女子高生は再会する

 あれから三年が経ちました。

 私はあの日以降、乗る車両を変える事で、おじさまに別れを告げました。

 一方的な恋でしたが、これ以上おじさまの姿を見続けると歯止めが効かなくなると思ったのです。


 私は中学を卒業し、中学と最寄駅が同じの高校へと進学しました。

 どちらも女子校なので、男子との関わりを持っていません。

 時々とても虚しく寂しい気持ちになり、身体が疼いて涙が出そうになる事もありましたが、そのたびにおじさまのあの匂いを思い出し、一人鎮めておりました。

 相変わらずおじさまのように嗅ぎたくなる男性には出会えず、時々電車内で見かける部活帰りの学生達を見掛ければ出来るだけ距離を取ってしまいます。

 臭いが不快だというのもありますが、あのおじさまの匂いが上書きされそうで、掻き消されてしまいそうで、怖かったのもあります。


 時々、おじさまの匂いを感じる時があります。

 交差点、コンビニ、女子トイレ、こんなところにいるはずもないのに。

 私はいつまでおじさまの匂いに囚われ続けるのでしょうか。

 そう、今も不意に感じてしまいました。

 まるでおじさまが向かいの席に座っているかのように……。


 おじさまが寝ておられます。

 何故?

 電車の時間が同じだとしても、何故わざわざ車両を変えられたのでしょうか?

 もしかして、私を探してられたのでしょうか?

 三年間、ずっと?

 いえ、そんな事があるはずありません。

 これは運命の悪戯というヤツです。

 運命の神様が私を試しているのです。

 性格の悪い女神様なのです。

 ……おじさまの左手に、指輪がありません。


 私は一体何をしているのでしょうか?

 降りる駅を通り過ぎ、おじさまの寝姿を眺め、おじさまが起きられたのを確認し、立ち上がった背中に続いて電車を降ります。

 これはダメです。

 ダメなヤツです。

 立派なストーカーなのです。

 私はおじさまの後ろに続き、改札を出てエスカレーターに乗ります。

 おじさまのおしりを見るのは初めての経験です。  

 引き締まって良い形なのです。

 一番出口を出て、おじさまは右へと曲がります。

 私も続いて歩きます。

 どうやらおじさまはスーパーに寄られるようです。

 続いてスーパーに入ってカゴを取り、ストーカーしている事に気付かれないようお菓子を入れていきます。

 おじさまはお弁当を一つ、そして菓子パンを一つ、カップ麺を一つカゴに入れられました。

 これはほぼ確定です。

 おじさまは一人暮らし。

 きっと離婚されたのです。

 離婚され、住んでいる家からの最寄駅が変わり、出口に近い車両が変わったので、私との再会を果たされたのです。

 そうに違いないのです。

 これはもう再会を祝してパーティをするべきなのです。

 お肉を買いましょう。

 つけあわせのジャガイモと、ヤングコーンを買いましょう。

 ……歯ブラシがありました、買います。

 下着はコンビニでいいでしょうか?

 最悪、おじさまのものをお借りするとして。

 さぁ、お会計をしましょう。

 レジ袋はいりません、エコバッグ持参です。

 ちゃちゃちゃっと詰め込んで店の外へ出ます。


 おじさまを見失いました。

 私はストーカー失格です。

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