第4話 県庁食堂のあのシーン
さて、車を走らせる事2時間弱。
『山陰道』を降りて市街地の道を進み、ようやく県庁に到着した。
県庁の裏手には
戦国時代においては、山名、尼子、武田、毛利の争奪の地であり、数々の戦の舞台となった場所だ。
特に有名なのは、羽柴秀吉による鳥取城攻略戦、“鳥取の渇殺し”とも呼ばれる凄惨な戦の現場でもある。
戦に先立ち、若狭の商人を派遣して因幡国の食料を買い漁り、高値で取引した事もあって、目先の利益に釣られて城の食糧庫を開放する失態を演じる。
しかる後、幾重もの封鎖線を構築し、城を完全包囲しての兵糧攻め。
城にはわずかに二十日分の食料しかなく、瞬く間に飢餓状態。
人肉すら食らう悲惨な状況となり、ついに降伏して開城する。
しかし、生き残りに食べ物を振る舞うも、その多くが食事中に死亡。
状況から“リフィーディング症候群”が疑われる。
要するに、長期にわたり栄養不足が続いた後、急に高栄養を摂取すると代謝機能に異常をきたし、死に至るという症状だ。
栄養が十分摂取できる現代においてはまず見られない症状だが、戦争期にはたまに見られるものであり、この“鳥取の渇殺し”がリフィーディング症候群における大量死の最古の記録とされている。
そんな胃に悪い話を思い浮かべながらも、腹は空腹を訴えかけている。
ならば、食事をせねばなるまいと、県庁食堂に勇んで足を進めた。
第2庁舎の9階。実に見晴らしの良い場所に食堂は設置されている。
誰でも気軽に食事ができるため、部外者の自分も実に気安い。
そして、お目当ては当然、漫画『孤独のグルメ』で主人公・井之頭五郎が県庁食堂で食べた2品、『素ラーメン』と『鳥取カレー』だ。
券売機で食券を買い、いざカウンターで注文する。
そして、出てきた『素ラーメン』と『鳥取カレー』。
まあ、漫画版とは違う点が目につきましたけどね。結構前の漫画だし、そりゃ違ってきますわな。
まず、『素ラーメン』。
こいつの特徴は“うどんだしで食べるラーメン”ということだ。
うどんの汁の中に、ラーメンの麺が沈んでいると思ってくれればいい。
あっさりだしの醤油ラーメンとでも思えばいいが、そこは“天かす”の出番だ。
これがまた合う。天かす+胡椒の魔力により、足りなかった油脂分と刺激が加わり、実にラーメンであると主張して来るのだ。
次に『鳥取カレー』だが、名前が『県庁カレー』に変わっていた。
見た目にはごく普通のカレーに、福神漬けが添えられているだけだ。
だが、カレーの中に“梨”のエキスが注入されているのがこのカレーの特徴だ。
そして、漫画版と同じく、この一言!
「エキス、かすりもしないぞ!」
いやまあ、カレーの中に何かのエキスをぶち込んだところで、スパイスの味に押し潰されて分かりませんわな。
しかして堪能、完食。2品で英世1枚で収まるのだし、まあ安い。
自分の背後にある
『信長公記』には「餓鬼のごとく痩せ衰えたる男女、柵際へより、もだえこがれ、引き出し助け給へと叫び、叫喚の悲しみ、哀れなるありさま、目もあてられず」と記されるほどの凄惨な飢餓の現場がすぐ後ろにある。
いかに食事と言うものが大切であるかを感じさせる一事であろうか。
現代を生きる我々には、飢餓とは無縁の生活をしている。
しかし、それは食料がしっかりと輸入されているからであり、それが止まればたちまちに飢える。
そんな物騒な未来を考えつつ、一農家としてそうはさせまいとも意気込み、食後の水で喉を潤した。
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