16 骨休み

 欠けはじめた月も西の空へ移動した深夜というよりは早朝。住宅街にある広大な私有地の御屋敷は、竜崎家。二階の窓の中に少し灯っている灯りの部屋から、「なんですってぇ……え!」と竜崎朱音の喚き声。


 竜崎家・朱音の部屋――まだ月明かりの影響のある藍色の空を窓の外に臨む……赤黒系内装感ある中のベッドに、胸まで入ってスマホチェックしている朱音が、「なんですってぇ……え!」と上半身をガバッと起こす。ベッドチェストに置かれた赤トンボのチョーカー。

「またまた抜け駆けいたしましたわね、奈菜未さんったらぁ……、もぉーお!」とわなわなとスマホを持つ手も震えだし、スマホ画面の執事マークアプリをタッチする朱音。

「如何なされましたか? 朱音御嬢様」と落ち着いた男性の声がして。

「あれほど、マークしてくださいって」と激怒して訴える朱音。

「お早いですね、お嬢様。と、申しますと。奈菜未様のとこでしょうか?」

「他にないでしょ、お願いしますわ。譲司!」とアプリを切って、「もう数日経ってしまっては、今更です。お肌に宜しくないので睡眠とりましょ」とふて寝する朱音が、スマホを床に落として、「起きましたら、動きましょ」と顔まで布団を被る。


 警察庁――あまり見慣れぬな感じの外観で、アンテナを乗せたざっと20階弱の建物。


 同・『ミックモン対策チーム本部』表示のドアを入っていく深山香夏子警部。


 同・本部――デスクにパソコン一台のみのほかは何もない部屋。入ってきた香夏子警部が机に座って、パソコンを起動させる。


 高峰家・地下隠れアジト――景山と零華が、クロナノテントウからの奈菜未、優理華、花楓ら三方分割中モニター監視継続中……。09時15分。

「我が君……。あれから、あのビルへの襲撃、無いね」

「ああ、そうだなぁ。次の満月は何時だ? 零華」

「え? 満月は……」と、目を輝かせる零華。

「だいたい30日周期でぇ……あれから……」と、指折りする景山数希。


 コンビニ店内――掛け時計は、10時10分。三つあるレジの、今日は真ん中でバイト中の深山剣斗。お客は疎らで……一旦店内には居なくなる。

「おい。剣斗君。10番入って。30分までね」と明らかなるオバサンスタッフ。

「はい。オーナーママ」と返事して、レジのディプレイに、『準備中』の表示を出して、横のドアを開けて入っていく深山。

「10番、開けたら、品出しね」とオーナーママの声掛けに。

「はい」と二つ返事でドアを閉める深山剣斗。


 高峰家・ⅬDKリビング――ほのぼのとした日常の日差しが注いでいるリビングで、本日も恒例のフリータイムで深紅ガウンを一応羽織って転寝している高峰花楓。テレビでは、お昼から映画鑑賞コーナーの『ダイなハードデカ・4』の青年ハッカーシーンから始まる。

 クロナノテントウが一匹集る照明機器の向こうで、掛け時計が12時12分を刻んでいる。

「ねえ、ママ。シャワーっ……って。お済なご様子で」と戸口から顔を覗かせて、「年中無休で24時間待機態勢お仕事ママの唯一の至福タイム、NGね」と行ってしまう優理華。

 その頭上をもう一体のクロナノテントウが追って行く……。


 同・奈菜未の部屋――相変わらずの掛け布団はだけ加減で、今日は小の字姿勢で寝入っている中女体育着姿の奈菜未。揺ら揺らとした感じで、端から床に、落ちそうで……落ちない、シーソーゲームを進行している奈菜未でもある。


 警察庁・ミックモン対策チーム本部――未だ一人きりでパソコンを見ている香夏子警部。

「いっくら、奇怪案件だからと言って、一人って、どうなのよ!」とぼやく香夏子警部。

 パソコン画面では――60番街タワービルの端午の節句バージョンエントランスの『スーギンVSキューミンからの……BT(バタフライ)フレアのイエロー光線弾を見舞わせコントロールよくそれらのスマホを壊す』……の再生カメラ映像が流れている。

「結局壊したものは、野次馬どものスマホのみで。亀裂の床もミックモンらが消えたら戻ったし。何もかも建物自体に被害なしだわ」とせせら笑う深山香夏子警部。


 竜崎家・朱音の部屋――赤黒系ガウン姿の朱音が、「シャワーも済みました。出かけます!」と、メイドアプリをタッチしてもの申し……自ら赤とんぼのチューカーをする。

「失礼します」と、幾人かのメイドがドアから入って来て……突っ立ったままの朱音のお着替えをして……ドレッサーまでは自身が歩き座ったところで、ヘアスタイルをメイドが整える。「カリスマメイクアップコーディネーターのわたくしが推奨いたします。自然なサイドアップで、ポニーミックスの遅れ髪チョイスヘアスタイルです。以前お嬢様が申しておりましたスタイルを想像し、このわたくしめが、デザインしました」

「うん。ま、ベースがいいから。何でもいいが。ミックスはないない」と朱音。

「では?」

「ハイブリットの方が通じやすいぞ」と朱音。

「は、はぁ。恐れ入ります朱音お嬢様」とひれ伏すメイクコーデ担当のメイド。

「ふふん!」としてやったり癖が有態に出まくっている竜崎朱音。

「出かけるのか? 朱音!」といきなりドアを開ける中年男性。スーツ胸に金色バッジ。

「パパ」と朱音。

「旦那様。いきなりはダメです。お嬢様はもうお年頃です。ノックをお願いします。のちに返事を聞いてからご入室願いますわ」と監督しまくっていた、よく見ればアラフォー女性が物言いする。頷く朱音……。

「ああすまん。つい……」

「天気も良さそうなので、公園に参ります」


 高峰家・奈菜未の部屋――ベッドの縁あたりで半分宙ぶらりんに浮かんだような感じでも寝入っている奈菜未。深めの胸の谷間に……例の楕円の輝きが出てきて……「エナジーパワー充填中だねぇ」とゆったり染み入るように潜る輝き……。

 床に零れたスマホのディスプレイ画面に、『奈菜未さん。公園に……』の文字が出まくって……小電力モード機能で、消灯する。


 住宅街の公園――ブランコ横のベンチに座っている柊木拓光。方や、少し離れたところに立って、耳にスマホを当てている孝美。

 首を横に振った孝美が、スマホ画面をタッチして、柊木の横に座る。「出ないや」

「そっか」と柊木。

「それでね。拓光君だから言うんだけれどね。でも、奈菜未には許可を得てなくて」

「でも、そこまで意味深な感じを受けたら、触りなりにでも知りたいよ、僕は」

「私には、この秘密、重くって。とはいえ、信用なる人にしか言えないし」

「で、僕か。奈菜未ちゃん事なら、いいんじゃないかな?」と、強く頷く柊木。

「うん。それでね……」と出来事を切り出す孝美。

 公園の時計は、12時33分。


 高峰家・奈菜未の部屋――案の定、ベッドから床にドーンと落ちて呆然とする奈菜未。

 照明機器に集るクロナノテントウが、驚いたように一旦羽ばたいて、また集り直す。

 手探りで、床に落ちているスマホをとって、見て、「えーぇ……ぇぇぇぇぇぇえええ……」と、驚く。「朝ご飯とお昼ご飯、逃したしぃ!」と、床にまた転がるスマホ画面の時計表示は、14時50分!

「でも、なんか? 眠いし……むにゃむにゃむにゃ……着信チェック、は、いいや……」と寝息が復活する奈菜未がベッドの横に背を凭れて寝ている。「スースー」


 住宅街の公園――公園の時計は、3時。公園前に停車するリムジンカーの後部ドアが自動で開いて、御付き兼ドライバーが出てエスコートする。

「お迎えはスマホで」と、言いつつ、一人、入園する竜崎朱音……。


 高峰家・奈菜未の部屋――ベッドを背に凭れ、むにゃむにゃとして欠伸をしつつようやく目を覚ます奈菜未……。何の気なしにスマホを見て、「え! えぇぇぇぇぇぇぇぇ……ぇぇぇぇぇぇ! こんなに、着信って」とご近所迷惑も顧みず喚く中女体育着姿の奈菜未。


 住宅街の公園――ベンチに座った朱音がスマホする……。

 なんだかんだで、SPがどこかミスマッチな私服で警護している……。

「既読スルーって、許せない。馬鹿にするのも体外になさってよ、奈菜未さん」と、心の声が駄々洩れの朱音。

 既読がついて、即座にメッセージを入れる朱音。

「お話があります。我が幼少からの公園にてお待ちします。朱音」と送る。


 高峰家・奈菜未の部屋――ベッドの横で、すくっと立つ体育着姿の奈菜未。その手にスマホを持っている。「あ! 着替え。もだけどぉ……あ! 朱音ちゃん着信、あったし」と見るスマホ画面に、「お話があります。我が幼少からの公園にてお待ちします。朱音」のメッセージ。

「ん。いいよ。そこなら10分でいくし」と、スピーカー機能状態のスマホに言いつつ……クローゼットから白っぽいコーディガンを出し、羽織り着て、『声メッセージ変換機能アプリをタッチして、スマホを手にしたままとっとと出て行く……。


 同・リビング――テレビで、『ダイなハードデカ・4』の、主人公デカと子供と千翔氏年齢の青年がボロボロになって微笑むラストシーン。

 花楓と優理華が観賞している。

「公園。行ってきます」と、ちょこっと顔を見せた奈菜未が、即座に行ってしまう。

 後ろを向いた一瞬だが、クロナノテントウがコーディガン裏に隠れる……。

「え?」と、意表を突かれた声掛けに振り返る優理華。

「シャワーくらい……」と、花楓。

 しょうもない、ってな顔して、見合った花楓と優理華が、『プフっ』と箍が外れたように、吹き出し笑う。「奈菜未だねぇーママ」「奈菜未よね、あれが。優理華」


 住宅街の公園――朱音が待つベンチに、来る奈菜未。

「どうしたの? 朱音ちゃん」

「どうしたは無いでしょ。奈菜未さん。ま、ここに着席してもよろしくてよ」

「え!」と、躊躇なく朱音の横に座る奈菜未。

「わたくしは、常に、奈菜未さんのことを、デスっていたいのです」

「え?」

「先日、60番街タワービルに行きましたね」

「ん」

「そのことをお話しください。知りたい」

「ん。いいけど。でもどうして?」

「常に奈菜未さんを、的確にデスれないではありませんの」

「朱音ちゃんのデスるは、弄るだし」

 常に奈菜未を見ていた目をそらし、俯き加減になる朱音。

「いいよ。長くなるけど、言うし。でね……」

 と、四の五のと個人名は伏せつつ……ミックモンと称された輩の主張やらも含めて、語った奈菜未。端午も過ぎた初夏の夕暮れは遅く……まだ、そのほとんどが青空を残している……公園の時計が5時20分。

「あれ? 奈菜未ちゃん」と、深山剣斗が通りかかり……入ってくる。

「え? 深山様!」と、わなわな唇を震わす朱音。

「あ、先輩。バイト、お疲れです」と、ぺこりと頭を垂れる奈菜未。

 奈菜未を真ん中にベンチに座る深山剣斗。に、ホッコリ照れ隠す奈菜未。


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