第10話 シュテルとハド
シ「早かったな」
少女「本当はもっと長くいたかったけど、事実は一瞬で終わってしまう出来事だったから。そんでその大荷物は?」
僕が大荷物を持ってまるで夜逃げかのような格好をしているのが目に入ったのだろう。
まあ実際夜逃げではあるけど。
シ「これから色々と生活するにあたっての必需品をね。お前のほうこそ、どうしたんだ?」
少女は無表情で
少女「別に、気分が少し落ち着いてないだけ」
シ「そっか、了解。とりあえず西の森に行くぞ」
少女「わかった」
僕と少女は西の森へと駆けていった。
シ「おーい、目を覚ませ。着いたぞ」
彼があまりにも速すぎるからオブってもらってここまできた。
ただそれでも速すぎるため、わたしは途中で気絶してしまった。
少女「途中で気絶するとは思わなかったわ。にしても」
目の前を見ると、山があり、川があり、どこか美しい気配を感じさせる場所だった。
少女「近くにこんな森があったのね...」
シ「まあ近くではないけどな。ここから大体400キロメートルぐらいあるし」
少女「400!?」
シ「まあほぼノンストップだしな。30分ぐらいならそんなもんだろ」
少女「あなたって時速何キロぐらいなの?」
シ「えーと大体800とか?」
少女「800…すごいわね。速すぎる」
シ「まだまだ、まだ高みを目指せられるし、まだ音速を超えたわけでもない。今の目標の音速まではまだかなり遠い」
音速を超える?とんでもないことを言う人だ。
もしかしたらわたしはとんでもない人と会ってしまったのかもしれない。
シ「ただいつか、たどり着く。絶対に。私に諦めることはない」
少女「...」
目が本気だった。
多分いつか超えてしまうのだろう。
わたしにはなんとなくわかった。
シ「とりあえず日が昇るまでは魔力あげのコツを教えよう。それから私は一旦昼の仕事場に戻る。お前は寝るなら特訓に励むなり好きにしろ」
少女「昼の仕事もあるの?大変ね」
シ「まあ現実も見なくてはいけないしな」
少女「ねえ、そうだ。それとさ名前つけてくれない?よくお前とか君とかおいとかじゃなくてさ」
シ「おいなんて言った記憶あったかな?ふーむそうだな。名前付けなんてセンスが私には...ハドなんてどうだ?」
少女「ハド?確かに少し変かも。でもいいねハド」
シ「さあハド特訓をしようか」
ハ「ええ、そうねシュテル」
シ「シュテル?短的に呼ぶとはな。まあいい」
それからわたしとシュテルの特訓が始まった。
彼の特訓は単純だった。
魔力上げと身体能力を上げること。
魔力がなくてはなにも始まらない。
そして魔力の多さに持ちこたえられる体がないといけない。
とのことだった。
シ「そろそろ時間だ」
ハ「わかってはいたけどきついわね」
シ「こちらからするとちゃんとついてこれているだけすごいと思うがな」
ハ「世界的に見てもこんな力は見たことがない。あなたはどこでこの強さを知ったの?」
シュテルは少しだけ黙った。
シ「私はいつの時でも、高みを目指し続けた。学、力はもちろん、美、洞察、創造…ありとあらゆることをしてきた。でも結果は残酷だ。私は全て失敗で終わったのだ」
ハ「失敗?」
シ「私はね、死んだんだよ」
わたしはただ驚いた。
シュテルがすでに死んでいる?でもちゃんと実体もあるし
シ「でも、死んでも捨てられなかったんだ。この思いは死んだ程度じゃ決して消えない。だからなのかな?こうやってまだ生きているんだよ。その執念が強さに変えたのかな。ふふ、答えにはなってないね」
とても奇妙な話を聞いている。急に自分は死んでいると言ったのだ。そしてなぜか生きている。何も論理的ではない。でも不思議と反論できなかった。ただ頷くだけの自分がいた。
シ「変な話をして悪かったな。とりあえず鍛えまくれ、それだけだ」
ハ「いつか、ちゃんとした答えを聞き出せることを願うわ」
わたしは今はただ彼に従う。
シ「この変は比較的安全だ。寝るなりなんなり好きにしろ。また夜に戻ってくる」
ハ「わかったわ。行ってらっしゃい」
そのまますごい勢いで駆け抜けていった。
木に当たらないのがすごいよね。
わたし、サンドラは今日もまた仕事に励もうとした。
サ「今日もまた頑張ってください」
シ「はあ、大変だよ」
サ「...魔王様随分と機嫌が良さそうですね」
シ「そうか?」
目の前の男の子はただ笑いながら答えた。
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