17 そんなぁ

 高峰家・ⅬDKリビング――例のリポーター女子が「あれから、国内でも多少の化け物騒動は起きているようですが。都心での勃発は鳴りを潜めております……」と60番街タワービルエントランスで報じているテレビを、ソファに座って見ている花楓と優理華。

「中間テスト終わったしぃ!」と、入ってくる奈菜未。

「そうか、間もなく梅雨入りの時季か」と、花楓。

「晴れ間は暑いし。温暖化対策も、昔からやっているけれど、効果なしだね」と、優理華。

「ん。全国民が意識しないとだし……ふぅああああ……」と、大きく伸びをする奈菜未。

「ご飯食べる? 毎度お残し知らずの奈菜未さん」と、優理華がキチンへと動く。

「ん、食べる。あれ? でも、かあさん、朝っぱらからいるねぇ」と、奈菜未が上を向く。

 壁掛け時計は8時。テレビではエントランス水着フェスをリポーター女子が紹介する。

「津々浦々までの事情を知ったうえで、対策を講じないから、本末転倒の堂々巡りなのよ」と花楓。TV(テレビ)――超攻めビキニを、自分にあてて笑うリポーター女子。

「そういえばこの前、深山先輩も言ってたし」と、奈菜未。

「え?」と花楓。TV――脇や背が空いているが臍隠しデザインの水着をアップにする。

「二世政治家が対策しても、苦悩知らないからって。それをマスコミも中立的報道をしないし。っていう風に、アタシには聞こえたけれど」と、奈菜未。

「うん、わかってるね。その子、察するに学生ね」と、花楓。

「深山先輩って?」と、ミルクに浸したシリアルを持ってきて奈菜未の前に出す優理華。

「サンキュっ。優理華」と、パクつきはじめる奈菜未。

 テレビを見て花楓が、「何時お呼びがかかるかではあるけど」と奈菜未に横目を向ける。

「コンビニでバイトしていて。男子高3年のイケメン先輩だしぃ」と小声になる奈菜未。

「お! 惚れてるのかな? 奈菜未さん」と、にやける優理華。

「あ、え、ああ、いいや。そんなことは、一言も言ってないし」とパクつきすぎて奈菜未が咳き込んでいると、着信音楽が鳴って、体育ポッケからのスマホを見て、出る奈菜未。

「あ。朱音ちゃん。うん、うん、うん。少し待って」と保留にして、「今日、プール行っていい?」と花楓を見る奈菜未。その視野に座っている優理華の姿も捕えている。

「え? 誰と」と言ったそばから、「あ。あの水着」と横縞柄水着をガン見する優理華。

「あ、何故か? 朱音ちゃん」と奈菜未。TV――青いゴスプリ水着を紹介している。

「ああ、お嬢様」と優理華。TV――「今年は」と試着しちゃっているリポーター女子。

「竜崎さんの娘さんね」と頷く花楓。TV――「……こんな青が」とターンする女子。

 スマホを耳にあてて、「ん。いいよ。そう、じゃあ公園前に10時。え? ああ、夏未と孝美も誘っていいの? 聞いてみるし。ん。じゃ」とスマホの画面をタッチして、首を傾げる奈菜未。TV――別のシアンブルーのシンプルビキニをアップにしてCⅯに入る。

「どうしたの? 奈菜未」と、花楓。

「何か、たくらみがありそうだけれど……」と、奈菜未。

「奈菜未が小3のときから……いびりはじめたよね。その朱音っていう子」と、優理華。

「ま、行きたいのなら。信じて見ることよ。付き合いは長いでしょ」と、花楓。


 俯瞰でマップ上に臨むその町は……高峰家正面のT字路を左に行くと、十字路角に中層階マンションがあり、そこを右に行くと住宅街の例の公園で、その奥にコンビニがある。

 中層階マンションの玄関口より一番奥の土埃が多少積もった感じのサッシ1階世帯部屋の中で何やら……パチパチ、チャカチャカ、カシャ! とパソコンキーボードを流暢に叩く音がしているのだが、外には一切漏れてはいない。玄関を深山剣斗が出て行く……。


 警察庁・公安のミックモン対策チーム本部――パソコンで、新設した『(警察マーク)奇怪生物現象事求チャット掲示板』の匿名タレコミに目を通している深山香夏子警部。

「遠足の日光で、サルにおやつを盗られました。みえ」「都内のとあるごみ置き場で、物色している狂暴カラスたち(のタイトルがついた動画……わざわざカラスにチョッカイだして、追いかけまわされるオッサン)匿名町会長」などなどと、未だ震撼していないミックモンらのテロ的行為であって、日常の稀に見る野生の動物らの、注意喚起されまくっている情報が山のように届いている中に、「先日……。これまでのヒトガタハイブリットな生物らは、いずれも満月の夜に出現しているようですね。たまにそうでない夜にも出ていますが、すぐにいなくなってしまう傾向のようですが? アカテン虫」の有力情報も。

「何処の何方かは、知る由も御座いませんが。確かに、最初世界を震撼させた夜も。まん丸お月様で。ゴールデンウィーク中も、満月。今月のまん丸の日は……」とパソコンで返信し、月の満ち欠けを検索する香夏子警部。「おお、来週の金曜日。しかも、13の日って。出来過ぎね」と検索画面を閉じ、「狼男の血でも引いてるの、かな? アカテン虫」の投稿を目にして微笑する香夏子警部。

「それにしても、未だ、一人って。まあいいけれど。使えない軟弱部下を押し付けられるよりは。それに、匿名で可成り、有力タレコミもあるし。国内には無限に人間以外の生命は存在している。何処に出ても、おかしくはないのだから。警戒はしておかなきゃ」

 と、ぶつくさ言いつつ……ミックモン対策方法を考える深山香夏子警部。


 住宅街の公園――入り口前で待っている夏未と孝美と奈菜未。園内時計は、9時55分。

 リムジンが止まり、出てきたドライバーの女性に案内されて、「お邪魔しまぁーす」と奈菜未と、夏未と孝美の順で乗車する。「あ! いる」「朱音ちゃん」「女史」


 同・リムジン車内――運転席とは仕切られた後部席はドアのところを除いての左右後方にソファの座席があるトランクとの仕切られている応接間如し。中央には固定の注文タブレット内蔵の長テーブル。後部席シートに座っていた朱音が専用インターフォンで、「お願いします」と言うと。ゆったりと動き出すリムジン。運転席覗き窓からドライバーが後部席をミラー越しに見て、微妙にスマイルして、運転に集中する。

 朱音から向かって右側シートに奈菜未。左側シートには夏未と孝美が座っている。

「本当に、手ぶらで来ちゃったけれど、いいの? 朱音ちゃん」と奈菜未が問う。

「はい。問題ありません。施設には、皆さんのサイズもそろえて準備完了しておりますわ。少々道中ありますので、お好きなものをタブレット注文でどうぞ」とテーブル中央の画面のオレンジジュースをタッチする朱音。ジュースが出て、尚も驚く夏未と孝美と、奈菜未。


 崖上の道――企業カラーが茶系一色になっているコンビニ駐車場に停車中の取材カー。コンビニから出てきた例のリポーター女子。次いで、若手から中年ぐらいの男女4人……。乗車寸前で、リポーター女子が崖下を臨み、「あそこ。ドラゴンパークランドクアハウス。今日の取材先よ」と乗車しかけた男女スタッフも、そろって臨む。公道に面した広大な敷地のゲート門扉が二カ所あって……ドーム球場の如く覆われたドーム施設がある。

「あわよくば、スクープもあったりして。竜崎議員の弟さんがオーナーのようで、OKよ」と勇んで取材カーに乗車するリポーター女子。と、続く4人スタッフ……。


 議員会館――だと思われる、松の廊下的現代建物の中の囲われた通路で……竜崎議員を呼び止める高年男性議員。

「君もトイレかね、竜崎君」

「お済のようですな、首相」

「竜崎君。そろそろ貴方が膨大に所有し続けているあれらの土地を、世のために、提供してはもらえないかね」

「お言葉ですが、首相。くだらん政策のために、あの土地はお渡しする気は御座いません」

「だがな。都心の充実のためには、君が所有している野山を利用するのが、はっきり言って予算的にも最善なのだが」

「数年前に、九州にイノベーションを起こさせるため設けました企業施設中心とした町おこしも、今では閑古鳥。くだらん浅はかな政策プランのために、太古から、むしろ、人類よりも歴史のある自然界の摂理の方を優先すべきかと。あるいは……」

「ふうん」と考えて、「ときに。政治家があれだけの広大な土地を所有し続けるのは、如何なものかと。裏を突けば、色々と埃が出るのでは?」

「どうぞ、ご自由に。名義人は弟でして。わたしは、政治にかかわるお金との区別をつけております。確定申告で正式に税金を納めた所得で生活費を工面しているのです。どこを突いても出やしませんよ、首相。いいや、東高のソウちゃん」

「とはいってもねぇ。北高の竜さん」

「むしろ正式に、正当処置を施して、お困りになるお仲間がこぞって焙り出されるのはないのですかな? ソウちゃんも、だけど」

「ふむ。食えないね、竜さんは」と去っていく……「お手柔らかに頼みますよ、竜崎君」と言い残しつつ……。

 姿勢を正し、丁寧なお辞儀をする竜崎議員……。「あるいは、地球も生物かもですし」


 高峰家・地下隠れアジト――3分割モニター監視を、している望月零華と、何となくだらけている景山数希。

「頂戴した闇タンス肥しを、世に放つぜ! 行くか。俺たちも」「ドスコイ。我が君」

「遊ばないと脳みそ、コッチコチになっちまうからな」と、モニターに、『ドラゴンパーククランドクアハウス』情報映像を割り込み投影させる景山。「ここ、予約だ、零華」

「ドスコイ。我が君」と目をピカピカさせて、「99番二名様ご予約完了よ」と笑う零華。

「目の保養もするぞぉ……」と完全助部顔の景山に、ブー垂れ顔の零華。


 竜崎家敷地内――自然界そのままを広大に囲む格子柵内は、ドラゴンパークランド。脇道を行くリムジンカーが、『優待者ご招待口』を、ドーム型施設内へと入っていく。

「一般も。限定100組まで完全予約で使用可能ですわ、奈菜未さん。例えば、ドーム球場の多目的プール版と言った、施設プールに本日はご招待しますわ、奈菜未さん」と、朱音の声。「ご予約いただければ、お風呂付でお泊りも出来ますの。厳禁事は御座いますが」


 同・優待者駐車場――リムジンが施設内連絡玄関先に横付けして……ドアが開く。出迎えメイド女子エスコート集団の前に、朱音、孝美、夏未、が出て、最後に奈菜未が降りて、見渡す。「ちょーセレブだし!」と奈菜未。「日焼け知らず」と夏未。「梅雨もね」と孝美。

「本日はリニューアルセレモニーがあり、参加していただきますわ、奈菜未さん」と朱音。


 同・女子更衣室前施設内通路――案内してきた朱音に、ついてきた奈菜未と夏未と孝美。

「今から更衣室のロッカー番号を皆様のスマホに、お送りしますわ。そこに、皆様にお似合いかと思われる、わたくしがチョイスした水着が入っております。御遠慮なく」と、女子更衣室口へと入っていく朱音……目が点ながらもついていく奈菜未と夏未と孝美。

「このQRコードが皆様のロッカーキーとなります……お着換えに成ったら、プールへ」


 同・施設プール――通路口を出ると、ドームの中に広く視界が開け……正面奥に波のプール。ウォータースライダー。流れるプール。幼児用プールに、円型の大人用プール。ランウェイ桟橋が水面まで出ているフェス会場ステージ専用プール。

 赤黒ゴージャスビキニをつけた朱音が出て、待っている。

 オレンジボーダー柄でチャームなビキニの夏未と、臍隠しワンピースにミリタリー柄ショートパンツタイプ水着の孝美が、通路を出てきて手で庇して見渡し。

 斬新シアンブルーのアゲハ蝶絞り柄のゴスプリビキニをつけた奈菜未がトボトボと来る。

「皆さん、お似合いですわ。でね、奈菜未さん。急なのですが、参加してもらいますわ」と、朱音が手を差し伸べた先に、『この夏先取り、水着コレクションフェス』の今まさに掲げられているプール。「本日、わたくしが見立てました、20点の水着を……」の朱音の説明に。突飛の突飛すぎてキャパオーバーな奈菜未らは、聞く耳右から左状態で……特に奈菜未の意識はぶっ飛んで、口をあけっぱ状態でフリーズしまくっている。

「……とどめモデルを貴女、奈菜未さんに。聞いています? 奈菜未さん?」と朱音。

「ふうん、うん、聞いているような……でも、突飛すぎて……何も入ってきていないような……だし、だけれど、ねぇ……おおおっ」と身震いしだす……奈菜未。

 ランウェイを明確なるモデルらが今はラフな姿でモデルウォークチェックしている……。

「まあ、兎に角、オーラス、お願いしますわ、奈菜未さん。それらの水着と、この施設ご招待の現物支給のアルバイトッということですわ。ふぉーお、ふぉふぉふぉふぉふぉ!」

「バイトって」と孝美。「朱音女史は」と夏未。『出ろ、奈菜未。これって顔出しNGカリスマデザイナーの水着だし。ここもセレブプライスだし』と声を揃える夏未と孝美。

「ええ、でもぉ……要するにモデル、よ、ね……。やったことないし(指差して)あんなかっこよく出来っこない……しぃい!」と喚いて一気に身を屈めて蹲る奈菜未……。


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