20 白は黒。黒は?
その夜――煌々と青く輝きを放つ満ちた月は満月。言い方を変えればスーパームーンが照らしている……とある金持ちの屋敷に景山数希が、お手製デバイスを使って忍び込む。
同・屋敷内応接間――赤絨毯の大広間。どかっと椅子に座るヤシャグレ金持ちオヤジ。
「どうして、管轄外の部署違いだわ、本部長は」と漏らしつつ警備する深山香夏子警部。
暖炉上の純金の置時計を警備する警官隊。
「それで、高本さん。本当に、予告状が届いたのですか?」と香夏子警部。
「ほれ、このとおりに」とレターカードをテーブル上に投げる高本。手にしてみる香夏子警部。「ええ、なになに。13金の今夜11時きっかりに、高本邸に眠る闇財産を頂戴します。怪盗Ⅾ……」と読んで、「これが」と宛名や消印を見るも、「郵便ではないのですか?」
「消印は無いが、今朝、ポストに投函されていたと、うちのメイドが」と高本。
「心当たりは?」と高本の後ろに控えるメイド3人を見る香夏子警部。「タイプ違いね」
「ないなぁ。わしは善良を絵にかいたような投資家だから」と控えるメイドを眺める高本。
「確かにこの金時計は値が張りそうですが。如何ほどですか?」
「この屋敷を象った純金で、レアな時計が組み込まれている。鑑定価値は5千万円だよ」
「5千万円。ねぇ……」と顎に手を当て考える香夏子警部。その目はこの屋敷のありさまに、何か勘ぐってもいるようだ。それでもにこやかなヤシャグレ金持ちオヤジの高本。
「他に、他にないのです? 未納の隠し財産などとか」と香夏子警部。
「無いよ、ない。あるわけないだろぉ、投資の資金から算出し、生活とする予算が年間1千万だよ。キチンと確定申告もしている。疑う余地は無い。この屋敷で高価なもので、盗られるものと言えば、この時計のみだよ。女刑事さん」と高本。
両足開脚状態で自らの顎を擦る香夏子警部。を、盗み見る一人のメイドが忍んで笑う。
同・天井裏――天板隅っこにミクロの穴を空け……クロナノテントウを応接間へと放つ景山。「そっちも警戒してくれ、零華」と囁き、スマホをモニターにして、中の様子を映す。
同・門の外――自転車が置いてある屋根付き門と敷地を囲む屋根付きナマコ壁。道を挟んだ前に、『ファミレス・ミル』があり。1階駐車場に青のクーペ。2階店舗の窓際テーブル席に一人黄昏いる望月零華。が、特殊内臓スコープアイが高本邸に注がれている。「ドスコイ。抜かりなしよ、我が君。でね、どうしてこんなしょうもない屋敷に忍び込んだの?」
同・天井裏――「それはだな。調べによると、どうやら、俺にかこつけて、偽者が……あの女警部が読み上げた予告状を出したようなんだ。満月と予告NGだぜ、俺は」
「でも、らしくないよ、我が君にしては」と零華の声がインカムを通じて聞こえる。
「少し気になるんだ。何でも無ければそれでいい。でも、火は小さいうちに沈下するのがセオリーだぜ。零華」とクロナノテントウからの映像データーをスマホで受けてみる景山。
スマホに映る……七星テントウの姿! 「お! あれ?」と景山が珍しく目を剥く。
同・応接間――赤絨毯の大広間。どかっと椅子に座るヤシャグレ面の高本。その後ろに3人のタイプ違いの美人メイド。暖炉上の純金の置時計が、10時55分を刻む。前を警備する警官隊と、スマホで連絡を取る深山香夏子警部。
「あと5分。怪盗Dとは? 何か詰めないの? 警視庁のデカさんらは」とスマホ相手に怒鳴る香夏子警部。その様子を見ている高本。
「はあ、本部長」とやるせなさアリアリの香夏子警部。
天井のシャンデリアに、対角に集っているクロナノテントウと、七星テントウムシ。
同・天井裏――スマホ画面モニター監視中の景山。
同・子供部屋――学習机に向かっている児童。机脇にランドセル風背負いバッグ。中腰で勉強を見るアカテン虫と名を通している女子。「ではこの計算問題20問を解いてみて」
「はい、先生」と解き始める児童。傍らでアカテン虫がスマホを出して弄りだす。
スマホ画面――この屋敷の見取り図が出て。書斎隠し部屋のPCへアクセス……。
「この子には罪ないけれど。生前贈与頂戴しちゃうよ。元クソオヤジ」と腹の内。
ファミレス・ミル店内――窓際席から黄昏、外を眺める零華。
「よう、美形さん。御一人? 俺たちとご一緒していいかな?」と図々しく零華の横と前に座るナンパ野郎2人。いきなりコップの水を正面ナンパ野郎にぶっかけて、横向いてにかッと笑って、ナンパ野郎の首を優しく触れて……体内スパークの電撃をくらわせる。
「イて、何しやがる」と凄む横のナンパ野郎。「水ぶっかけやがって」と正面のナンパ野郎も……。店員は明らかなるバイト君とパートさんで、知らん顔で厨房へとすっこむしまつ。他の客も疎らにいるが、かかわらず主義のようで目を向けるも、顔を伏せる。
「ねえ、店員さん。この御客、つまみだしていい?」と声を張る零華。
流石に無視するわけにもいかずで、「警察呼びますか?」と。
「いいや。御手を煩わさなくとも。私が摘まみだすよ」と零華。
「やって見ろよ。この助が」「した手に出ていれば、図に乗りやがって」
すくっと立って、ナンパ野郎らを首根っこ掴んで軽々と持ち上げて、戸口へと行く零華。
「おい、ゴミじゃねえよ」と腹をけるナンパ野郎。「はなせ」と唾を吐くナンパ野郎。
唾は瞬時に避けて、蹴ったナンパ野郎の顔面にかっかり。蹴った足を痛がっているそのナンパ野郎。を、出てすぐの踊り場上から投げ捨てる零華。
「ウワー」と落ちた先は。路肩の境となる植え込み裏のゴミ捨て場。
「かえって鏡見な。わたしに匹敵すると思うの? お子ちゃまたち」と戻っていく零華。
同・天井裏――スマホ画面モニター監視中の景山。
「何かあったか? 零華」「ああ、我が君。ゲリラミッションコンプリよ」「は?」「ふつりあいに誘っていただいたお子ちゃまを、捨てただけよ。問題ないよ、我が君」「帰れ。ここは俺だけでいい」「どうして?」「間もなく騒ぎになる。別件での警察事は厄介の種だ」
「うん、わかったよ、我が君」と内臓通信が切れる。「零華の奴」とスマホを見る景山。
同・応接間――赤絨毯の大広間。どかっと椅子に座るヤシャグレ面の高本。その後ろに3人のタイプ違いの美人メイド。暖炉上の純金の置時計が、11時を刻む。前を警備する警官隊と深山香夏子警部に緊張の色が差し込む!
真ん中メイドが……バイブスるスマホをエプロンポッケから出して、見て、艶っぽい声で、「旦那様」と届いたメッセージ――只今、頂戴しました。怪盗Ⅾ――を見せる。
シャンデリアのクロナノテントウが這って天井板をつたって……ミクロ穴に入っていく。
同・天井裏――クロナノテントウを回収し、「単なる同業者のようだ。引き上げるぜ、零華。お迎え宜しく」とインカム無線を伝えて、暗がりへと去っていく景山数希……。
同・応接間――赤絨毯の大広間。どかっと椅子に座るヤシャグレ面の高本。その後ろに3人のタイプ違いの美人メイド。暖炉上の純金の置時計が、11時1分を刻む。前を警備する警官隊と深山香夏子警部に焦りの色を覗かせる。
「何を盗んだの? この怪盗は?」と置時計を見る香夏子警部。
「はて? いたずらかな?」と高本。
ノックして、「御取込み中失礼します。旦那様」と顔を覗かせるアカテン虫。
「ああ、先生」とそっけない高本。
「では旦那様。お子様のお受験お勉強、終わりましたので失礼します」とヘッドホンを首にかけて、七星テントウその物の柄のリックを背負った小柄な眼鏡女子が、丁寧にお辞儀していく。ドアが閉まる間際に、飛んだ七星テントウムシが……同種柄のリックに集る。
「今のお方は?」と香夏子警部。
「ああ、家庭教師だよ、今日は臨時とかで?」と高本。
「今夜は奥様は?」と香夏子警部。
「泥坊が来るっていうから、危険対策で実家に戻らせている」と高本。
「では、お子様と旦那様の御二人?」と香夏子警部。
「ああ。息子も、と言ったのだが、儂のようになると、中学受験だよ」と高本。
「本当に、この時計以外、無いのですよね!」と再三聞く香夏子警部。
「ううん、うん、ないよ。あるわけないよ。わしは善良納税者なのだから……」と高本。
スマホする香夏子警部。「ああ、所轄をここに回して。引き継ぐから」と香夏子警部。
「どういうことかね? 女刑事さん」と高本。
「引き継ぎます。公安のわたしでは役不足ですので」と香夏子警部。
「犯罪者を捕まえてくれんのかね?」と高本。
「捕まえますとも。所轄の警察さんがね。では」とドア向かう香夏子警部。
「へえ……」と立つ手ない高本。
「そいことだから」と一人の警官隊の肩をポンと叩いて出て行ってしまう香夏子警部。
同・外――満月が天辺に移動した月夜。なまこ壁の横の道をチャリンコで行く七星テントウルックの小柄女子。いけないナガラスマホして、微笑を浮かべて即座にしまう。
月夜に映し出された画面の内容は、高本氏隠し財産の1億5千万円の口座移し!
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