10 救いの女神か?


 60番街タワービル上階イベント会場――『快傑キャノンガール・フェス会場』の滅茶苦茶になってしまっているフロアに、黄色いお馴染みKEEPOUTテープで規制線を張って……足にナイロンを履いた鑑識員が現場検証をはじめて、それを眺めつつ背広姿の主任とスカートスーツ女子が話し合う。

「どうやら、警察がようやくきて、検証を始めたようです。ではインタビューを」と、女子リポーターが……規制線外ギリギリからマイクを突き出し、「どうでしょうか? あの得体の知れなさは、やはりアニフェスイベントの一環なのでしょうか?」と問う。

 鑑識の一人からスマホ映像を見せてもらっていた主任とスーツ女子が報道対応する。

「ダメダメ。今、来たところよ。追って会見するから。お待ちください」と、スーツ女子。

「この具合から察するに。これはテロ行為と判断できかねますが、公安の刑事さん? 今回は集団にあらずで……でも破壊的で」と、それでもマイクを向けているリポーター女子。

「この前の奇怪な現象や、突如大群をもって襲来した鳥たちの攻撃的……。それらと何ら関係性も含めて、捜査するから……」と、現場指示を出すスーツ女子。

「おおい! 誰の許可を得て!」と、リポーター女子を今更ながら手払いする背広主任。

「でも、隠しようが……フェイクでないことはこの私の目で……」と警官に追い払われていく女子リポーター。「あ! 60番街タワービルの初日お披露目リポートの取材許可」


 同・ダクト内――徘徊する景山数希が網目を覗く。下のフロアはどう見ても社長室で、若作り軽装のTシャツにブルージーンズ姿の茶髪ざっくりヘア男子が壁掛け大型モニターでテレビゲームをしている。

「お! データに添付していた写真の若作り男だ。ってえことは……ここが社長室だな」と、ダクト管内で息をひそめる景山数希。


 高峰家玄関内――靴を履いた柊木拓光がスリッパを揃えて顔を上げる。見送る優理華。

「いつでもお相手するから、言ってね。タックン」

「うん。でも、本当にごめん」と、ぺこりと首を垂れた拓光が、「じゃ、ご馳走様」と、玄関ドアを出て行く……。

「なにか火照った感じが。セックスしたいような……でも月の日はまだ早いしな?」と、口元に一本指を添えて、頭を傾ける優理華が……「なんか? 肉食的な……エナジーのやり場を求めちゃっている、の? 私!」と、廊下を奥へと歩んでゆく……。


 同60番街タワービル・上の吹き抜けバルコニー手摺沿いから……滅茶苦茶『快傑キャノンガール・フェス会場』を見下げる高峰奈菜未。少し離れた同縁で同様に下を見ているファルミンから一般的女子へと戻っているその女子。他にも無関係なお客が何事かと野次馬目線を注ぐ……。

 気がついた奈菜未が近寄って、「お茶? どうかな?」と、誘う。

「へ? え。あ、ええ……と!」と、迷うその女子。

「だめ?」と催促する奈菜未。

「コーヒーでもいい?」

「え? あ! アハッ。アタシもコーヒー党だし。エクスプレッソ系の」

 必然的に顔が近づき、その女子と見詰め合って、『むふ、ふふふううあ、はははは……』大笑いし合う奈菜未とその女子。

「アタイ、小谷妃(ひ)小里(おり)!」

「アタシ、高峰奈菜未」

「どうして?」

「え? なにが」

「乗っ取られていても、記憶しているよね。アニフェスのこと」

「ああ……ううん」

「どうして、攻撃しなかったの?」

「だあって時間帯が。月の影響のある夜じゃないし。出来れば平和的解決の方が……」

「面白くないんじゃ。誰かさんらの脳裏に浮かぶ絵テキには……」

「え? 誰のこと? って、末路が戦うから飛躍すると戦争だしぃ……どうしてものときは致し方ないこともあるかもだけれど。殴る方も手、痛いって、ギャリックボーイが言ってたし。あ! セリフだけれどね」

「ふううんん……」と、考え込む妃小里。

 と、この時にはもう肩を並べてエスカレーターへと歩んでしまっている両者。

「たしか、展望フロアに……」と、下から言う妃小里。

 振り向いた奈菜未が、「お洒落感あるカフェよね」と、ウインクする。


 高峰家ⅬDKフロア――キッチンで食器を洗い終わって……出しっぱなしの水を見つめていたが……ハッとして、水道を止めて、見るともなく前方やや上をボーっと見る優理華。


 60番街タワービルの滅茶苦茶な『快傑キャノンガール・フェス会場』の黄色いKEEPOUTテープで規制線の中では未だ……鑑識員が現場検証をして、スーツ姿の女子と背広姿の男性が話し合う。

 その光景を背にした女子リポーターが、撮影レッドランプ点灯のハンディカメラマンに向かって、Vサインアピール残留オタクらをかき分けつつ……報道する。

「鳥、何方かと言いますと猛禽類のコスプレをした女子が、どういう仕組みだったのか? 会場を滑空し、会場中を滅茶苦茶にしまして。これまた、謎、としか言い表せない別の女子が対峙しまして。何か言葉を交わし合っているうちに、隠しワイヤーでしょうか? 切れたようで落下しましたが。コスプレどおりのヒロイン的さながの身のこなしで受け身を撮ったようでして、軽い痛み程度で外傷も得ずで。インタビューする間もなくの直後に、眩い光に紛れて仲良くどこかに行ってしまいました」と、女子リポーター。


 同・上階飲食店街フロア通路――肩を並べ歩く小谷妃小里と、高峰奈菜未……。垣間見る一面ガラス張りの外壁の外は……紅白タワーとその周辺の都心の絶景で、些かオレンジに染まる雲の上部……。

「ねえ、妃小里、ちゃ、ん」

「え? あ、いいよそれで」

「妃小里ちゃんて、年、きいていいかな?」

「ん。16歳だよ」

「へっ! アタシとタメだし」

「うん、知っているよ」

「へっ? アタシのことを」

「うん、ある意味。奇抜女子テキで。アタイにゃあ魅力的で」

「え? 同じ女子高?」

「ん! 2Aだよ!」

「え、え、へぇぇぇぇぇぇえ!」

『知らなかった!』と、別視点ながらも声が合う妃小里と奈菜未。

「ほんと、ごめんだしィ」と、拝み手をする奈菜未。

「ん、いいよ。Cだよね」

「ん」

「朱音と近所だよ、アタイんち」

「あ!」と、前方を指差す奈菜未。『トーアルオープンなカフェ』と言う名のテラスカフェ店内客席に座ってお茶している夏未と孝美がいる。大きな外壁窓も例外のないガラス張り。

 レジ前列に並ぶ……小谷妃小里と高峰奈菜未。気づいた夏美と孝美が手招きする。スタッフに事情を話して……同席を乞うが、「本日は混みあっておりますので。先をお許しするわけにはまいりません。お並びになって順番どおりのご案内、いたします」

「だから、知り合いって」

「あの二人、アタシの親友って」

「規則で御座います」と、丁寧だが浅めのお辞儀をして奥へと言ったしまうスタッフ。

『でも、語彙が変だったような? ねぇーそうだよね』と言葉になった考え方も相成って、不服顔を堪えつつ……互いの表情を見て『うふぁあっははは……』と笑う妃小里と奈菜未。


 同・『快傑キャノンガール・フェス会場』――で、現場検証中の現場に、鑑識員の話を聞いている女子刑事と主任……。二人組男性刑事が来て、『捜査一課捜査員』照明IDを見せるも、胸の赤っぽいバッジからその身分は明らかだ。

「わたしは一課の者だが。公安さんですかな?」と、ブラックスーツ男性が問う。

 振り向いたスーツ女子が対峙する。「公安の深山(みやま)香夏子(かなこ)警部です。一課が何の御用?」

「これは、器物破損として犯人捜査案件だよ」と、ブルースーツ男性が主張する。

「もうすでに出回ってしまっていますが。SNS投降映像を見る限り、イベントの演出による事故、のようで。一般事件がらみは一課が衝動を行うと」とブラックスーツも訴える。

「この感じでは最悪テロの疑いが濃いでしょ。公安が初動をした方が!」と、香夏子警部。

「では、この場は共同で行って、鑑識の見解にて判断しましょう。深山警部」

 と言っているそばから……ともに来た制服警官が深山警部の耳にこそこそと話す。

「この場は貴方方にお任せします」と、去っていく深山香夏子警部……。


 同・トーアルオープンなカフェ店舗内――4人掛けテーブルで各種のケーキなどを食べ食べ……コーヒーなどの飲み物を啜っては女子トーク展開中の4人女子は、夏未と孝美、小谷妃小里と高峰奈菜未。

「まったく融通利かないマニュアルインプット店員の典型だね」と、奈菜未。

「いいよ、何時間でも粘っちゃうから」と、夏未。

「でも、長居すると煙たがれるのでは?」と、妃小里。

「いいのよ。動かざるは山の如し戦略よ」と、孝美。

『あはは……』と、四人女子が笑う。

「にしても、お二人って、何者なの?」と、孝美。

「ゼンゼン記憶なしだしぃ」と、奈菜未。

「コスプレ仕込んで超早チェンジするって? どうやったの? お二人さんは」と、夏未。

「そうそう。奈菜未ったら。ええと……」と、孝美。

「ああ、妃小里ちゃん。Aクラスで、朱音女史知り合いって」と、奈菜未が紹介する。

「え? そうなの」と、」夏美。

「私は見たことあるよ。廊下とかで」と、孝美。

「ん」と、二つ返事で首を垂れる妃小里。

『あはっ!』と、声を揃えて大笑いする4人。

 スーツ女子の深山香夏子警部が近づき……女性2人の隣のテーブルの空いている椅子を失敬して同席して声をかける。

「ねえ、あなたがた。イベント会場にいたのよね。話し聞かせてくれるかな?」

 可成りのスタイリングな女子スタッフが来て、「あちらで並んでください」と注意する。

「少しだけよ」と単なる客じゃないことを空気で示す香夏子警部。オレンジがかってきた向かいのビルの反射的外光の干渉の如く輝かせた目を戻して行ってしまうスタイリング女子スタッフ……入った壁陰が些か輝く。が、誰も気と止めない。

「これを見てもらっていいかな?」と、スマホを出して映像を見せる香夏子警部。

 一応見る夏未と孝美、妃小里と奈菜未だが。誰とも見知らぬ女性の勇ましさを警戒しているように……銘々に画面を見たり、香夏子警部をチラッと見たりする。

「ここで飛んだように演出している女子って、貴女よね」と、妃小里を見る香夏子警部。

「ううん」と、些か歯切れ悪く頷く妃小里。

「今、何か話しかけている女子が貴女よね」と、奈菜未を見る香夏子警部。

 コクリと頷く奈菜未。

「これって演出なの? それともやり過ぎ行為?」と、全員を見る香夏子警部。

「これは、アタシの意志でなく。中にいる……」と語りはじめた奈菜未を、止める妃小里。

 見合って、アイコンタクトを取り合う妃小里と奈菜未。

 スマホに電話が来て、少し離れて話す香夏子警部。「え? 上が……仕方ないです。本部長」と切って、「今日のところはいいわ。あなた達ってJKよね」

「はい。都立北都女子高です」と、奈菜未。あとの3人も頷く。

「また話し聞くわね」と行く香夏子警部。見晴らしの良いガラス張り窓の外は、明らかなる夕日が一番高い山の向こうに沈む……直前の絶景!


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