9 ターニングポイント


 60番街タワービル上階イベント会場――『快傑キャノンガール・フェス会場』の滅茶苦茶になってしまっているフロアで、ワイヤー何しにホバリングする鳥の容姿の女子(鳥女)を睨んでいるキューミンの意の高峰奈菜未。垣根となったオタクらの撮りまくるスマホカメラ。女子リポーターがハンディカメラマンと実況を開始する……。

「はい。只今……こちら、60番街タワービル『快傑キャノンガール・フェス会場』では、なにか得体のしれない人の姿をした奇怪な生物が。鳥のような……猛禽類の。先ほどは翼を羽ばたいて強風で会場を滅茶苦茶にし。今度は飛んで旋回し、またなにやら暴力行為を仕掛けようとしているようです」と、棚引くヘアやジャケットを抑えつつ取材する女子。

 オタクの垣根の中に……ナンバー299整理券の赤に黒ドット柄ルックでヘッドホーンを着けた小柄女子がいる。

「それよそれ(スマホカメラを向けているオタクらを指差して)現実主義で恐れを知らぬヒト科たちよ! ここにあった、ずぅーっと巣としてきた千年杉を、たかがお祓いごとき念じただけで、切り倒してどこかの材木にしちゃうなんて。その杉に巣をつくったのはもう百年ほど前の私の祖先。身内の卵を何の恐れもなく潰したあげく、こんなヒト科個人の私腹を肥やすための建物を拵えちゃって。私ら野生の生き物の子孫繁栄の永地を奪った罪。思い知るがいい」と、声明を唱えた鳥女が、羽ばたき滑空し旋回をはじめる。つむじ風……突風……風が巻きはじめ、まずはオタクらを襲わんばかり。

「で、あんたの正体は?」と、奈菜未を乗っ取ったキューミン。バレッタの蝶が輝く。

「私は、ハヤブサの化身……フェアリーィィィ……ファルミンだよ!」と、名乗る鳥女。

「ファルミン! ここを破壊するのはアタシも厭(いと)わないわ。でもね、ここにきている大勢のヒト科の中には……」と、講じるキューミン。

「なら、邪魔しないで! ええと誰さんなの?」と、鳥女改め、ファルミン!

「キューミン、キューミンよ! アタシ」と、姿は高峰奈菜未だが、意識がキューミンなのでこれを名乗る。

「キューミン。どうして?」

「え?」

「どうして、ヒト科を庇うようなことを?」

「庇ってはいないし。ただ、見極めないと」

「嘗ての戦火にも耐えた住処を奪った罪。環境破壊は明々白々じゃ。どうして今更……」

「中には健全に生きているヒト科も。この嬢ちゃんもその一人に思えて」

「そう。もうそこまで……本体が撤退したけれど、残った者が滅亡制裁しないと!」

「勘! 女の勘だけれど、ベターハーフって、すべてを一瞬にして知ることになるでしょ。ヒト科は、巷習慣からなる生まれたときからの教えで、判断する生き物のようだから。ルールとかモラルとか、あとは本音と建前で生きる術を学んで、使って生涯を終えるようよ」

「ふん、不憫ねっ」と、若干スピードを緩めて意識をキューミンに向けているファルミン。

「このキューミンにこの場は一旦預けて。今日のところは引き取ってくれないかな?」

「え? どうして。あたなって、バタフライフェアリーよね。たかが虫一匹に何が?」

「知らないの? この現世では所謂虫と鳥類では大きさだけでも勝負にならないけど、ヒト科に融合すれば、ヒト科個体の差はあるけど、大きさのハンディは無くなるし。それに」

「それに?」とファルミン。

「賢さも使えるし。どうしてくだらないヒト科をこの巷は生かしておくのかとかも、体験的に知ってからでいいかなぁって。右へ倣え主義ヒト科は、ほぼ人畜無害だしぃ」

「ううん……。 ! でも、この建物を造ったヒト科を許すことはできない。住処を奪われた悔しさを思い知らせてやるのさ」と、ファルミンの旋回スピードが増して――低気圧の積乱雲を渦巻く空気の中に生み出し……稲光! ゲリラ豪雨……荒れ狂うその場大気が開場式壁を膨張木っ端みじんに砕く。バキッ、ベキッ、バリバリバリ……! と。

 上を見て止める意思を体に浮き彫りにする奈菜未。その意識はキューミンの試行に注ぐ。

「え? 闘うの?」と、夏未。

「どうした、奈菜未」と、孝美。

「出方次第だね。この嬢ちゃんのお友達たちは、どこか避難していなさい。危ないから」と、奈菜未の口から出た言葉だが、言わしているのは則っているキューミン。

「さあー皆さん避難してください。こちらから会場外にいったん出てくださいいー」と、女子スタッフに扮した望月零華が叫んで誘導する。が、把握できずに動かない群衆ら……。

 夏未と孝美が後ろ髪敷かれつつも……奈菜未を気にしつつまずは出て行く……。と、誰かが動いたことにより、その他大勢テキオタクらも、いよいよこぞって出ることによる小規模な群衆雪崩テキ要素も覗かせ我先にと避難する人々。最後の塊が会場を出た瞬間に可成り朽ちてしまった仕切り壁が四方八方に倒れ。『ウワーァァァァァあ!』と群衆が叫ぶ。

「おい! 何があった? 零華」と景山の通信音声。群衆の前で庇い手をして上を見ている零華の目が輝いている。「ああ、我が君。只今、変な生き物がこのビルを壊すって衝動開始したところよ」「おい。それ、まずいぜ。止めるんだ零華」と景山の音声。

「へ? どうして。我が君」「今、経理部のデータを。うんなことより、俺たちがやらかすはずのデータがパーになる可能性がある。まだ、裏帳簿のデータを」「ああ、そうね。データは残っても。それを受ける通信装置などがパーでは……このビルごと壊すって意気込んでいるしね」「止めろ。最小限で。でないと裏金も奪えなくなる」「ドスコイ」と、内臓通信スイッチを意思疎通で切って両掌を上に向ける零華。「人に効果がない、音波数値は?」

 そのとき、いち早く……奈菜未の背中から光り輝く両翼を広げるキューミン。ファルミンに向かってひと羽ばたきするため……羽を閉じるテークバックに入る。と! 「あ! そうか」と奈菜未の口が開き、「そうよね」と輝く羽を奈菜未の背中に格納するキューミン。

「うわぁぁぁぁ……」と、いきなりヒト科の女子に姿を変えて、転落するファルミン。

 床に落ち藻掻き倒れているファルミンに、キューミンがもの申す。

「現世での、日中その姿での活動限界時間は、こちら時間で30分! 知ってるんでしょ」「ああ、そうだった。つい頭に血がのぼって……テヘッ」と、舌を出すその女子。

「しかも、その夜はそのリスクを伴うエナジー分しか活動できないし」

「うん、そうね」と、見上げる女子。

 翳していた両手を下す零華が……オタク群衆に消えていく。「我が君。クリア……」

 ファルミンに変貌が解けて……倒れている女子を目深に見下ろす……奈菜未。


 高峰家ⅬDKフロア――リビングテーブルで、添えた輪切りゆで卵とウィンナーが顔みたいになっているお家で拵えるゆりっち姉さん(優理華)お手製ミートパスタを頂いている柊木拓光。

「ねえ、テレビ、いいかな? ゆりっち姉さん」と、拓光。

「え? あ、ん。いいよ」と、リモコンでテレビを点ける優理華。

「さっき、気になる……」と、フォークに絡めた一口分のパスタを口にする拓光。

「ここでいい?」と、リモコンを拓光の方に置き換える優理華。

「ん。平気」と、拓光が見るテレビ。

「あれ? 今。何かが飛んでいるような……?」と、テレビに一瞬釘付けの成る優理華。

 ――画面では――会場が荒れていて。飛んでいる何か鳥のような物体に向き合っている女子の背から……頭部の蝶のバレッタが映ると――「これは!」と優理華が発して……奈菜未の顔が映ると、「やっぱり、奈菜未だね」と拓光。

「……どうした、奈菜未? なに? これって、イベント演出ぅ……」と、巻いたパスタのフォークを口に運ぶを、止めざるを得ない優理華。

「演出にしては、やりすぎな感じだよね、ゆりっち姉さん」と、拓光。

「結構広めに囲っているようなイベントコーナーの壁が全部倒れているし」と、優理華。

「奈菜未ちゃんが言ってた、キャノンガールの雰囲気じゃないよ」と、優理華を見る拓光が。「あ!」

「へ? なに?」と、見る拓光の様子が変な気がする優理華。

「ゆりっち姉さん。顔、体……」と、視線を投げかける拓光。

「へ?」と、自らの見える手や胸下の体を見る優理華。胸元谷間あたりが黄色く神々しく楕円状に輝いている。が、一瞬にして止む。

「おっぱい光ったよね、タックン。私の」

「おっぱいじゃなく、谷間だから胸だよね、ゆりっち姉さん」と、何時になく照れる拓光。

「あら? タックン。いよいよ男になった? 性的欲求とか」

「ああ。まあ、年頃の男子だから、俺も」と、ウィンナーをパクつく拓光。

「私、奪ってあげようか? 童貞」

「ええ。ああ。まあ、ゆりっち姉さんなら不服は無いけれど……」

「無いけれど。なによ、タックン」と、色仕掛けな感じの目つきを飛ばし中の優理華。

「小さいころお医者さんごっこした仲だから、いいけれど……」

「なに? 煮え切らないのは? 優しいけれど。そこははっきりした方がいいわよ。こういった場での女っていうのはね、本気スイッチオンの瀬戸際だからね」

「まあ、姉妹喧嘩の火種になりそうだから……」と、今度は輪切りゆで卵をフォークで流石……黄身が崩れて白身の輪のみを口に運ぶ羽目になる拓光。

「ああ、あ。わかった。そういうことかぁータックン。赤ちゃんクラブから中学校まで一緒で、私より濃いよね」と、フォークにパスタをまくが大きめになり、それでもかまわず大口開けて頬張る優理華。モグモグ……がやけ食いにも見える。

「でも、光ったのって、何だったのかな?」と、優理華。

「それだよ、ゆりっち姉さん。ゆうべそんな感じの光が浸透した話をしに……」と、拓光。


 高峰家のリビングを庭からの俯瞰風景――曇りはじめた空から都心の俯瞰光景を中継して――60番街タワービルの外観へと巡り……報道陣営の取材カーやらをかき分けるように警察車両が正面口に集結しはじめている……。


 60番街タワービル上階イベント会場――『快傑キャノンガール・フェス会場』の滅茶苦茶になってしまっているフロアに、女子リポーターが突撃取材する――。

「今何が? あなた、女子高生ですか? でも何か感じが。それに、どうしてこの女子が倒れているのです? 元気に飛び回っていましたが! ワイヤーは……無い?」

「……」力なく立ち上がろうとする女子……その容姿からファルミンが薄れていく……。

 ガン見中の奈菜未に……寄って来る孝美と夏未。

男子スタッフがスマホで電話をかけて話す。「ああ、催し物担当主任! アニフェス会場が滅茶苦茶に……勝手にマスコミが報じて。このままでは即、警察沙汰です。御対処を」

 立ち上がるファルミン姿を解かれたすっかりヒト科女子。それをガン見する奈菜未ら。

 倒れていたり座っていたり突っ立っていたりの逃げそびれたオタクらと、入り混じってしまった他の客との境の壁が破損して無くなっているアニフェス会場跡のスペースで。

 一方から駆けつけてくる紺色背広姿の中年男性。「どうした? なんなんだこのありさまは……」と、壊れた会場を見て問う……。に、身振り手振りで説明するスタッフ。

「あ、どうやら、イベントのお偉い様が来たようです。インタビューしてみましょうね」と、ハンディカメラ目線の女子リポーターがマイクを突き出し中年男性に近寄り、「これは流石に演出ではないようですが……上司の方とお見受けしますが……ぁ」と、問う。

「……おお。報道は待ってくれたまえ。わたしも、スタッフからの通報できたばかりだ。状況が全く飲み込めていない。今は何も言えない」個人名を伏せて応対する男性上司。

「ですが。これはどう見ても事件ですよね。それにSNS投降映像を素人集団が流しちゃっていますよ。ほら」と、自分のスマホ画面を見せる女子リポーター。その画面には――『これは演出か? はたまた惨劇か?』とか――『ワシは実践惨劇に至って被害を受けた者也。キャノガルの新技を頂戴してしまって、幸せというべきか?』――などなどのワイプ文字が羅列する――滑空する鳥タイプ女子と、下で対峙しているバタフライタイプの女子(キューミン)が警戒している光景の映像――を見る背広姿の男性上司の担当主任。

「あ! ポリコー」と、光る眼を戻して、人目を盗んで自ら輝く望月零華。「あんたら、逃げな。捕まえるのが仕事で、謝らない人たちが来るよ!」と、幻惑の中からの零華の声に……我に返った奈菜未と夏未と孝美が連れ立ってダッシュしていなくなる。

 強い光をもろに見た周囲の人々やオタクたちの幻惑が止まぬ前に……零華が人混みに消えていく……。

「なに? 今の光って」と、目を擦る女子リポーターが……視界を復活させて、「え? なに? 何処行ったの? あの二人は?」と、マイク片手にキョロキョロする……。

 明らかなる警察が『KEEPOUT・立入禁止』のテープを張り巡らせてて……その場にいるオタク連中はもとより居合わせただけの全く関係ない一般客も含めて囲む。

「そのまま動くな」と、女性の声が戸もなくして……颯爽と制服警官を伴った数人の刑事が現れる……中に、ライトグレー縦縞ピンストライプタイトスカートスーツ姿女子が!


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