇者』

意識の生じた瞬間に、自分の運命が分かった。

周りには、怒りや憎しみや恨みの言葉たち。それだけ。

いっそ言葉たちに身を任せていたなら、楽になれたのかな。

あふれる言葉たちの真ん中でたったひとり、終わりを待っていた。

ねぇだから、そんな顔をしないで。

どうか世界を。

ボクを。

救って。

勇者

(2022/04/04)


『「勇者」と』

「どうしてボクを生き返らせたの」

「僕は元々神官だもの。それに君は死んでいなかったよ」

「魔王まで生き返ってしまったかもしれないじゃない」

「聖剣が消えたのだから、魔王は死んだんだよ」

「だって、でも、ボクは。ボクは、もし、そうなら」

「うん」

「あのね、勇者」

「うん」

「ありがとう」

(2022/04/09)


『メリーさん』

私、メリーさん。

そんな電話があの子の携帯ににかかってきたのは昨日のこと。

電話に出なければ近づいては来ないのだと、携帯が鳴るたび腕だけが別の生き物のように動いてしまう彼女の手を、強引にこちらに引っ張って、握りしめて、抱き締めて。


そうして守っているつもりになっていた今日。


最初にあの子が取ってしまった電話で、ソレが居場所と告げたその場所で。

何人も人が死んでいるとニュースで流れた瞬間に、鳴り始めた電話を、決意の表情で手を伸ばしたあの子を。

止めることはもう、できなかった。

(2022/04/13)

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