18 いきなりっ

 竜崎家所有のドラゴンパークランドクアハウスのプール施設――ランウェイのあるプールの前で、赤黒のゴージャスビキニ姿の竜崎朱音と、半円囲むように……オレンジ系水着の夏未と、ミリタリーチック水着の孝美、アゲハ蝶を青い絞染であしらった布をカットしたゴスプリ超レアビキニ姿の高峰奈菜未がいる。そのおみ足にピンヒール。

「ゴスプリって……ようするに、ゴスロリてきデザイン……てきなぁ?」と奈菜未。

「ゴスプリデザインは、このわたくしめが。あら、ああ、そうそう、ゴスプリとは、ゴスロリとプリティのコラボ感あるデザインと、このわたくしめが、サブコピつけまして。ええ? あ! そう。ですから、奈菜未さん。繰り返しますが、貴女がオーラスですの」

「え? アタシっ? どうしてアタシ?」と目の前のプールを見る奈菜未。

「ちなみに、トップはわたくしのこれでして。その間、あのように、モデル18名が夏ハヤ水着を紹介しますの」と朱音が示す先のランウェイを順に歩く18人のモデル……。

「夏……」と夏未。

「ハヤって?」と孝美。

「そろそろ短縮形語彙パターン、読めてきませんか? しょうがない。今は『○○推し』と言うのが流行りのようですが、この夏の先取り水着フェスです。コピーも新参且つカリスマ的にしませんと。先取りはできませんことよ」

「先取りってぇ……」と孝美。

「賭けですよ。孝美さん。ひくぅと言うことを恐れていては先は無いのです。決めたならどうなろうとも、強気で行くっきゃない! が、このわたくし、竜崎朱音の流儀なのです」

「……どうして……アタシが?」と照れながらもピンヒールをがたがたと震わす奈菜未。

「ま、竜崎家は代々そういった家訓的体質のようで。ここのオーナーのオジが言った言葉をわたくしもいただいて使っておりますわ」

「平民のごにゃごにゃ気にせずの……押しとおす精神って」と夏未。「らしいけど」と孝美。

「ご納得いただけましたか? 皆さん。特に奈菜未さん」と朱音。

「だから……どうして、アタシってぇ……」と自ら胸下を見る奈菜未。

「では、奈菜未さんは、こちらへお願いします。ランウェイウォークのレッスンが御座いますので。夏未さんと、孝美さんは、フェスがはじまるまでごゆるりとおくつろぎくださいな」とプール全体を手で示す朱音。

「はじまるまで……」と孝美。「腹括れ、奈菜未」と夏未が奈菜未の腹に軽くパンチする。

『……遊んでくるから、奈菜未、頑張ってね』と孝美と夏未がバイバイして行ってしまう。

「ああ、フェスはライトアップ可能な時間を考慮しまして、18時丁度に」と朱音。

奈菜未も2人を見るが……もう浮き輪を借りている夏未と孝美。

「……まあ、先取りは、女子の興味アリアリのツンツンだし。でも、アタシ、モデルは……」とつばを飲み込み、「やったことないしぃ……」と奈菜未。

「わたくしの目に、狂い無しですわ、奈菜未さん。参りましょ」と歩き出す朱音……。

 朱音に手を……引っ張られていく奈菜未が、フェスプールの袖に入っていく。

 女子トーク中の朱音と奈菜未の横を……通りすがる軽ジャケ羽織り水着姿の景山と零華。

「零華たちってぇ、機械じゃない? 防水って、強固? 我が君」

「人工とはいっても。天然ヒト科の皮膚と99点9パーセント以下の誤差の範疇での代物だ。零華は、人骨の無い完全ナノファイバー仕立てがベースで、完全耐水性で。俺は臓器を制限なくバックアップしている装置が施しているんだ。案ずることは皆無だぜ。楽しもうぜ。零華。お! 貸し浮島借りて、まったりと流れていようぜ」と零華を引っ張って行く景山。「俺らの体は無敵だ。もうカナヅチと誰にも言わせないぜ」

 レンタルコーナーの前で、浮島を空気入れで膨らます景山。「めんどいよ」と加える零華。


 中層階マンションの玄関口より一番奥の1階世帯部屋。一見ひっそりとした土埃が多少積もった感じのサッシの中で何やら……パチパチ、チャカチャカ、カシャ! と言った感じの、パソコンキーボードを流暢に叩く音がしているのだが、外には一切漏れてはいない。


 同・その部屋――板張りの片開き引き戸。広さ四畳半程度で、フローリングの床に、明らかなるクローゼットだった扉を外して、机兼奥行きぎっしりのコンピュータ関連システムの納め場となっている。テントウムシそのものリックが脇に置かれたソファ兼ベッドのソファモードで、見覚えのあるヘッドホンをした女子のアカテン虫がチャットをしている。『(警察マーク)奇怪生物現象事求チャット掲示板』をモニター画面に出して……。

 別巨大モニターは浮遊で、指タッチコントロール可のコンポーネントされている代物で。この内装は、近未来的パソコン完備で七星テントウムシ柄装飾の秘密基地だ。


 竜崎家所有のドラゴンパークランドクアハウス――フェスプールステージで、身振り手振りで奈菜未に話す朱音。頷きその場で朱音の言い分を理解し足踏みモデル歩きしてみる奈菜未。目に止めることなく話し続ける朱音……。

「右の袖から出まして、ステージ中央手前をランウェイに向かいますの。先で魅せポーズを決めまして、ターンします。そして戻りまして、ステージ左へと引っ込みます。ご理解できました? 奈菜未さん」

「ううんん……」と流石に自信ありとは言えぬ返事っぷりの奈菜未。

「では、参りますわよ。奈菜未さん。数をこなすことですわ」と隙の無い目で話す朱音。

「やっぱり……どうしても、アタシなの?」と、明らかなに不安な仕草の奈菜未。

「おやめになるのは結構ですけれど、契約不慮で、今回かかった請求をお回しすることになるのですよ、奈菜未さん。万額二桁のねっ。ほぉおほほほ……」とカラッと高笑う朱音。

「ぶうぅうううううう……」とブウ垂れるも、御涙ちょちょ切れ状態の奈菜未。

「これって、脅しだし」と少し歩いてもぎこちないピンヒール本日デビューの奈菜未。

 と言いつつも、超ドギツイ目の朱音に、しぶしぶステージ左へと行く奈菜未……。

「逆ですわ、奈菜未さん」の言葉に、ハッとした奈菜未が、ここは明らかなる猫背状態で右のステージ袖に入っていく。

 ステージ上で手を掲げる朱音。反応良く音楽な流れ、そろってライトもチカチカしだす。

「では、20番さん、御登場なさって」と朱音の声掛けに。

 ……シャンとして右手腰状態でモデル歩きして出てくる奈菜未……コケる、コケる、またコケて……あげくランウェイ止まってターン時にすっ転ぶの初心者お約束の洗礼……。


   *      *      *


 白水着に黄緑アウターのリポーター女子が連れ立つ取材陣と来て……竜崎パパ弟に取材をはじめる……。

「場当たりスクープ、探知! では、カメラの向こうの皆さ~ん! 本日杮落しと言うことで、ドラゴンパークランドのクアハウスドーム施設のプールサイドより、竜崎オーナーとご案内させていただきます……」とリポーター女子が、竜崎オーナー(竜崎パパ弟)に、マイクを向ける。

「本施設ドラゴンパークランドオーナーの竜崎で御座います」とお辞儀する竜崎オーナー。

「リニューアルオープンとありますが? 竜崎オーナー」とリポーター女子。

「姪っ子の提案により、フェス用プールを新設しました。リニューアルオープン記念としまして、本日は、この施設ご利用者様向け、限定の水着……フェスも御座います」と竜崎オーナー。

「それは、限定の水着フェスは取材NGでしょうか?」とリポーター女子。

「いいえ。むしろそれをメインに報じていただきたく。入館の際に交わした契約のこともしっかと、お伝えいただいて。誤解の出ぬよう。この施設や、この外のアウトドアパークもこの夏等々にご利用いただきたく思います」と竜崎オーナー。

「他に魅力はありますか? 竜崎オーナー」

「ドラゴンパークランドの敷地外、特に北野山頂までには樹海が存在維持されておりまして。このドラゴンパークランドがあるがため、自然の摂理も保たれております」と竜崎オーナー。

「……」と熱弁が加速している竜崎オーナーに、合の手出来ずのリポーター女子。

「あまり、人間が自然界を知らずして立ち入ると、各種獣の縄張りを知らずして占領しかねません。よってイノシシやクマなどの遭遇も多くなることは必然で……犯しているのは人間の方なのに、何時しか、麻痺した思考が先住していたはずの獣の方が悪いと、言いだすのです……」と、何時しかマイクを手にしている竜崎オーナー……。

「熱い、あつ、あつぅ~く、ご説明でしたが、凄くいいことを伝えてくれていたのですよ、皆さん。惜しくもここで、CⅯです」とリポーター女子がカメラ目線で手を振って微笑む。

 プールサイドの大時計は、4時51分を示している。

 カメラアングルは……フェスプールでモデル歩き練習中の奈菜未を抜いている!


 高峰家・ガレージ――シャッターが開く。赤い単車に跨った花楓と、車に乗った優理華。

「お仕事の時間だわ、優理華」「大学の仲間と出かけてくるよママ。なんとかパークに」

 インカムと透して会話する両者の口がそう動き……単車、車の順で発信していく……。


 警察庁・公安のミックモン対策チーム本部――パソコンで、新設した『(警察マーク)奇怪生物現象事求チャット掲示板』の匿名タレコミに目を通している深山香夏子警。


 アカテン虫の部屋――「こちら、アカテン虫ステーション。公安、ミックモン対策本部の班長さん。これより、その手に情報提供バックアップします」とパソコンでメッセージを『(警察マーク)奇怪生物現象事求チャット掲示板』に送信するアカテン虫を名乗る女子。

「どうやって……?」

「白ハッカー契約している女子でして、マークを検索にて本物と断定につき、ご協力します。とりわけ、街頭の各所の防犯カメラをチェックしえ情報を得ます」

「そう。こちらは、アカテン虫さんとどう信頼すれば?」

「では、深山香夏子警部の極秘情報を一つ。生き別れた旦那さんとの間に出来た子が……先輩ですよね。小学校から中学校まで、赤テントウムシも同級生でした。如何でしょうか?」

「……そこまで。わかったわ。信頼します。アカテン虫さん。よろしくね。ミックモン対策本部班長。深山香夏子警部」と打って、チャットを閉じて、ムフッと笑うアカテン虫。


 竜崎家所有のドラゴンパークランド――夜となる寸前のアウトドアパークで、帰り支度をはじめている家族連れや無数の仲間らが車や、定期路線バスのある一般者駐車場へと動いている。一方で、施設のいくつかある炉を使用してBBQ進行中の6人一組のパーティ男女が……「樹海バックに記念撮影しようよ」「でも、怖いよ」「平気平気、フェンスあるし」「そうそう出てきっこないよ人のいるところには」とお気楽思考で、『お客様各位。この先樹海につき、立入厳禁』の警告案内板とその注意事項が140文字以内の老眼でも絶対読める大きさで書かれているフェンス越しに、各々のスマホカメラで撮影中……。

 ぐわぁー! とうめき声がする。フェンスの外。一気に振り向くパーティ男女。

「なに? いまの」「耳鳴りでは」「でも、みんな聞いたよね」「このフェンスの中は安全なんだろ」と思い思いのままに口遊み……樹海の見上げる高さの茂みに目を凝らす……。

『……立入厳禁』『尚、フェンス中にても、この先に出現するやもな野獣には気お付けていただきたく……当局も対処はしますが、野獣のテリトリーを魔買いしている恐れも御座います。くれぐれもフェンス地核はご注意くださいますよう、ご協力のほどお願いいたします。竜崎オーナー』の注意事項。


 同・クアハウス――フェスプールステージで、今まさに『この夏先取り、水着コレクションフェス』がスタートしようとしている……。特設観客ベンチに募っているお客たち。夏未と孝美の顔もある。キンコンカンコン……とビッグベン似のチャイムの音が鳴って……その余韻までフェイドアウトする間をおいて、竜崎朱音が、「只今定刻になりましたわ。この夏先どおり水着フェスをスタート!」と警戒での折りのいいBGⅯを背に……。

「キャアー!」と絹を引き裂くような悲鳴が野外で上がるが、派手な音楽で聞こえない。

 が、ビービービー……! アラートが鳴りだす。

「お嬢様、パーク内にて、熊の侵入の恐れあるで、ショーを中止してください。一般人安全確保願います」と何処からともなくのスピーカーを通じてアナウンス。

「皆様。大変残念ですが。滅多にないアラートにつきフェスを中止します。尚、この中にいる皆様は安全ですので、当スタッフの指示があるまで、外出を禁じます。それまでの間、ドーム施設内ではご自由にお過ごしください。特別に無料で運営継続いたします」

「さあ、参りましょう。奈菜未さん」と半ば強引に奈菜未を引っ張っていく朱音……。

「へえぇ……今度は何処で何させられるのぉ!」と連れ去られていく奈菜未。


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