5 融合、ジャストタイミング


「今夜は満月です。以前、大気が揺れたり、鳥の群が襲撃行為をしたりと、怪奇現象もここ数日間はどこ吹く風テキことになっております。このまま今宵も沈黙頂いて、スーパームーンを眺めていたいものです。では、明日のお天気です……」と、某局のお天気お姉さんの声が巷にテレビ放送されている時分!


 高峰家ⅬDKフロア床下収納庫ケースの下の地面――地中にそこまで通っているワームホールの中で、「……ミン」「ダイナ……」と蠢き続けている女子テキトークの主ら……。

 封印石のお札が……何処からともなくの隙間風か? 完全に剥がれる。「へ?」「あ!」と声がして青き石の下に隙間ができ……黄金色の閃光がリング状に輝くと。「動くよ、キューミン」「ああほんと。ここは一緒に」『ドスコイ』の重ねた声と共に黄金輝きのリングの幅が広がって、一気に青き石を何かが放り投げる。放り投げたといっても、若干地から浮いて、ワームホールの穴の半分が空いただけだが。「よし行こうよ、キューミン」「ん、感じるままに」『本能のままに、我がベターハーフヒト科を求めて!』と、女子テキ二つの声が相成り……ピシュッ、ピシュッと! 小さな生命的……一つはシャイニングイエローで、一つはシャイニングホワイトで、勢いのままに飛び立っていく……床下収納庫の蓋となっている床板などは浸透するが如く直でスルーして……!


 同・2階・優理華の部屋――ベッドで睡眠中の優理華。

 2種のカーテン……厚手カーテンとレースカーテンが閉じてはいるが、若干の隙間を縫って月光が……光のカーテンの如く差し込んでいる。布団を被ってはいるが顔は出ている優理華の御胸あたりの光のたまり場に、床をすり抜けてきたシャイニングイエローの楕円形の閃光が、一旦跳ねて、着地する。月光に照らされたその実体は! 光り輝く黄色の羽を背に生やした……すべての種をハイブリット化したような掌サイズのヒトガタの蜂!

「さぁー」と一旦ジャンプして、「うわ、ほんと、くさっ」と直滑降で……黄色くピカッ!


 同・2階・奈菜未の部屋――ベッドで睡眠中の奈菜未。

 2種のカーテンの隙間と言うより……半分以上は開いているといった感じの窓から満月の月光がもろに入っている。布団ははだけて床に落ち……毛布を全身にくるんで左向きに眠っている奈菜未。カーペットの床からすり抜けたシャイニングホワイトの楕円形の閃光が、抜けてきた勢いのままに……ベッドで寝ているお包みの上に立つ!

「よろしくね」と軽いその場飛びして、「ヒト科女子ちゃん」と足先から浸透するように……奈菜未の体内に、光り輝く掌大の蝶の容姿ヒトガタが入り込んでいく……白きピカー!


 その界隈の俯瞰光景――月光に垂れされて薄曇りの昼間の如く明るい住宅街……高峰家より少し離れた家の二階のカーテンフルクローズの窓の中で、シャイニングイエローグリーンの閃光が迸り……住宅街の中心にある風格あるお屋敷のバルコニーのある二階の大窓の中で、シャイニングレッドの閃光が瞬く!


 高峰家・地下アジト――望月零華と、景山数希がモニタリング中……。

「今、何か輝いたような?」と、目を黄色く輝かせる望月零華。

「ううん……」と、そっちのけの監視零華任せに、ノートPCモニターに集中して何やら……キーをカシャカシャ……とやっている景山数希。

 浮遊するモニターに映された……60番街タワービルの攻略作戦を練っている景山。

「ねえ! 我が君ったら。本当に光ったんだから、二つも」と、目を普通に戻す零華。

「ふうん……零れ入る月光が寝汗か何かに反射したとか、何じゃねえの」と、別件の思考中につき……零華の話に上の空状態の景山……。「もう少しで解読できそうだ。これさえ解ければぁ、あとは、零華の演算攻撃でチョイのチョイって、偽造派遣社員で潜り込めるぜ!」

「ふうん……零華がでしょ!」と、プリっと膨れて、細い目で景山を見る零華。

「ああ、零華以外にあそこまで完璧に潜り込めるヒトガタなど存在しないさ。どんな時も、不意なトラブルにも瞬時に答えを出せる小型量子コンピュータとミニスパコンマザーの人工知能AI仕様は伊達じゃねえってことだぜ。零華」の、ほめちぎる言葉に、膨れ面が徐々に解れて……今はニンマリ状態の零華!

「容姿端麗にして、夜のお供も最高とくれば無敵な女だよ、お前さんはな」の、増し足し言葉にご満悦な満面の笑み状態の零華。

「よぉおーし、このパスコードで、どうだ!」と、エンターキーを右人差し指を着けた中指で叩くように押す景山。シュゥーン……と、ハードディスクの高速回転音が鳴りはじめ……『ALL・CLEAR』の文字が浮遊モニターのど真ん中に横書きで出る!

「よおぉーし。あとは任せたぜ、零華。潜入の仕方はお前さんの好きにしな」と、チョキにした右手の指を額にちょこんと触れて前に出す……景山数希自称『ニヒルVサイン』をかまし、ウィンクする景山。

「ああん、もぉーズルくって、我が君は。板付(いたつき)優癖(やさぐせ)(板についた優しさ)がたまんないのよねぇー。それされると裏切れないって、どんな女もね」と、照れまくりの零華が、立つ。

 モデル仕草で、「WR(ダブルアール)フラッシュっ!」と決まり言葉を放ち、全身を輝かせ……秘書、美容部員、デパ地下お惣菜の売り子、アパレル店員女子、飲食店ウェートレス、VIPお得意様レディと、様々に……変貌する……が。

 裸体と着装繰り返す女人を……眺めている景山が……段々目が虚ろの……心ここにあらず状態になって……その胸の内にあるのは、少し前のときの昨夜ことだ!


 少し前のときの昨夜の同・アジト――60番街タワービルを探る景山と、取材する花楓の擦れ違いシーンが……モニターで復元される映像を見て口遊む景山数希。

「そうか、いたのか……花楓の奴……」と、天井を見る景山……。

 零華にスキャンさせてモニターでは、その後のしばらく警備室の監視カメラハックして膨大な各所映像データを、浮遊モニターへとピックアップ映像を飛ばさせている。

 上階のカフェで、河野常務らとお茶している高峰花楓……(地下駐車場に青い単車で到着する景山)……硬い表情の麻布と、展望窓際通路を話歩きする花楓……(地下口から中に入る景山)……メインエントランスを、フレンドリーな感じの表情で案内する麻布を、頷いて朗らか表情で見ている花楓……(エスカレーターでエントランスに上がってきた景山が人混みの中を、更なる上階へと上がっていく……)といった具合の映像を。「花楓の奴ぅ……」と心で意に反して呼んでしまっている声が口から少し漏れている景山。

「え? 誰って? カエデって?」と、反応して、プクッと膨れる零華。


 元の地下アジト――に戻って、作戦を講じる零華と景山。

「ねえぇー、ねえぇー我が君ったらッ」

「ああ?」と、しょぼしょぼ瞼を無理やりオープンキープしている景山。

「終わったよ、ラーニング。ここもダクト内が甘いわよ、セキュリティ!」と、何時にない強めの口調の零華。

「じゃあ明日から初動テキ行動開始な、零華(欠伸して)本番は新月……」と、景山。

(……何よ、丸投げで! だから、どうしてカエデ?)と胸の内で嘆く零華。流石の超高性能ダブルコンピュータ仕様繋がりの人工知能でも、人の情までは計り知れぬようで、ただただ頭を傾げ膨れるばかりの望月零華が、人工脳裏で様々にシミュレーションする。

 壁掛けモニター2分割状態が……また半分の上下になり、上に優理華の寝顔。下に奈菜未の寝姿が映り。もう半分に、こんな深夜でもオフィスでの高峰花楓のお仕事中姿がクロナノテントウからのライブな映像で届く。

 ふかふか具合がそれなりの激使いやすし一人掛けソファタイプ椅子の背凭れを些か倒し……転寝しはじめている景山数希……を、見て、微笑むしかない望月零華。

「しばしお休み、我が君ぃったら、憎み切れないし」と、ニコッ! と微笑む零華。


 某アニメーション制作会社兼プロダクション――周囲の建屋よりは抜きんでている5階建て自社ビルの4階の窓明かりが、今は頭上へと移動してるスーパームーンの明かりに負けず劣らずに煌々と点いている。


 同・フルオープンの制作ブースフロア――高峰花楓が、個室風に三面壁に囲まれたデスクで、ノートパソコンの睨んでは、悩んでいる。画面橋の時刻は、03:30時!

「お疲れっす!」と、入ってきた男子アニメーターと……対話する高峰花楓。

「お疲れ様。永井青年君」

「ブースインしまーす」と、永井青年が24個に区切られたブースの一つに入る。

「おつっす、メープルさん」と、若女子も出社してツカツカと自分のブースに入っていく。

「ん、お疲れ様ぁ。仁美ちゃん」

「ああ」と、もう一度出てきて、『給湯室』ドアに入っていき……少しして、カップを二つ持って出てきて、無言でカップを一つ、花楓のデスク上に置いて、また、自分のブースに入っていく仁美。

「ああ、仁美ちゃん」

「はい?」と、高さ150センチの衝立の上に顔を見せる仁美。

「この前言っていた、アフレコ、決まったから、準備しといてね」

「え? あ、はい。超絶っす!」と、いきなり厳禁に元気になる仁美。「あ! でもぉ、メープルさんではぁ……」

「ん。あの若さは、貴女の方が適任だわ。ブレークしたのちの顔出しもねっ」

「はい、喜んで」と、仁美のブースにアングル替えすると、手書きアニメイラストをスキャン機能でPCに取り込んで、といった作業脳効率アップしている早朝? 深夜? こんな時分の状況下にあってもアゲアゲマシマシ状態で仕事する仁美。

「もぉーのっけ方、上手くって、メープルさんてばっ」と、仁美の呟きが部屋全体に届く。

 自分のデスクから、仁美のブース衝立を見て微笑んで、再びPC画面を睨んで悩む花楓。


 都心の夜明け光景――超高層ビルらを従えた東京タワーのシルエットテキ夜景の都心。スーパームーンは傾くべき方角へと移動していて、明けの明星も輝いている夜空をパーンして……路地の突き当りで緑地を背負っている2階建て一軒家は、『TAKAⅯINE』。


 高峰家・奈菜未の部屋――お包みしていた毛布も剥げて、中女ジャージ上下臍だし大の字状態で寝ている奈菜未。その胸元辺りが輝いて……「ああそうそう、定番アイテムが必要ね。シャイニングホワイト、パワー」と、小さな楕円の白き煌びやかな閃光が出てきて……勉強机の引き出しにヒットする。「ピッタリね。あとは夢枕で、ね。高峰奈菜未ちゃん」と、奈菜未の胸元の輝きが納まる。

「むにゃむにゃむにゃ……アタシっ! あなたってだあれ? キューミン? って、フェアリーなの? え? あたし?」と、寝言を割とはっきり言う奈菜未が……右へと寝返りうって、毛布ごと床に落ちる。ゴト! なおかつ寝入っている……奈菜未。


 同・優理華の部屋――外からの俯瞰の窓の中……カーテンが閉じられているその隙間から……「シャイニングイエロー、パワー」と、月光に劣らずの輝く黄色の閃光が覗き!

「あなたって、誰? ラーニング? ほんとなら凄いけれど……むにゃむにゃむにゃ……」と、部屋の中の寝言を盗聴するように……外は煌々と小さくなってもその満月が地上を照らし。明けの明星も大きく輝いている。


 そして――時間が巡り……どこもかしこも関東平野ではほぼ同時刻に朝陽が注ぐ……。


 高峰家・ⅬDKフロア――「ふわーあ!」と、大あくびをして登校前のバッグとジャケットを持ったブラウス姿で入ってくる奈菜未。キッチンで朝食を用意した優理華がハニートーストとレタスましましサラダをカウンターテーブルに配膳する。

「どうしたの、やけに今朝はおしゃれしてるじゃないの? 奈菜未ったら」と、優理華。

「ん。前に誕生日にもらった、蝶々モチーフバレッタ、使ってみようかなって……」

「ふうーん……」と、後ろを向く優理華のポニーを結っているゴムに蜂モチーフの飾りが。

「優理華だって。それって誕生日にかあさんからもらった……」

「ん。実は私も、今日はしていこうかな? って、気になって……」

「ゆうべ、変な夢を……見たようなで。でも、思い出せなかったりでしょ」

「ん。私も、印象深い夢のような……でもぉー思い出せなくて……」

『もぉームズムズぅー』と、息ピッタリで、朝っぱらから大笑いする優理華と奈菜未。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る