21 ヒト科は懲りない
住宅街の公園――園内時計が4時30分を示している。お日様が、西の稜線の方にいっているものの空はまだ明るい。前を通りかかるブレザー制服姿の深山剣斗は、高校帰り。「先輩。深山先輩ですよね」と声掛けして出てきた同制服姿で、ネクタイの色違いの柊木拓光。
「ああ、たしか。2年の柊木か」と深山。
「少し時間、いいですか?」と公園内に手を差し伸べる柊木。
「ま、いいけれど。なに? 6時からバイトだから、手短に……」
一緒に入っていく柊木拓光と、深山剣斗。
高峰家・ⅬDKリビング――つけっぱテレビに、例のリポーター女子が映って、どこかの海沿い公園を取材する。うっすら明るい室内灯に、今も集るクロナノテントウ。
一人レトルトカレーを山盛りライスの皿にかけて……ラッキョウに、漬けニンニク。福神漬けの添物3品もテンコ盛りして、キッチンから……リビングソファへと運んでいく高峰奈菜未……。「かあさんお仕事で、優理華はお仲間行動だし。アタシは一人で大盛夕飯のカレーだし。夏休み前の期末テストもあるから勉強だし」と少し口からも漏れる心の声を吐く奈菜未がなんとなく目にした掛け時計は、5時30分。「先輩、高校、終わったね。あれからゼンゼン進展ないし……まずは腹ごしらえだしぃ」とカレーライスを目の前にして、舌なめずりしつつ……スプーンを構える奈菜未。
城南海浜公園――羽田沖の手前の小島の東京湾(太平洋)に面した整備された公園。
例のリポーター女子取材陣が、ロケ準備して……報じる。
「梅雨の休みの夜空は、今夜は超レアな、年に一回あるかないかのスーパームーンが……間もなくあちら(と手を差し伸べ)東にあたる水平線より……ああ、もう半分は顔を見せておりますが、只今の時刻17時30分ですが、日没を考慮しまして、19時頃から数時間は観測できるようです。本日は13日の金曜日ともありますが、吉凶の何れなのかは知る由も御座いませんが。兎に角名月であることは確かです」と公園海岸から水平線を映す。
高峰家・ⅬDKリビング――一人レトルトカレーを調子よく頬張る奈菜未……。
「昨今、満月と言えば奇怪生物現象で御座いますが。今夜もどこかで出現するのでしょうか? 未だ、当局でも予測困難なため……」とリポーター女子からアングルパーンした映像が水平線から半分顔を出しているおっきな月になるいい感じのロケ報道なのに……。
「え? なに?」とクエスチョンなリポーター女子の声がして、「あ、リポーター女子さん。貸して」とマイクを奪い取った小谷妃小里が、「ねえ、奈菜未ちゃん。ここに来て。今夜はここで大荒れの予感がするわ」とカメラ目線で呼びかける。
テレビの前で、絶句して、カレーライスをかっ込んだ口を閉じてモグモグするが、多少咽て、ごくりと飲み込む涙目の奈菜未。「水、水」とキッチンに行って、適当なカップで水を飲み、落ち着く奈菜未がもう一度テレビを見る。
「え! 今から。電車で小一時間はかかるし。どうしてテレビ越し?」と奈菜未。
城南海浜公園――マイクを取り返したリポーター女子が気を取り直しカメラに向かう。
「失礼しました。突然のマイクジャック少女に襲撃食らっちまいましたが。めげずに、絶景ポイントからの今宵のスーパームーンの模様をお送りします、ね。CⅯです」と小首を傾げてあざとくウインクをお茶の間に投げかけるリポーター女子。
取材現場を立ち去ろうと後ろを向く小谷妃小里。
「ねえ、貴女、貴女、覚えあるわよ」と駆け寄るリポーター女子。
「へえ?」と力ぬけた感じに振り向く小谷妃小里。
「確か、60番街タワービルのアニフェス会場で、奇怪生物に成った子よね?」
「……」と無言の頷きそうになる仕草に気がついて堪える妃小里。
「どうして? 今の子、呼んだの?」とリポーター女子。
「え? 何のこと? でも、 あ! アタイも思い出したよ、リアルに遭遇したあんたのことを」
「で、さっきの感じでは、この辺りで、今夜も現象が起きるの?」
「ううんう」と首を横に振って、「あっち」と妃小里が指差す先は……羽田島の空港しかない場所。「あんた、平らでいい報道今のところしているから、ヒントね。じゃあ」と後ろを向いてスタコラと行ってしまう小谷妃小里。
見送るように見つめるリポーター女子が、微笑する。「あ! いい加減、私の名前、言ってよねぇ原作者さん」とカメラ目線癖が出て訴えてくるリポーター女子の……。
マンションを過ぎた交差点は向こうに駅……歩いてきて信号待ちする高峰奈菜未。正面から自転車で専用レーンで待つテントウムシリックを背負ったアカテン虫。マンションから出て行く……背中越しに擦れ違う深山先輩は別方向へ走っていく……。
歩道写真号が青になって。渡る……レーンを来るアカテン虫の自転車と擦れ違って、「お! 奈菜未」「よ! リモート女史の○○ちゃん」と騒音にかき消されるアカテン虫の本名を言う奈菜未。どう見ても顔見知りが軽い挨拶をするシチュエーションだ。
駅構内へと入っていく……奈菜未。「もぉ、キューミンさん。あんたが力貸してくれれば、飛んでいけるんじゃないのかなぁ? どうして音信不通?」とぶつくさ胸の内で文句たらたらに……。駅に向かって右の稜線際が些か明るさを見せ始めているが、まだまだ明るい夏の夜の……駅時計18時30分の時間帯。
城南海浜公園――もうすっかり夜の空。水面からすっかり出たスーパームーンを背景に……リポーターらの取材カーが羽田島へと向かう……。その上空を行き交う旅客機の下を海鳥の群衆が……。海から跳ね上がった大きな鮫が……羽田島へと向かう宙で……神々しい閃光を放ってヒトガタシルエットに変貌し……施設内へと姿を消す。他にも横ばいのカニや、常に大群で行動するイワシなどが続々とヒトガタに変貌を遂げて、上陸する……。
住宅街の公園――園内時計が6時35分を示している。「すんません、オーナーママ。別件で、休みます」とスマホ電話を切る深山剣斗。園内に入ってくる柊木拓光。
「羽田の空港に飛んでいく」と輝く深山剣斗。頷いた柊木拓光も輝く。薄暗い空の下で。
羽田島の空港全容俯瞰――近代ビルの空港施設はもうすっかり夜景の一環の電飾状態。
同・施設構内――人々の往来でごったがいしている待合ロビー。
「ドゥリャー」と奇声を放って、両手に鮫のヒレタイプの刃物を持った鮫男が……無差別に切り込む。「シャークン少尉、小隊、参上!」と勇ましく名乗りつつ……。
横ばいながら意外と早足でミリタリー容姿のカニ娘らもハサミ両手をシャキン、シャキンとさせて人々に切り込み。加わってイワシヒトガタの戦闘員らが集結し機関銃を乱射!
「うわー」と奇声をたてて逃げ惑う様々な利用者たち……。
「我ら、海のもの也。ヒト科滅亡を実施するもの也」と鮫男改め、シャークン少尉が宣言して、また、尋常じゃない速さで人々に襲い掛かる……。「我ら、ここを占拠し、拠点基地とする」の有言実行にのっかって、カニ娘らも襲い掛かり……イワシ戦闘員らも乱射する。
空港警察がいっぱい来て、随所に固まった利用者らを盾で庇い拳銃を構える。「やめろ」
「ついに、出現しました。ミックモンの襲撃です」と2階バルコニーからリポートするリポーター女子。(と今更名は匿名で!)「……? ですが、未だ。渋滞にはまっているのでしょうか? この事件の担当である公安女子警部さんが未だ、顔を見せません?」
「ふん、丁度いい。あれを利用して、公にする」とシャークン少尉が手を振る。
カニ娘らもやいのやいのと、同意の術を露わにして囃し立てる。イワシ戦闘員らもヒト科の塊へと、イワシ型の機関銃を構え、遠慮しらずに撃ちまくる。
庇い構える警察の盾をも風穴を開ける威力で、被弾した警察と一般者が幾人か撃たれる。
「やあー」とファルミンが炎を纏って滑空し……ミックモンら目掛けて火の粉をふりまき冷静さを……狙う。
「ファルミン。どうして、邪魔する?」とシャークン少尉。
「気持ちは分かるよ。でもね、シャークン少尉。無差別皆殺しって、言うのも……考えものかと」と旋回しシャークン少尉に近づくファルミン。
「どういうことだ。ファルミン」
「いつでもやれる一般のヒト科よりも。国を動かすお歴々を何とかしないと、じゃない?」
「だとしても。我らの基地は必須。ここを占拠する。実力行使でな」と口から高速な水鉄砲を吐いて攻撃する。庇う空港警察の盾を切り裂き、拳銃をも切断する威力の……石材店で石を切る際の水カッターと言ったところを思ってもらえばいいだろう……ウォーターシュート。先のどこかのトラベルツアー案内の硬質性の大型ディプレイ看板50ミリを大きく貫通し風穴をかけている。
「ま、ファルミンの言うことも一理あるか、怯えるだけで何も抵抗できないヒト科に、些か……不憫を感じないこともないか?」
「おい。鮫野郎」と今更ながらしゃしゃり出て、アーミーナイフを構える強面男。
こんな状況下でも、スマホで撮りまくるバルコニーらに群がる野次馬連中の……たゆまぬフラッシュで、またまた頭に血が上ったかのように、息むシャークン少尉。
「なんんだ、お前ら。ヒト科特有のSNS投稿写真でも撮っているのか? 己らは、一般の部外者であろうが」と鬼の形相の如く……イラつきがまたまた復活するシャークン少尉。
同・外――スーパームーンを左に見て……飛んでくるマンティンと、スタングン。高度を下げて……空港施設のビルへと降下する……。
同・地下の駅――ホームにモノレールが到着する。下車する高峰奈菜未……。
同・空港構内――怯える一般利用客ら数カ所に文擦る塊を、庇う空港警察。2階バルコニーから取材を試みて、今は様子をカメラに収めているリポーター女子取材陣。対面の手摺から滑空してくるマンティンと、スタングン。現場となっている宙でホバリングしてファルミンが、シャークン少尉率いる小隊と対峙している。
地下からのエスカレーターできた高峰奈菜未が、血も出ている現場を見て、慄くも、偶然上を見た視界にファルミンを捕えて、声をかける。
「ごめーん、ファルミン。キューミンが力貸してくれなくて、公共機関できたし」
「ううん。でね、分かる? この感じ」と下を示すファルミン。
「ん、何となく」とシャークン少尉を見て、「貴方が大将ね」と問う奈菜未。
「なんだ? このヒト科娘は。天然だったか」とかみ合わなさに狼狽えるシャークン少尉。
「どうして、キューミンにならないの?」とファルミンが問う。
「だあってぇ……音沙汰が依然とないんだもの」とブー垂れる奈菜未。
「上を見て」とファルミン。「我は、少尉だが……」とシャークン少尉。
素直に天を仰ぐ奈菜未……内部が反射する天井のガラス張りの外で、煌々と照る月光シャワーが注がれる!
ドクッと! した感じがして……白目に成った奈菜未が……体内からシアンブルーの閃光を放つ! スタングンも、マンティンも見守る中……自ら放った輝きに包まれたシルエットが……アゲハ蝶のキューミンへと変貌していく……「フラッシュ!」と勝手に口を突く呪文的言葉。輝きが空けると、シアンブルーのアゲハ蝶タイプのキューミンが姿を現す。
「成れたじゃない」とファルミン。
「……」無言を保つキューミン。
「あれ? 奈菜未ちゃんって」とマンティン。
「そうさ。同類なんだ、知らなかったのか? マンティン」とスタングン。
「でも、なんか? 違う。奈菜未ちゃんの感じしない」とマンティン。
「え?」とファルミン。
「おい。我らは、ほったらかしか? なら」と手を振るシャークン少尉。
合図で占拠行動を再び開始する……カニ娘らとイワシ戦闘員……。マシンガンをぶっ放し! ハサミの刃でヒト科に切り込む攻撃。
瞬時に動いたキューミンが……また戻る。と、カニ娘とイワシ戦闘員らを一網打尽にやっつけている。リポーター女子取材陣がカメラを向けている。が、一般野次馬もスマホカメラを向けていて、睨んでひと羽ばたきするキューミンの羽から無数の黄色い光線弾のBTフレアが放たれて、スマホを壊す。ひとしきり優しい風が何処からともなく舞う……。
「懲りないね。投稿してギャラをもらうの? 将来って。もうオジン、オバンもいるし」
蔑んだ冷たい目を向けている……シアンに輝くキューミンと化した高峰奈菜未!
「臭いにおいは元からですよ、シャークン少尉」と優し気女子の声の乙姫の幻影が浮かぶ。
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