14 怪盗のお仕事

 高峰家・地下隠れアジト――景山と零華が、香夏子警部に解放される女子に戻った奈菜未を。心配する夏未と孝美。戻る深山剣斗のモニター映像監視中……。22時30分。

「行くぜ。零華」「え? 何処へ? 我が君」

「デートだよ。ここからは大人の時間だぜ。零華」

 おもむろに立ち上がり、『フラッシュ!』と、閃光を纏う望月零華と、景山数希。


 夜の高峰家俯瞰外観――からの裏山茂みを経た……頂上祠の……ちょうど反対側に、茂みに隠されている横穴洞窟……と思ったら――まるで誰かが描いたようなバーチャルの偽装土手が……パックリと縦筋が入って――観音扉状に開き……シューっとマシンじみた物音がして……外に向かって近づいてくる……。

「この施設って……」

「そう。この小型版が高峰家ガレージだ。あれも、訪問販売で契約し、俺がこさえた」

「ALLCLEAR。一切の人気反応なしよ、我が君。隠れ発進口半径1キロ圏内にね」

「出動!」

 と! 人工的な鉄鋼骨組み構造の施設口から……シーと静かなモーター音を伴ったブルー系ミッドシップカーが出てきて……あっという間に道路に出て、一般車両に塗れる……。


 同・車内――景山数希が運転し……望月零華が助手席でときより幹を見たりして笑う。

 車窓外は、まんまるお月様の都心の夜景に向かって……片側2車線でとりどき3車線になる道路を走っている。横を行くトラックのタイヤが、例えば零華が景山を見る窓の向こうで景色を遮る。

「あれだけの大ごとだ」

「今から、遅くない? 我が君」

「初動検証完了までは、現場現状保存が日本の警察だ」

「でも、公安って」

「公安も警察機構だ。ひな形は一緒さ」

「行って、なにするの? 我が君」

「SNSジャックだ!」

「SNSジャック? ハッキングのこと?」

「そう、あの場に居合わせたお客らのスマホのデータ完全破壊工作と、あのビルのセキュリティ映像履歴の消滅」

「まあ、零華の能力をもってすれば……余裕よね、我が君」

「潜るのは2度目。ビル自体のコンピュータルームも把握済みだ」

「カレン秘書で潜ったしね。零華も」

 正面に……ジャックと豆の木じみた捻じれ巨大豆の木のような60番街タワービルが見えて……大きくなっていく。と、言うことは、近づいていることを意味している車内フロントガラス越し状況だ。


 60番街タワービルのメインエントランス――キューミンが焦がして転がっている数々のスマホの残骸現場の……規制線範囲を四方八方に警備する制服警官隊。その中で鑑識作業中の幾人かの腕章捜査員。手腰開脚で窺っている深山香夏子警部と私服刑事ら。

 鯉幟もフキナガシも一切の被害なく……甲冑も無論のことの現場は狙いを物語っている。

「どうやら、一般客の、すぐパシャパシャしたがる行動が、狂気に達したようね」と、脳裏で推理する香夏子警部。上半身を動かし待機中の一般客らを見渡す中に、深山剣斗が肩を支える高峰奈菜未。奈菜未を気遣う夏未と孝美の姿もある。

「皆様。御気を静めて。これから、ここで起こった事件の検証を行います。野次馬だったと思われる一般のお客様方も、当局が許可するまで待機願います」と、香夏子警部。

「どうして」「私たちも犠牲者でしょう」「暴れた怪物が悪い」「それが明らかじゃないの」

 と言ったお客らの罵声を浴びる香夏子警部ら、公安捜査員。「壊されたスマホは、弁償」

「ううん……うんうううううう! だまらっしゃい! そもそも物見見物していたあんたらが、さっさといなくなっていれば。こっちだって、どうでもいいザコ連中の職質なんてしたくないわよ、面倒くさい!」と、逆切れ興奮状態の赤い顔した香夏子警部がガ鳴る。

「警部! 本音言っちゃだめですよ」と明らかなる制服警官が火消し。「準備完了です」

「あ! お子様連れの方を先にします。あちらで……」と長机に20脚の椅子を示す警部。

 潜んでカラカラ笑う深山剣斗。奈菜未を介助する夏未と孝美がそれを不思議がる。

「アタシ、やっぱ、捕まる?」と、しょげる奈菜未。

『……』言葉見つからずで、ただただ心配する夏未と孝美……。

記憶と感触に残る暴力行為を極限に心も痛手を負っている奈菜未を。明らかに見る香夏子警部が、密かに指を動かしたような……。

「ま、何とかなるよ、奈菜未ちゃん」と、深山剣斗。

「どうして! あんな化け物みたいなのに、なっちゃうの? アタシったら!」と、腰砕けに崩れる奈菜未……。屈んだ剣斗が優しく見る……。「それも、奈菜未ちゃんさ」の声掛けに、一部の照れた笑みを漏らす奈菜未。

『ああ……あ! 奈菜未、こんな時なんだけど、何か深まってない? ラブ』と、声を揃える夏未と孝美。

「でも、アタシったら、夢遊病テキ乱暴者だし」と伏せる奈菜未。

 ――ありえない――コンクリ化粧床に亀裂ピキッとが入って……杉の子が芽吹く。が、衝撃的に変貌を遂げたJKが乱暴者行為した現状に、警察に、野次馬、当事者と、まだまだストレスフル状態の現場で、奇怪な現象にも気づけるヒト科はいやしない。

 3階バルコニー手摺から……下の様子を見ている優理華、土屋栄太、遠山幹夫、秀実。

「あれって? 奈菜未」と、指差す優理華。

「奈菜未って」と、遠山。

「優理華の妹よ」と、秀実。

「何かあったのかな?」と、優理華。

「制服警官がいて、鑑識を履いた何人かが調べていて、これは現場検証……」と、土屋。

「やっぱ、博識」と、優理華。

「隣にいる男子って」と、秀実。

「ああ。タックンじゃなくて……誰?」と、優理華。

 秀実と遠山がコケて! 土屋が啜り笑う……。


 同・外・裏手の換気口前――植え込みに囲まれた空調用換気ダクト外壁の前にいるロイヤルブルージャケットの景山数希と、望月零華。

「ここから入るの? 我が君」

「ああ。この前やった要領で……」と、ダクト口から入っていく……レディーファースト主義の景山数希……。

「Dフラッシュ!」と、文言を告げ、一瞬にして若草色の上下作業服男に変貌した景山が、一部畳半畳分になっているダクトカバーを薄手袋の手で外し……巨大ファンのプロペラを回転の中心軸のあたりを手で抵抗を与えて……回転を鈍らせ……止めた空いた隙間から中へと侵入して見せる。

「WRフラッシュ!」と、零華も作業着姿になって……景山の待つファンの中へと入る。

 右手で伸縮自在シールドを出して……先を裏板に引っ付けて、引き寄せると、お見事に収まる畳半畳のダクトカバー。「バッチシ」と、外からは見た目元どおりの外壁状態。

「あ! 我が君。そこの茂みでセックスするって……」「あーああ、いったなぁ。また今度な……ぁ……」と遠ざかっていく零華と景山の声……。

 ビルの裏手の暗がりの茂みがざわつき……ミリタリー柄の繋ぎパンツ(ズボン)姿の……物陰から出たその顔は、このところ注目株の女子リポーターだ。キャップに着いた小型カメラに、右耳につけたインカムマイク。「あの人たちって……」と、周囲をキョロキャロ見渡して……もう元どおりになっているダクトカバーの開けて……ファンのプロペラを景山がやった要領で、止めて、またまた内側から外したダクトカバーを元どおりにして……「私、知りたい。伝えたい。本当のこと」と、念じるような言葉と共に入っていく女子リポーター……。


 同・端午の節句バージョンメインエントランス――焦げたスマホの残骸現場の……規制線範囲を四方八方に警備する制服警官隊。幾人かの腕章捜査員が長机で、「とりわけ御身分を」と一般客の事情聴取をしている。手腰開脚で窺っている深山香夏子警部が腕時計を見る。11時ジャスト!

 女座りで床にもろぶちかっている奈菜未。連れ添う剣斗に、見守る夏未と孝美。

 そこへ……バルコニー3階から呼びかける優理華。

「奈菜未ぃー。どうした?」

 放心状態で、その声が届かない奈菜未に。夏未と孝美が、聞き覚えある声に見上げる。

「ああ、ゆりっち姉さん」と、夏未。

「事情は後ほどでぇ」と、孝美。

「察してください。お姉さん」と、剣斗も見上げて言う。

 ……ニョキニョキと……小さな何か? 植物的な影が……吹き抜け部分にすっぽりハマるように成長し……それはまるで100年経過したような推定高さ50メートルの大木の杉の影。「どうしてヒト科は、身勝手なのか? おいらの母さん杉を殺したのか?」

「何?」と、勘鋭くその眼光を向ける香夏子警部ら。深山剣斗が、物陰に走る……。

 黙認しながらも、奇怪現象たる茶と黄色に輝く楕円を警戒する香夏子警部。

 お座りする夏未と片膝立座りしている孝美が、薄い意識で倒れている奈菜未を抱える。

 事情を訊かれるため大気中の若干残っているお客と、いつの間にか新たに加わっている野次馬お客が、スマホレンズを向ける。

「母さんは、まだ主要の都がこの国の西の方だったころ。そしてこの辺りは見向きもせぬ北方の稜線に囲まれた平野で湿地帯だったころ。たまたまこぼれていた種が息吹いただけ。成長するにつれ……ヒト科が言っている木となり……その後、ここ平野の関東が拠点と拓かれても……まあまあな巨木感はあって、神的に祀られ大切にされていた……」

 と、語っているうちに楕円形が少し大きめのヒトガタ大までに納まった茶と黄色の輝きが……完全に登頂気味長身スレンダーレディとなる。

「おいらの名は、杉っ子スーギンだよ。精霊ぇ……ここに生えていた1000年杉に宿っていたフェアリーが、杉の子に融合したのよ」

「え? この硬い床から? 割って、地階もあるのに?」と、香夏子警部。

「ヒト科の寿命では計り知れないよね」

「え? 何? 話す杉? おいらって、女子、なの?」と、香夏子警部。

「ヒトかはやっぱ。ヒト科の然も自分の見た世界観を視野に話すようだね」

 と、ついに暴れ出すスーギン!「だから、これを現実と、分からせるためには、こうするのよ」と両腕を広げると……無限に伸びるかのように伸びて……腰を捻ると広がった腕のような太枝が……周囲を破壊する。

「ターアァ!」と、飛び出てきたスタングン! ヘッドパッとを見舞わせるが如く……ノコ刃の頭部顎をカチカチと開閉させて、突っ込む。

 更なる小枝が左右の腕から数本ずつ生えて……迫りくるスタングンを払い落とす!

「スタングン!」と、優理華の声が上からしたと思うと! 黄色と黒のボーダー柄のボディに金色に輝く蜂系の羽をグライダーの如く使用して――上階のバルコニーから飛び出しダイナミンとなって……吹き抜けの筒型スペースを急降下してくる。「ハニーヒートガトリンングよ!」と首隠しの白いモフモフなファーのような胸部位に無数に生えている毛が、白く光って無数に飛んで、スーギンヒット瞬間にミツバチと成ってその頭部に群がる。

「熱い。焦げる。うわぁー」と、スーギンが悶え耐えて、「これならどう?」と杉ヤニガトリング弾連射する……ダイナミンの体にへばりつき、粘りで身動きを止めて、墜落する。

 アントン……「技のネーミングは……アント……」と考えているうちに到達するアリンコの大群の齧り攻撃。が、幹に集った大群を樹液で動けなくする。

 ビートルン……「ビートルンキャノン砲」と頭部の角が砲身と化しバズーン! とエナジー弾が発射する。が、太い枝に覆い茂った葉の巨大団扇に払われて、その宙で爆発する。

「木のくせに……小賢しい」と着地するビートルン。「動く大木も脅威ですね」とアントン。

「木に集るしかの虫けらでは、おいらには。それにヒト科絶滅作戦は? ヒト科耐同盟は」

 解放されつつも、見ていた奈菜未。「あ、優理華が」「ダイナミンが」のその内なる異なる意の、今の願いが合致して……震わしつつも何とか立ち上がる奈菜未。「キューミン……スパークフラッシュ……」とタジタジながらも……臍前で両腕を交差して、言い切ったところで胸を張り天を扇ぐと……黄色い閃光がその体を包み込み……ヒトガタ大の楕円の輝きとなる!


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