6 福井の常識
「西洋御料理」と書かれた
「何名様でしょうか」
と、聞かれて、
「二人です」
由芽子さんは右手で示して見せた。空いている席へどうぞ、とのことだったので、二人がけの席を見つけ、そこに腰を下ろす。お昼時少し前だったので店内はかなり空いていた。
ここは、福井市順化一丁目にある「ヨーロッパ軒」総本店。
恐竜のロボットを見た後、「ご飯にしよう」ということになり、由芽子さんの案内でここまでやって来た。福井駅からは歩いて十分少々。赤茶色の外壁にはどこか温かみを感じた。
俺は店内を見渡した。壁には、多くの有名人が来店したことを証明するサインが書かれた色紙が貼られている。
「ここ、そんなに有名なお店なんですか?」
「そうよ。福井に観光に来た人も結構来るんだから」
駅から近い立地だからだろうか。
「ここの名物は、『カツ丼』、なの」
「カツ丼?」
「めちゃめちゃ美味しいんだから」
由芽子さんの言い方に食欲がそそられる。ガッツリ食べるのも良いかもな、俺はその由芽子さんおすすめのカツ丼を注文することにした。
由芽子さんは、「パリ丼」を頼んだ。
注文してからしばらくして、店員さんが頼んだ料理をお盆に乗せて運んで来た。
「いただきます」
丼の蓋を開けた。
「えっ?」
思わず笑ってしまった。「これが、カツ丼ですか?」
カツ丼といえば、ふわふわのたまごでカツを包んだ物のイメージだ。それが、目の前に置かれたカツ丼にはたまごがなく、ドデカいカツだけが三枚惜しみなくご飯の上に置かれている。
「これが、福井県民にとってのカツ丼」
由芽子さんは驚いている俺に言う。「
カツの大きさに目を丸くしながらも、俺は箸を取り、カツを持ち上げた。口の中へ運んだ瞬間、
サクッ──
衣はとてもサクサクしている。そして、中のお肉は柔らかくて食べやすい。何より驚いたのが、見た目は茶色で重たそうなのに、意外とそんなことはない。
さらにご飯にかかったソースがより食欲をそそる。俺の箸は止まらなくなった。
一方、由芽子さんの注文したパリ丼はカツではなく、メンチカツが二枚、ご飯の上にのっている。こちらもなかなか美味そうだ。
福井、ヤバいな——
俺は笑みをこぼしながら、残り一枚となったカツを箸でつまんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます