ドーナッツ
久石あまね
十年ぶり幼馴染の友人と再会したら
真冬なのに歩くと汗ばむ。
ダウンコートを脱ぎニット一枚になり私は実家までの坂道をゆっくりと歩いていた。
坂道の途中には幼馴染の家がある。黄色い屋根の家だ。
高校を卒業してから十年たち、もうその幼馴染の百合子とは会っていない。
百合子は東京の有名私大に入学したそうだ。それでそのまま東京の会社に就職したらしい。
それに比べて私は現在、無職。
地元の大学を中退したあと、そのままアルバイトをしながら実家ぐらしでぶらぶらしていた。
そして今は十五歳年上の彼氏の家に居候しながら、ダラダラとアルバイトもせずに暮らしている。日中は図書館で過ごす。赤川次郎の三毛猫ホームズを読んでいる。
百合子の家の前を通ると、玄関のドアが開いていた。
三歳ぐらいの女の子がいた。目の丸い子だった。
百合子の子だなと直感的に思った。
その子に手を振ってみた。
その子は訝しげにこちらを見たまま固まっていた。
しばらく見つめ合っていると、百合子が出てきた。高校時代ぶりだ。
百合子は少しふくよかになり顔が丸くなっていた。でも百合子は相変わらず、美人のままだった。
「あら、沙都子、久しぶり」
「百合子!」
私はそんなに驚いていないが、驚いた口調で百合子の名前を叫んだ。そしてキャ~と言いながら百合子に接近しそのままハグした。
百合子はやや引き気味だったが、高校の頃のように私に接してくれた。
それが私には嬉しかった。
久々の思わぬ再会は、心の温まるものだった。
「百合子、子どもできたんだね」
「この子彼氏の連れ子なの」
私は言葉に詰まった。
彼氏ということは、まだ百合子は結婚していなかったのか。
すると玄関から五十代ぐらいの頭のハゲ上がった男が出てきた。
百合子が彼氏よと言った。
とっさになんと言えばいいかわからなく、おどおどしてしまった。だから私は無職なんだろうなと思った。
みんな事情があるということなんだろう。
この世の中はたしかに複雑だ。
ドーナッツ 久石あまね @amane11
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
病気だからって/久石あまね
★14 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます