第4話



 ガサガサと、音が響いた。


 ゴクリと、ユイの喉が鳴る。


 お互いに目を見て、静かに頷きあう。


 ベッドの下は、人が入れるスペースはない。


 ならば、何がいるのだろうか。


 それが、この件の犯人なのだろうか。


「僕が見るよ。紗耶は後ろにいて」


「わかった」


 スマホのライトをつけ、恐る恐る、ユイはベッド下を覗き込む。


「あっ」


 瞬間、小さな何かが飛び出してきた。


「――ブラン⁉︎」


 赤や青、オレンジに紫、混ざり果てた暗い色など、様々な色をつけた、見知った子。


 私の足元をゆっくりと回りながら、小さく鳴いた。


 近所に住み着いている、ノラ猫。


 とても人懐こくて、マリンブルーの瞳を持つ。毛は白く、近所の人たちが可愛がっているおかげで毛並みもそこそこいい。この近所の人たちの中に私も含まれ、勝手に "ブラン" と名前までつけて呼んでいる。


「なんでブランが部屋に……」


 ユイはそう呟いた後、急にハッとしてアトリエへと入っていく。


 追いかけると彩り豊かな水溜まりを器用に避け、ベランダの前で立っていた。


 カーテンが微かに、揺れている。


 アトリエはエアコンをつけていない。それはつまり――。


「さーやー?」

 

 ベランダの窓を閉め忘れたのだ。


 昨日の朝方、制作明けした後、作品を乾かすのと空気の入れ替えで、ベランダの窓を開けたことを思い出す。


「あー……」


 この部屋は2階にあり、ベランダに山茶花の木の枝が少し寄りかかっている。猫くらいなら登っても折れたりしないだろう程度の枝たちだ。きっとブランはその木を登り、ここに辿り着いて、今に至るのかもしれない。


 ため息をつき、普段しない怖い表情で近づいてくる。


 おでこにデコピンされ、ベチっと音がする。痛い。


「今回はブランだったから良いけど、本当に空き巣だったらどうすんの? 運悪く鉢合わせたらすごい危ないのわかってる? あと、僕のこと呼ぶ気なかったでしょ」


 とてもご立腹な様子だ。こんなにも早口で話すユイをあまり見たことがない。


 口がぱくぱくとよく動いている。


「ねえ、聞いてる?」


「はい、すみませんでした」


 にゃうん。ブランも私の足元で鳴いた。


 

 

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