最強四人の5分間 ~S級パーティーを追放された運び屋と、古代文明の落ちこぼれ錬金術師と、引退して畑を耕す元冒険者のおっさんと、怪物に捧げられた嫁贄が(ry~
<20>【錬金術師バルトス】ワーカホリック
<20>【錬金術師バルトス】ワーカホリック
現在、人族は、地上の二割ほどを支配しているという。
とは言え、残りの八割を全て魔族が占有し、国を作っているわけではない。
ただただ未開拓で放置され、まつろわぬ魔物部族や、野生の魔獣がうろついている土地がほとんどだ。
人族の国は、余力が生まれれば、そこへ開拓に乗り出し、魔物を駆逐して版図を拡げていく。
いつか再び魔王と戦う時、一人の英雄ではなく、人族の力で勝てるよう、力を蓄えるために。
……正確に言うなら、人族の勝利を大義名分とした一大事業で、富を手に入れるために。
カザルム侯爵領飛び地、開拓都市・レンブル。
申し訳程度の壁で囲われた街の中は、歴史の教科書の挿絵みたいな、高層集合住宅が建ち並んでいる。人族が壁を立てて魔物から身を守っていた時代は、バルトスが知る時代以上に街が狭かったので、庶民は魔法で土を固めて石にした集合住宅に住んでいたのだ。それは文明の発展をやり直しても、同じ判子を押したように繰り返された。
特にこの街は、後から後からやってくる開拓民を受け入れるため、公営の集合住宅が過剰なくらい用意されている。
そんな中でバルトスは、横丁の店舗兼住宅を一つ与えられていた。
領主に雇われた立場なので特権的な扱いだ。
仕事は
そしてバルトス自身の目的は、仕事の裏で都市周辺の遺跡を調査し、現代にマナ・アナライザーを再現することだった。
『バルトス様、周辺の遺跡に関して現在一般に知られている情報をまとめておきました。
これはあくまで一般に知られている情報で、一部の者がより詳細な情報を持っている可能性にはご留意ください』
『分かった、ありがとう』
web百科事典の良記事を印刷したみたいな、詳細で読みやすい手書き資料を、レイブンがバルトスに渡してきた。
バルトスは
とは言え、この非力で小さな身体では力仕事などできない。棚一つ動かすにも、レイブンの助けが必要だ。
手足のようにバルトスを手伝いながらも、レイブンは平行して様々な仕事をしていた。
『水汲みとお洗濯も済ませておきました。
お昼ご飯はウサギ肉のスープの予定です。
それと薬品棚に付けるバルトス様用の踏み台とハシゴに関してなのですが……』
バルトスは報告を受けているだけで目が回りそうだった。
身体がいくつあるのか疑問に思うほどの働きぶりである。
もちろん、ゴーレムたる彼女は、人のように疲労などしないわけだが……
『……バルトス様?』
『レイブン。
君に明日一日、休暇を命じる』
バルトスの一言は、稲妻の如き鋭さでレイブンを打ち据えた。
彼女は風に煽られた木の葉のように、ひらひらとへたり込む。
『私の存在は……お邪魔でしたでしょうか。
であれば私は野良ゴーレムとして永い永い旅に出るなり、燃えないゴミとして』
『わーっ! 違う違う! そうじゃないって!』
世界が終わったかのように絶望するレイブンに、バルトスは慌ててフォローを入れた。
『俺の身の回りのことを本当にずっとやってくれてるけど、あまりにも働き過ぎじゃないかと思ってさ……
余暇を楽しむ知性が、君はあるはずだろ?
だったらたまには休んだ方がいい』
ゴーレム作りも錬金術師の仕事。
『ゴーレム心理学基礎』は、錬金術学部の必修単位だ。もちろんバルトスは、これを履修している。
ゴーレムの知性はあくまでも、人のために作られたもの。人は異質なものとの共同生活にストレスを感じるため、ゴーレムの精神は人が共感しやすいように人を模している。もっともその精神は完全な人の複製ではなく、(たとえば人に従順だとか、どんなにストレスを与えても鬱病にならないとか)人に都合良いよう再構築されたものではあるが。
知性と感情を持つ高等ゴーレムは、心を得たが故に、100%の仕事効率を発揮できない。人と同じように不安定になる。
それでも人がゴーレムに感情を与えたがるのは、良好な精神状態で仕事を張り切るゴーレムの姿が、周囲の人に好影響を与えるからだ。
それは確かだと、バルトスは思う。反対に、滅茶苦茶な仕事をさせるのも、まずバルトスの方が辛くなる。
レイブンは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるが、働き過ぎは見ていて痛ましい。そも、彼女は2000年以上、冷凍睡眠状態のバルトスの番をしてきたのだから、1世紀くらいリフレッシュ休暇を取っても誰も文句を言わないだろう。
『ありがとうございます。
ですが私は、これでいいのです』
レイブンは、得心した様子で、静かに微笑んで頷いた。
『高等ゴーレムとして造られた私は、人に近しい感情と意思を再現されています。……しかし、プログラムの枷からは逃れられません。
学生の命を守ることは私の最優先事項。
そこにバルトス様が居る以上、諦めることも投げ出すことも許されず、私はバルトス様の目覚めを待ち続けました。
その2081年間が、徒労に終わらなかったこと……どれほど嬉しかったでしょうか』
2081年間。
年月の重さがレイブンの声に滲んで、バルトスは言葉を失う。
言葉にするのは容易いが、想像が付かないほどの長い時間だ。
バルトスの時代の人間の平均寿命の、10倍以上。エルフでもこんなに長くは生きない。
レイブンはその間、ただ存在していたわけではなく、一つの仕事をしていたのだ。最初から無駄だったのかも、終わってみるまで分からないような仕事を。
壊れゆく姉妹機を糧としてレイブンは生き延び、使命を果たした。それを強制された。
恐ろしく残酷な話だ。目覚めぬバルトスの番を無為に続け、経年劣化で機能停止する虚しい
『そして、そこで終わるはずだった私に、バルトス様は未来をくださいました。
私は今、とても幸せなのですよ』
『そっか……
分かった、ごめん。独りよがりだった』
『とんでもないことです。バルトス様のお気遣いを悪く解釈したこと、お詫び致します』
話を聞けば、それもまた納得できた。
よく働くものだ、無理をしていないかと心配だったが、レイブンはただずっと、大喜びで仕事をしていただけなのだ。
『じゃあ、何か一つ、レイブンの今やりたいことをやってみよう。
仕事以外で何か無い?』
『そうですね……』
レイブンはしばし、思案する。
仕事や生命維持と無関係な考え事には、敢えて、僅かしか演算リソースを割り当てず、人の思考と同じ速度で悩むよう作られているのだ。
人らしさの演出でもあるし、どんな時でも優先度の高い仕事にリソースを割り当てられるようにする機能でもあった。
『服が欲しいですね。
この時代に既製品は少ないようですので、折角なので作るところから楽しみたいです』
『服か、了解!』
『では失礼して早速採寸させていただきます』
『えっ?』
レイブンはバルトスに、3DモデリングめいたTポーズを取らせると、驚くべき手際でバルトスの身体のあちこちに巻き尺を当てた。
『…………ピンクフリフリの甘ロリ…………』
『待てお前今なんて言った?』
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