5 恐竜王国福井
「えっ、ちょっと!」
俺よろけながら言った。「ど、どこに行くんですか?」
由芽子さんは、
「いいから、いいから」
楽しそうな声で俺を誘う。反対に俺は、けっこう困惑しているのだが。
バス乗り場を離れてから一分もしないうちに、由芽子さんの足が止まった。巨大な像の前である。俺たちはそれを見上げた。
「恐竜、ですか」
デカい首長の恐竜だ。高さ四メートル以上はあるだろう。その姿はかなりリアルで、まるで生きているみたいだ。
「フクイティタン、っていうの。この子」
「名前に『ふくい』がついてるんですね」
よくお気づきで、由芽子さんは得意げな表情をすると、
「知ってる? 日本で発見された恐竜の化石のうち、大半がここ、福井県で見つかってるんだよ。しかも、このフクイティタンみたいに、福井で初めて発見されたものもある」
だから、福井県は恐竜が有名なのか──由芽子さんの説明に感心させられる。
他にも、国内最古級の新種の哺乳類の化石も発掘されたらしい。恐竜以外にも次々と歴史的な発見がなされているのだと、由芽子さんは教えてくれた。
そんなありがたい説明を聞きながら、巨大な福井駅舎にも描かれた迫力ある恐竜の絵などを見ていると、
グォー……グォー……
どこからか不気味な音が聞こえてくる。
なんの音だろう、そう思い辺りを見渡すと、驚愕な事実に気付いた。
「えっ? この恐竜……動いてる!」
目の前にいるでかい恐竜の像が首を上下に動かしている。さらに少し離れたところにいる小型の恐竜は体を動かし、重低音を発していた。
「びっくりしたでしょ」
由芽子さんはニヤニヤしながら僕の顔を見てくる。「これね、像じゃなくて、ロボットなの」
「ロボット……?」
「今はこの子たちだけだけど、これから福井駅の周りにはたくさん恐竜のロボットが置かれるようになるみたい」
俺は思わず笑ってしまった。
この光景は、はっきりいって異常だ。こんな駅は見たことない。
俺の住んでいる大阪のように、駅前やその近くに無数のビルが密集している場所は、日本の全国に他にも色々ある。
しかし、日本のどこを探しても、駅前に恐竜が——しかもリアルに動く―—いるのは間違いなくここだけだろう。
すごいことするな、福井県。
俺はつくづく、恐竜に圧倒された。
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