5月

『実(じつ)』

溺れるような恋をして、それが穏やかな愛情に変わった頃、惚れ薬を盛られていたのだと言われた。

否定する彼女の前に、次々と積み上げられる証拠たち。引き離されて、解毒剤だと言われる何かを飲まされて。でもそれで何が変わったというのだろう。

愚か者で構わない。俺には君しかいない。逃げようか。

(2022/05/12)


『真(しん)』

心当たりは全くなかった。惚れ薬だなんて。密かに想っていた相手に好きだと言われて舞い上がり、周りの目に気づけなかったのは私の落ち度。

婚約者に一番近いと言われてた女が微笑んだのを確かに見た。

でもお生憎さま。確かに愛されてたって私は知ってる。だからちっとも辛くない。何があっても。

(2022/05/15)


『果ての先』

少年と少女は世界の果てを目指して旅をした。

山を越え川を渡って谷を越え、海へと繰り出す。そうして辿り着いたのは海の縁。

滝のように海水の落ちていく先は真っ白で、その下に何があるのか分からない。

少年と少女は顔を見合わせて、大きく一つ頷くと、僅かに船を持ち上げて、海の縁を乗り越えた。

(2022/05/16)


『真実』

「どうして上手くいかないの!」と君が喚く。

解毒剤と偽って渡した惚れ薬をすり替えたのも、あの男が女を連れて逃げるのを手伝ったのも僕だもの。僕を側に置いて、上手くいくわけないじゃない。

上手に甘やかして、僕だけを見るように仕向けてあげる。さぁまずは、あんな男のことは忘れちゃいなよ。

(2022/05/21)

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