19 朱音ちゃん、たらぁ
竜崎家所有のドラゴンパークランド・クアハウスの外――大きくフェンスに囲まれているアウトドア施設もある夜のパークランド。
「いやぁ、いやぁ……」と泣き叫ぶ女子の声……。
「おい、来るな」「誰かぁ」「クマがぁ……!」と幾人かの叫ぶ男女入り乱れた声も。
奥のフェンス際で「ぐぉーぐぉー」と吠える声と何かが壊れる物音も立っている……。
クアハウスから出てきた、朱音に手を引っ張られた奈菜未。この辺りからは売店や各遊戯施設の物陰で完全死角となっていて現状が目視では把握できない。
「ねえ、着替えないの? 朱音ちゃん」と度エッチ超レアビキニでとにかく走る奈菜未。
「急を要するの。着替えている暇なんてありませんことよ、奈菜未さん」と度スケベ野郎心を刺激し拍車をかけざるを得ないハレンチレアビキニで必死こいて走る朱音。
大人も充分に楽しめる巨大滑り台など多種多様なアスレチック性をあしらった遊具の砂地を走る二人、朱音と奈菜未の美脚美尻のケツッペタが薄地の衣からはみ出てしまっていて、スケベ目線にはエロく、女子目線では「可愛い」若しくは、「あざとい」と言った感のあるお姿ながらも人目を気にする暇も惜しみ走り行く……。
「アラート情報は、あの奥のフェンス際となっておりますわ、奈菜未さん」と指差す朱音。
「こんな格好じゃ。場違いだしぃ」と奈菜未。
「平気ですわ。どうせ、変貌してしまえば、あのコス(格好)も、見ようによっては、ハレンチでもありますわ。要するに気の持ちようっていうことでしょ、奈菜未さん」と朱音。
「そうだけど」と奈菜未。
「女子からすれば、可愛い水着パフォーマンスですわ。お分かり、奈菜未さん」と朱音。
「でも、場所やシチュエーションでのことだしぃ……」と奈菜未。
金赤閃光を伴ってドラフランの姿となる……朱音。「続きましょ、奈菜未さん」
「え? つづくって?」と走りつつ悩む奈菜未。
「意思の疎通ですわ! え? もしかしまして、奈菜未さん! まだ、キューミンさんとの意思疎通が……通いきっていませんの?」とドラフランに変貌を遂げている朱音が問う。
「それって? え? 何も、誰も、言ってくれてないしぃ」と奈菜未。
奈菜未らの視野にどうしても見えてしまうほどの広さで、夜の暗がりでもその存在感は莫大な樹海……。暗がりの物影の狭間に境のフェンスも何となく肉眼でも判別がつきはじめたところまで来ている、ドラフランと変貌した朱音と、その姿のままの奈菜未……。
樹海――フェンスを境に広大なる人が滅多立ち入ることのない森林地帯。ところどころに自然とそうなったのであろう木々がない草原地帯も存在するような俯瞰的視野でも昼間の如く拝める。今宵は満月にはまだ遠い半円よりは満ちはじめている月が出ている。密集する木々の縁は、雑草の丈は高く……海抜を増すごとに草丈は短くなる。よおーく目を凝らすと、木々の中は光の加減でほぼ茂みの無い枯れ枝や落ち葉、広葉樹林のみにあらずで、杉やヒノキの林の中も……そもそも植物の樹木とて枝に葉が存在しなければ成り立たない。
樹海から見て、フェンスの向こうで香ばしい肉などのそそられる匂いを伴った……なにやら小型の動物的揺らぐ影が臨め、興味を持ったか食い物と勘違いしたかの子熊では興味津々になるであろう……鼻をクンクンさせて網を揺さぶり……フェンスに掴まり立ちしている。子熊どいえども基本パワーがヒト科の比ではなく頑丈フェンスも生え変わる寸前の乳歯の如しでぐらついている。
「坊や」と言った感じに、「ぐぉお」と吠える母熊が……突進の勢いでフェンスをなぎ倒し壊す。目の前に香ばしい肉の匂いを伴ったヒト科の雌がたじろいで、大声を張る。
「キャアー!」と絹を引き裂くような悲鳴を上げるアウトドア女子が尻餅付いて、「いやぁ、いやぁ……」と後退りする……。「おい、来るな」「誰かぁ」「クマがぁ……!」と叫ぶ男女。が、ヒト科の言葉など通づるすべはない。ヒト科が熊などの獣の鳴き声を声として完全把握できていないように。ヒト科同士でも、母国語は無数に存在し、まだまだ母国語オンリーの者は多いであろう……世界の中にあって。
捩曲がったフェンスのそばで子熊が燥いでいる。が、アウトドア男子らが、後退りする女子を庇って赤々と燃える木炭をトングで挟んで、子熊目掛けて突きつける。
「ぐぉーぐぉー」と吠える母熊が、男子らに無差別に応戦する。子熊を守ろうと必死に抵抗する母熊の様に……出現した閃光の中からフェアリーが浮き出て……母熊へと染み入るように融合する。
フェンスの内外ツーアングルから、遠巻きに見えている光景は……。
外側アングルでは――母熊が壊したフェンスから雪崩れ込むように侵入する……イノシシ、野鹿、野ウサギ、野ネズミ、子狐までをも……侵入していく……。各種獣らにもそれぞれに同様のフェアリー現象が起こって、浸透……つまり融合する。
内側アングルでは――ドラゴンパークランドのBBQ炉から少しあるフェンス際で、尻餅状態で後退りする女子の先には……森林を背景に迫りくる母熊!
少し離れたところに、手ぶり身振りはするものの、何もできずに案じながらも見守るしかない抱き合うアウトドア女子2人。お仲間男子3人が、トングで掴んだ燃え盛る木炭を母熊に向けて威嚇している。
駆けつけたドラフランが、開口一発的な先制攻撃の『ドラゴンヒート改め、ドラゴンヒーティングウィンドー』で低空飛行で母熊を威嚇し、「キューミンさん!」と叫ぶ。
「へ? え、あ! うん」と奈菜未の姿のままに……まあまあなヒト科にしては早めの駆け足で、母熊の目を盗んで……女子を救い出す。
「ねえ、どうして?」と心の声が外に駄々洩れの奈菜未が、滑空するドラフランを見る。
目の前でまだ煙立つ木炭をトングで持つ男子3人が気を止める。
「突然」「熊が」「襲ってきた」と勘違いして答える。
「でも、唐突に出てくるし。このところ鳴りを潜めて大人しいし」と駄々洩れ奈菜未。
「え?」「何を?」「はぁあ?」と、熊を警戒しつつもちぐはぐ感に振り向く3人男子。
ドラゴンヒーティングウィンドーを展開し、抵抗を続けるドラフランでも、熊のみならず、追加獣大勢相手では、苦痛の陰をみせはじめている……。
「ねえ、キューミン、っだけ? 今、力貸して。変身したいし」とぶつくさ奈菜未。
「ター」と掛け声とともに小粒の黒い無数の黒アリが……野鹿を襲う。
「ソーレっ」と共に、バズーン! と輝くショート砲弾となってイノシシを撃つ。
「やぁー」と黄色と黒のまだらな輝く無数の光弾が……野ウサギに子狐を襲い。突然のことで面食らってフリーズ状態になっている野ネズミ……。
「どうした、キューミン。何故目覚めないの、今夜は?」とホバリングする優理華とハイブリット化しているダイナミンが問う。
「え? だれ?」と目を凝らす奈菜未。「え? 優理華?」と目を擦る奈菜未。
「何を言っているの? 私はこの嬢ちゃんと融合したダイナミンだよ。キューミン娘」
「キューミン娘?」と首を傾げる奈菜未。
傍らでは――飛行展開中のドラフラン。後頭部から生えている小さな角から放たれている光弾機関銃でイノシシを足止めしているビートルン。野鹿と対峙するアントーン。
「よし。アタシもヒト科でこの惑星の住人だし」と頷いた奈菜未が、熊に近づいて、問う。
「何か声明、言ったら? 熊さん。その感じは話せるんでしょ?」と奈菜未。
「……」ドラフランの応戦攻撃に対処中で無視する母熊。
「あなたは話せないのかしら?」と朱音。
「話せる。だが話さん」と母熊。
「わけわからんままだし。戦う理由が、動機? ……も分からないしぃ」と奈菜未。
奈菜未の意を考慮して、技を解いたドラフランが熊親子を囲み旋回する……。
公安・深山香夏子警部のオフィス――「え? なに? 北方の森林近くで、暴走熊事件?」とスマホ片手に、出動するため出て行く深山香夏子警部。
竜崎家所有のドラゴンパークランド・クアハウスの外――アウトドア施設の裏手で……。
「アカ、あ! ドラフラン。どうしてアタシがモデル? わけわかんないし」と奈菜未。
「え? 何時の話?」とドラフランと完全一体化している朱音。
「水着フェスの話の疑問だし!」と、奈菜未。
「モデル考えていたら、お姿が。気になるっていうか? なんていうか(自らの胸を擦って)ここんところがむず痒くなるのよ。あなたを考えちゃうのよ。わたくしは」と朱音の意志を答えるドラフラン。
「まあいいし。あとは学校でね。って、ねえぇ熊さん」と問いかける奈菜未。
「……もうこちら側しか……」と母熊。
「ねえってば。聞かせてよ。声明。アタシは半分っていうかァーDNAのこのヒト科が未使用だった潜在的部位とリンクしたフェアリー体のキューミンでもあるのよ」と奈菜未。
「あの峰の向こうは、山際まで人家がいっぱいで、営みずらいですよ」と母熊。
「ここ一体の山間地を数年周期で縄張り移動なさっていると……」と滑空中のドラフラン。
「ヒト科は、わたしらの縄張りを、勝手に奪うくせに」とイノシシ。
「どうして先住していた我ら野獣が、追われていいのか?」と鹿。
「教えて。ヒト科の女子さん」と野ウサギ。
「子どもらの遊び場も減少したの」と野ネズミ。
「……小さいのに」と奈菜未。
「大型獣が迫って来るから、そういった事由で、食物連鎖的定めも、早まるのさ」と子狐。
キューミンではないにしても、アゲハ柄絞り染めカットの青いビキニ姿の奈菜未が悩む。
サイレンと赤色灯が来て――徐行で入ってくる救急車。追うように来る香夏子警部……。
「シールド張って、部外者立禁にしろ、アントーン」とビートルン。
「あ、マスコミもいる。ややこしくなるね」と頭部のクワガタほどではないが左右日本の短い顎をカチカチするアントーン。
関係者と関係獣を取り囲むように、張られていく半透明のドーム型シールド幕……。
「あ! あのお姉さん警部さんは入れて」とダイナミン。「それと、ここのオーナーさんもね。あとから記者会見でわけわかんないじゃ、誹謗中傷の的だから」
「うん、そうしよう」と顎のカチカチを止めて、もう一歩のシールド幕歓声状態で止まる。
「私は、入れて、スタッフはご遠慮で」とリポーター女子。
「だめってぇ。ヒト科有利報道は必至だろ」とビートルン。
「以前の60番街タワービルといい、人間と動植物のハイブリット生命体にも興味が沸いて……ミックモンだよね」とリポーター女子。「兎に角、キチンと報道するから。あなた達がここで、ごにゃごにゃ言っても、世間には何の影響も浸透もしないわよ。中立精神は私のモットーよ、信じて」とエリア内に入って。中断していたシールドが完全化する。
もとよりクロナノテントウ2機が潜入している。
同・一般駐車場――青い車の中で景山と零華が……ナビモニターではないモニターを見ている。シールドを張られたドーム内の映像が投影されている。
「あのリポーターよ、我が君」「審判しよう、俺たちが、な、零華」
同――アウトドア施設の裏手で……。子熊を背にした母熊と距離を保って対峙する奈菜未。囲み様子を見るダイナミンに、ビートルン、アントーンと。物言いしたい獣たち。アウトドア女子とお仲間と、リポーター女子に、香夏子警部。竜崎オーナーも加わっている。その上空を旋回するドラフラン。
「我らに断りなく、住処を勝手に潰しまくっているヒト科のくせして」と野鹿。
「なんで、やっつけない」「話すのか? 獣が」「私たちの安全確保が優先じゃ」と若者ら。
「だまらっしゃい。あなた達も侵してはならないことしたのでは?」と香夏子警部。
「僕ら小動物だって、巣穴をつくる場所が、どんどんなくなっている」と野ウサギ。
「そうだそうだ。小型でテリトリーが狭いが。大型の熊さん親子らとか、うりぼう一家とか、鹿さんらは大型で移動範囲がヒト科が想定するよりも広いのさ」と野ネズミ。
「大型獣のテリトリーが狭くなると、捕食される私ら小動物の危険度も増すのよ」と子狐。
「どうして食べられるのに、味方なの?」と奈菜未。
「食物連鎖は、自然界の起きて。わたしら熊も死ねばバクテリアさんらの微生物さんの手を借りて分解されて、山の木々の根から吸収される養分や、ミミズさんが食べて土としているの。それらを植物さんらが、頂いて……」とこの縄張りの食物連鎖を語る母熊。
傍ら――話を聞く香夏子警部に、小声で話す竜崎オーナー。
「利用券購入時にも文章と注意案内板等で通達し、近づかぬよう図ってはいます。尚も近づくのは個人の勝手ですよ。一応、対処法としましては猟友会へ打診もですが。断りと侵す方が悪くないですか?」とフェンス残骸と転がる案内板を蹴る竜崎オーナー。
涙目になって、スマホを向け続けているリポーター女子。を、見ている奈菜未。
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