11 街の異変


 60番街タワービルの景観――日も暮れて……帰宅しようと、他のお客に混じって、夏未と孝美……妃小里と奈菜未が乗ったメインエントランスに向かうガラス張り展望タイプのエレベーター(展望エレベーター)。外では……夜間と呼んでいい時間ながらも無数のカラスが何やら……ビルに向かっては、旋回を繰り返している。が、都会でのカラスも珍しくもないので気に止めてはいないお客らだが、夏未と孝美が異様なその多さに気味悪がって……指差したりもして体を寄せ合っている。他の女性客らもようやく共感したように不気味な表情を浮かべはじめ。幾人かいる男どもがギリギリまで突っ込んでくる異様なカラスに向かってグーパンチのパフォーマンスをするが、何の効果もなく単なる虚勢に然る!

 が、展望エレベーターが途中で停まり、外で旋回中のカラスとは違う声明号令が……。

「さあ、お仕置きの時間だよ!」という声が……覚えもない妃小里と奈菜未の中に蘇る。

「?」内なる声に些か頭を傾げる妃小里。

「!」内なる声に驚きをうっすら顔に出す奈菜未。

 前のビルに反射している月は新月に近づく欠けっぷりで……街明かりの方が勝っている明るさの中に、小さな虫のような青光りする虫もカラスの下で飛びかってようでもある。


 同・内催し物フロア――深山香夏子警部と制服警官らが、初動鑑識の検証を終えてはいるもののカラコンと非常線仕切りテープの立入禁止となっている現場で未だ捜査している。

「さあ、ヒト科を成敗するんだよ。配下の生物どもよ」と言う声明と共に何処から出てきたのか? そこ周辺は狂暴化したドブネズミ集団がまずは出現し……一部が吹き抜けバルコニーの柱や隅っこを蔦り下って……一階エントランスを覆いつくし未だ大入り状態の御客らを襲いはじめる。「ヒト科の力では、大群には無力だよ。齧り尽くせ!」

 その階の吹き抜けバルコニー手摺から崖下を臨んだり……そのフロアをだだっ広く見渡したり……見える範囲で上階を臨んだりとしている……『第一回アニフェス記念T』プリント文字の白Tシャツ短パン姿のあのデブ男が、指揮して手を振っている。率いる小動物の大群に襲われる60番街タワービルの内部の一般のお客様ら……。

 バルコニー対岸のレディースアパレルフロアではマイマイカブリの大群発生に……震え、かたまり、同伴者がしがみつき腰を下ろしたりして、身動きを奪われている一般客たち。

 また、飲食店街フロアには、切り込み隊隊長ゴーキン大将亡き後の残党ゴキチャン大群がヒト科に集って襲っている……。

「キャーァ―アー」ようやくどこかで女性の悲鳴が、吹き抜けにエコーがかって響き渡る。

「え!」と、反応良く振り向いた香夏子警部が、吹き抜けへと走る。制服警官全員続く。

 上、下を見る香夏子警部とその他の警官ら。「警部」と、真正面を指差す女性警官の、指先を追って見る香夏子警部の目にも……白T短パンのデブ男が映る。明らかに挙動不審で、上や下……レディスアパレルフロアを見ては……にやにやしている。

「まずは勝機を狩って。ああそうだよ。青蝶の女、捜せ。顔を、はっきり焼き付いているから念を送るよ。見つけたら殺していいよ。身勝手なヒト科は滅亡だよ」と喚くデブ男。

「あんた! 何者? これと何か関係あるの?」と、走り出す香夏子警部と、警官ら……。

「ふうん。警察かよ。まあいいよ、あんたらもヒト科だよ。絶滅作戦の対象だよ」

「信じがたいが。現実!」と、流石に驚いているそばから香夏子警部らを取り囲むマイマイカブリの群団が、文字通りのマイマイを襲うが如くの凶器の顎をカチカチとさせて迫る。

「ヒト科世界のニュースでも取り上げられたよ。興味なかったのかよ。まいいよ、やっちゃえば関係ないよ」と、手を振るデブ男。

 マイマイカブリに加え……50匹はいるであろうドブネズミの群が……別方向からは無数の青光りするハエとアブの大群が……香夏子警部と警官らの周囲を四方八方から囲む。

「発砲許可を。警部」と恐怖心を抑えた表情で一人の警官が警察拳銃を構える。

「待て待て、あんなちっぽけな対象では弾の無駄遣いとなる! それに器物破損の方がリスクは高いよ。とはいっても……どう、一網打尽にするのか?」と、考える香夏子警部。

 天上の防犯カメラ……。


 同・警備室――60番街タワービル各所監視モニターを見ていた警備員らが、「これはどうした事か?」「こんなの、いたずらフェイクでは?」「兎に角上に報告相談しよう」と一人の警備員がスマホでメールで、「あ。CEO。じつは……」と状況を報告する……。


 同・社長室――「なんだ?」と、手にしたスマホ画面に驚いた黒Tシャツブルージーンズ姿の金崎金雄42歳が『快傑キャノンガール』アニメ視聴そっちのけに、出て行く。

 ドアが閉まってセキュリティロックがかかり、誰もいなくなった社長室の天井の空調ダクトから、「うぅりゃ!」と、飛び下りる景山数希。フリーデバイサーブレスレットに触れて、「D探知」と文言を言って、周囲にパネル面を翳す……と! ピッと反応ありで、一見壁の隠しクロークの扉を見つけて、指だしグローブをした手で壁を触れて探り……「お!」と、IDを解除して勝手に開いた扉の中に、お目見えする畳で言うと半畳分の隠しスペース。単なる台に乗ったパソコンが一機。

 扉を閉めて敢えて薄暗くして、触れた手首のデバイサーの点すブルーライトをキーボードにあてる景山。と、指紋べったりの触れたキーが浮かび上がる。あとはこのキーのアルファベットや数字の組み合わせのみ! なのだが。このまま撮影できる暗視カメラで浮かび上がった指紋のついたキーボードを撮り……逆順で、何事もなかったように。赤外光線を点したデバイサーで、探り、「髪の毛一本でも」と見渡して、天井へと飛び上がって部屋の中を見る景山。「次の新月までな。解読して解放しに来てやるぜ」と言う思いを預ける。

 壁掛け大型モニターのゲーム画面が、無人を感知して、警備用カメラ画面に変わる。と、60番街タワービルの内外で起きている奇怪な小動物の襲来状況を各所カメラごとのスライドで……送ってきている。見る景山が、「どうした? 何があった、零華」と内線する。


 同・展望エレベーターの中――定員分のお客を閉じ込めてしまっている展望エレベーター。そこにいる全員の願いは「脱出!」だが、自分と同伴者のことを優先に考えているようで、バラバラな言動のお客たち!

 孝美が緊急呼び出しスイッチを押す。が、プルルルルと呼び出し音がして、「しばらくお待ちください」を繰り返す……インターホーンのお姉さんガイダンス。

「待たせるって、緊急だってぇ」と、強く床を踏んでデする夏未。

「緊急時に使うように書いてあるのにぃ!」と、ふくれっ面になる孝美。

 天井のハッチを見上げる妃小里のスカジャン猛禽刺繍と、奈菜未後頭部の青蝶が輝く。

「こうなれば。ダイナハードよね、奈菜未ちゃん」と、妃小里。

「あそこ! 肩車していい? 妃小里ちゃん」と、屈む奈菜未。

 奈菜未がスカジャンに膝上丈スカートの妃小里を肩車して、夏未と孝美の手も借りてリフトアップするが、妃小里の伸ばした手は届かない。

「男性視線見張って、夏未、孝美。妃小里ちゃん。肩に立って」と、奈菜未。

 ハッチ下の奈菜未と妃小里に背を向けて……周囲の幾人かの男どもを睨む夏美と孝美。

 靴を脱いでその肩の上に立つ妃小里が、靴を持つ手のグーで天井のハッチを押し上げる。

「うぅーりゃぁあ!」と、靴を上に軽く投げ入れた妃小里が懸垂要領で……腰まで上がって天井裏に見えちゃっているパンツそっちのけに入って……下に手を伸ばす。

「こらぁ」と夏未が。「女子のパンツ見るな」と孝美も。無意識のように様子を見守っていた男どもに注意喚起する。

「ああ平気よ。夏美ちゃん。孝美ちゃん。これ見せパン」と、手は届けどその高さでは、奈菜未を持ち上げるにはきつい妃小里。

 様子も見ていた夏美と孝美が奈菜未の左右で両手を組んで構える。「ん!」と笑った奈菜未が右足を夏美の組んだ手に。左足を孝美の組んだ手に乗せて……二人の力を借りてハッチ穴に近づく……と。妃小里が握った手を引き奈菜未を引き上げる。両腕両足を支えにしたワンピースに包まれたお尻ラインをも出した宙吊り状態の奈菜未。

「なんか、お風呂」とワンピースに包まれたお尻を上げる夏未。

「浸かってるみたいだよ」と男どもの視線を背けさせる孝美の目力。

『奈菜未!』と声が揃う夏未と孝美。

 先に天井裏に上がった妃小里の手を借りて、突き出しお尻も自ら引き上げる奈菜未。

 案じる表情ながら見上げている顔に、笑みを加える夏未と孝美。

「夏未、孝美、待ってて。エレベーターの中が今は一番の安全地帯かもぉ。じゃ」と、ハッチを閉めて行ってしまう奈菜未と妃小里。


 同・エレベーターシャフト内部――数本のワイヤーで吊っているエレベーターボックスの上に立つ奈菜未と妃小里。僅かな物音に見上げると、高所ダクト口から舌を覗く景山。

「え? 便利屋さん?」と、奈菜未。

「え? あ! ちゃうちゃう。たまたまのお助けマンだ。そっちは?」

「え? ああ……(と考えた)チョイッと迂回しているJKだしぃ」と、返す奈菜未。

 こんな場面でも余裕の二人に、「ふふっ」と、微笑む妃小里。

 何処から出したか? 景山が垂らすザイルを、身軽に上って行く妃小里と奈菜未。


 同・展望飲食街――通路を埋め尽くすゴーキン大佐部隊残党のゴキチャン大群を、「それ!」アリンコ缶バッジ男子の声に、出現した黒アリ部隊が応戦して消滅させていく……。


 同・内催し物フロア――非常線仕切りテープの立入禁止となっている現場を背にして青ざめた色を露わにしている香夏子警部と制服警官らを、四方八方から囲むマイマイカブリの大群に……ドブネズミの群が……宙を飛ぶ青光りするハエとアブの大群!

 白Tシャツ短パン姿のデブ男が、香夏子警部らを見てにやけている。

「警察もヒト科だよ。例外は無いよ」と、手を振るデブ男。それら大群が飛びかかる。

「わたくしにお任せを。WRフラッシュ!」と、何処からともなく朱音の声がして……金赤色の閃光を放ったヒトガタ女子のシルエットが、対岸のレディースフロアから出てきて頭を先にしてジャンプする。滞空中……露になった女子は竜崎朱音女史似の赤トンボ。

「ドラフラン。推参ですわ!」と、ドラフランと名乗った容姿はなかなかどうして、しなやかボディライン女子で、光る羽を背にしたトンボとヒト科のハイブリットだ。

「コスプレの貴女が? どうするの?」と、香夏子警部。

「こんな怪物では流石の警察さんも対処不可でしょ。このわたくしが成敗しちゃいますわ」

 目を潜める香夏子警部と周囲の警官ら。加えて白Tシャツデブ男も警戒する。

「わたくしが楽しみにしていたアニフェスの夜の部を無効にした上に。稀に気に入ったアパレルを台無しになさっては、流石のわたくしも逆鱗に触れさせていただきましたわ」

「何をいっているの? あの、コスプレ女子は?」と、香夏子警部。

「わたくしドラフランが成敗いたしますわ。御覚悟を。ドラゴンヒートウィンドー」と言いつつ……羽ばたいて平行滑空状態でキリモミ飛行をすると、全身に纏った炎を太陽フレアの如く棚引いた炎熱に触れて……ドブネズミ群が消滅する……。が、御客らも焦げる。

「一般市民を巻き込むき」と香夏子警部が声を張る。

「非常時のリスクですわ」と、青光りのハエアブ集団を焦がし……バルコニーに向かう。

「ノーズピック!」と、鳴らすデブ男の鼻が……一瞬、イノブタに変化し、突風が吹き荒れ! 滑空して向かって来るドラフランを包んでいる炎がすべて消化されてしまう……。

「豚足パンチ!」と右前足世様な右手を降下中のドラフラン目掛けて突き上げると! 反発する衝撃もプラスした打撃を食らって、意に反して吹っ飛んでいくドラフラン。

 天井ダクト口から舞い降りた妃小里と奈菜未がフラッシュしてシルエット状態になり……吹っ飛ばされたドラフラン状態の朱音女史をキャッチするシルエット状態の奈菜未!

「え? 朱音ちゃん」「ぁあら……奈菜未さん。とんだところをお見せして……しまった、わねぇ……」と、力尽きて気を失う竜崎朱音女史。

「もぉー気高いんだか、なんなんだか? でもすごいし!」と、朱音を片隅に置く奈菜未。

 ファルミンの旋風攻撃がいきなりイノブタ男を襲う……が、脂身の分厚さに阻まれる。

「ぼぉくらは、この世界の身勝手なヒト科を滅亡させることだよ。どうして同志同士で戦う必要があるんだよ」と、イノブタデブ男。

「アタイはファルミン。古巣テリトリに無関係なイノブタさんがのさばっているのが気に入らないのよ」と羽ばたき旋風勢いに無数の羽手裏剣を放つ……も! 同じく効果なし。

「アタシ、キューミンだ、しぃ! 加勢するし」と……技パフォーマンスを仕掛ける言動意思の奈菜未に、「口内目標で。フラッシュアローよ」の意志に脳裏にイメージ……従って動作するキューミンに変化した奈菜未の頭部の触覚から言われ念じた通りの電波的周波がイノブタの締まりない口へと飛ぶ! ヒットしてたまらずイノシシの化身が融合を解いて……楕円の輝きとなって……どこかへと飛んで行ってしまう。

 無気力に倒れている白Tデブ男を、テロ行為の疑いで手錠をかける深山香夏子警部。

 妃小里を助ける奈菜未がキョロキョロするが。何処にもいない景山の姿。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る