15 共存したいし

 60番街タワービル・端午の節句バージョンメインエントランス――シアンブルーに輝くヒトガタ大の楕円の塊……徐々にその容姿全貌が露になって、奈菜未容姿の青いアゲハ蝶のハイブリッド、キューミンが多少辛そうながら姿を現す。

「タジタジでも、この経緯は聞こえていたし。この姿の基となるフェアリーの名を頂いたキューミンのアタシが……まずは話を聞くし」

 下で窺っている夏未と孝美……。

 残留中の野次馬に新手が加わり、スマホを構えてこのありさまを撮影する……。

「あなた達って、懲りないの? これだけミックモンだっけ? が訴え暴れている原因の一環は、貴方方のそういった心無い言動もあるって言ってるし」と、スマホを構える野次馬連中に注意喚起するキューミン。

 こんな状況下にあっても、無視、無関心にスマホで撮影を続け……SNSにアップする様の野次馬連中に、イラっとしたキューミンがひと羽ばたきして……BT(バタフライ)フレアのイエロー光線弾を見舞わせコントロールよくそれらのスマホを壊す。

「おい!」「器物損害よ」「私が何をしたっていうのよ」とクレーム言いまくりの野次馬ら。

「アタシは、常に……ちゅ……」と言い出したキューミンが言い終わる前に。

「もう我慢しなくていいから、お出でよ。おいらのように、ヒト科に住処をおわれた生物たち……」と、訴えるスーギン。

 床の亀裂や、スーギンの陰、幹の穴から大小様々で色とりどりの楕円形の輝きが出でて……ヒトガタを形成する。

「こんなヒト科の、他の生物にはどうでもよい社会など、すべてをリセットしてしまって、何か支障でもあるというのか?」と、スーギン。

「まだいいよ、スーギンは。俺ら雑木が材木にもなりゃしないと、虐げられるんだ」と、スーギンの隣りで、推定全長30メートルまで伸びた楕円の輝きが納まって……一般大人サイズでブナの若木のミックモンとなる。

「我ら、小動物が隅っこに追いやられたあげく。ヒト科の都合で忌み嫌う」と、二体の間から……訴えつつ出てきたラットタイプの雄。

「私ら、野に生息してきた水辺の生き物だって、自由に生きる権利はある!」と、赤ガエルタイプの雌。

「どうしてヒト科のばかりが……」と、足を踏みつける野ウサギ少女。

「俺たちだって、ヒト科の駆除をしたっていいだろうが」と、以前も出現したイノブタ男。

「ヒト科のつくっている菓子やジャンクフード、うめえしな!」と、ニホンザル少年。

「どうせ、ヒト科の雌に多くは食わないで捨てるんだろ。賞味期限切れとか、インスタバイどりすれば、太るし! とか言って」と、カラスの青年男子。

「それを置零れ頂戴して、越冬するための食料としているだけだ。何が悪い?」とタヌキ青年女子。

「昔は、この辺りにも仲間はいっぱいいたの。絶滅して独りぼっちよ」と、イタチ女性。

「ま、僕らが食わなくとも、微生物が食する。バイキンと言って忌み嫌っているヒト科の目には見えない生物らがな」と、ミミズタイプヒトガタジェンダー。

「そうした動物君たちが排泄した肥しを栄養として頂くのがおいらたち植物って。自然の摂理がかなっていたのに」と、スーギン。

「はやく。そいつら化け物をやっつけろよ」「そうよ。青い蝶々の君って。ヒロインなんだろ」「人間が幸せに暮らすように、環境を整えているだけなのにねぇ」と、野次馬男女が口走る中……腕組みして考え込んでいる深山香夏子警部。

 怒りを通り超えて……ワナワナしながらも、言葉無く呆れかえっているキューミン。

「ヒロインのくせに。戦ってよねぇ」の心無い声を辿ると、ブランド製品に身を包んだだけの女子。

「さっきははしょられたけど。アタシは中立主義者だし。ヒト科以外の生物の言い分も、分かるし。社会的抹殺すべきヒト科ってありかもって」と、目を逸らすキューミン。

「考えることってあるのか?」と、ブランド女子の後ろに隠れた男子が物言いする。

「考え中だし。世の中のことよく知らない女子だし……」と、言葉もしぼむキューミン。

 ミックモンと化している者たちが……「うわぁあああああぁ……」と突然委縮していく。

 ……キューミンも例外でなく弱って、ゆっくりと立ち姿勢のまま降下する……。

 野次馬に警察関係者と、ヒト科には何も起こらない……。

「ふん! 僕は知っている。あの奇怪な揺れ現象のとき……早朝に少しだけやった世界各国からの中継報道を観ていた。そこで、世界レート―のチャットで、納める切っ掛け攻撃は(館内放送用スピーカーを指差し)音波って。人間には聞こえないから、影響ないし。お前ら野生の化け物がタジタジになった……」と、メインエントランスの浮遊スクリーンに投影される……金崎金雄。

「これか。特殊音波!」と、スタングンも立っているが頭を押さえて苦しんでいる……。

「僕は推しアニメ観賞を終えたので、仮眠をとるよ。では、みなさん。お休み」と、プツッといっきに浮遊映像が消滅する。

「なに? 今のは」と、香夏子警部。

「私、知ってる」と、夏未。

「ここのオーナーの」と、孝美。

『金崎金雄!』と夏未と孝美が声を揃える。

 クレーマーな野次馬連中も呆気に取られていたが……やいのやいのと歓喜を上げる。

 その苦しさにほとんどのミックモンが逃げたが……ヒト科に融合していたダイナミンやアントンたちは解除していて……素の優理華や土屋らに戻っている。

 スーギンとキューミンのみが、その場に残って……苦しさゆえに言葉無く様子見している……。

 深山香夏子警部が、スーギンに一歩近づいて。

「いいわ。この場はこの香夏子警部が預かるわ。貴女。スーギンだっけ?」

「へ? ん」

「どうしたらコンタクトとれるの?」

「へ? ん?」

「言い分があるんでしょ。これを解決しない限り平行線にもなりはしないから」

「おおい。婦警さん」「そいつらやっつけてよ」と、身勝手発言する野次馬らに。

「うっさいわね! そこで連絡先伝えたら、とっとと帰りなさいよ。貴方方は! 話がややこしくなるから」と、凄む香夏子警部。

「警察のくせに……」「人類の味方じゃないの」「税金でやってるんだろ」「私の安全を守ってよね」……ブー垂れ状態で、長机で身分証を見せて帰っていく野次馬連中……。

「なら、僕が!」と、まだスタングンのままの深山剣斗が!

「確か。インセクトタイプフェアリー融合ヒト科の。どうしてスタングンが、ヒト科推しなの?」と、スーギン。

「ま、このビル自体を壊しても、ヒト科は性懲りもなく再現する。エナジーの無駄遣いさ、スーギン」と、スタングン。

 特殊音波の干渉も冷め止まぬ状態ながら……さらに考えるスーギン。

「悪質マスコミと、生まれながらの裕福二世議員らの無頓着すぎる政策方針には、僕も疑問視しているのさ」と、言いながら頭を振って通常に戻るスタングン。

「え? 先輩?」と、キューミン。

 キューミンにウインクするスタングン。

「では後日。貴方を介してコンタクトを(腕時計を見て)もうこんな時間です。未成年者がうろついていい時間で無ないし」と、香夏子警部。

「あ! 終電とっくに……」と、スマホを見る夏未。

「明日5日だから、ネットカフェお泊り」と、孝美がスマホを出して片手でロールする。

「私ら、タクシーで帰るから」と、優理華と。土屋、遠山、秀実が帰っていく。

「私が、ご自宅まで送るわよ。ご家族にも事情をね(ウインクして)覆面車を(私服刑事の一人から今時車のスマートキーを受け取り)では、参りましょう……」と歩き出す香夏子警部。続いてスタングンが解除して深山剣斗に戻り……奈菜未も戻って……夏美と孝美も……二人の後を行く……。「あ! 警部さん? さっきの蜂っぽくなったのって、姉です」


 同・コンピュータルーム――景山と零華

「ハッキングできるよ、我が君」と、零華。

「まった。もういいや。なんか? ボロ隠しになりそうだしな」と、景山が両手を広げて肩を竦ませる。手にしたスマホ画面には、端午の節句バージョンエントランスを去っていくそれらのメンツの様子が……俯瞰で盗撮されたのちに、奈菜未の方の高さのアングル。


 覆面車車内――運転する香夏子警部。助手席に深山剣斗。後部席でしてポジションで奈菜未と夏未と孝美が寄り添って寝息を立てている……。

「お疲れね」と、ミラー越しに笑う香夏子警部。助手席で左外を眺めている剣斗も、笑う。

 車窓を流れる景色は……標準満月が天高く……煌々の中に霞む都心の夜景の大きな道路。


 60番街タワービル・端午の節句バージョンメインエントランス――ダクト天上口から顔を出し、「はあーい! なにが、あったのぉ……」と声を終沈させて呆然と下を見る女子レポーター。今は、幾人かのお大人がいるだけの、静まり返ったフロアに木霊する。

「あのぉーお開きです。可能な限り通常営業します」と、いぶし銀タイプの男性スタッフが、そう告げて深々とお辞儀する。


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