4 突然の出会い

「ちょっと!」


 いきなり後ろから大きな声がしたのでびっくりした。瞬時に振り向いた。ポニーテールの若い女性が一人、俺のことを見ていた。


「な、なんですか……?」

「バス停」

 女性は言った。「バス停は、こっちですよ」

「えっ?」

 俺は女性が指差している方向に自分の視線を向ける。たしかにそこには、バス停の看板が立っていた。


「あー。いや、すいません、ありがとうございます」

 恥ずかしい。あまりにも土地勘が無いとはいえ、道を間違えて指摘──しかも女性に──されるのは本当に顔から火が出てしまいそうだ。


 バス停に駆け寄る。時刻を確認しようとすると、バスがやってきた。行き先にはちゃんと「福井駅」と書かれてある。


 後ろのドアが開いて、整理券を取って乗り込む。車内はガラガラだった。

 一番最後尾、修学旅行の時だったら一軍陽キャ女子がはしゃぎまくる席の、右端に腰を下ろした。なんとなく窓の外の景色を見たかったからだ。


「発車します」

 ブザーが鳴ってドアが閉まるとバスは動き出した。


 俺は改めてスマホを取り出して、時間を確認した。11時10分前。なんともいえない時間帯だ。


「まだお昼じゃないしな……」

 正直、腹も減っていない。今、せっかく福井まで来たんだから観光でもしようか、そんな思いで色々思考回路を巡らせているものの、いい場所が思いつかない。


 スマホを使って調べてみた。しかし、どこもここから離れていて、お金に困っている状況では行く気にならない。


 全く知らない、福井のこと。


 カニとか恐竜が有名なのは知っているけど、この辺りで「観光スポット」、そう呼ばれている場所について、何の知識もない。


(大人しくご飯食べたら帰るか)

 通りに沿って建ち並ぶ建物を眺めながらそう思った。


「ねぇ」

 突然、呼ばれた。


 振り返ると、さっきの女性がいつの間にか隣に座っていた。


「うわぁぁぁ!」

 まさかの不意打ち。公共交通機関の車内にも関わらず、反射的に大声を出してしまった。


「失礼ね。人を妖怪みたいに思って」

「よ、妖怪?」

「君の驚きかた」

 女性は肩をすくめて、苦笑いする。「お化け屋敷にでも入ったかのような顔してたよ」

「は、はぁ」


 よく街中で見かける綺麗な桃色のカーディガンに、白のズボン。そんなファッションの女性は、

「なんか、困ってるみたいね」

 さっき、ググっていたのを見ていたらしい。


 苦笑いをして、俺は女性に事情を話すことにした。


「そんなことあるの? えー、それは大変」

 今に至るまでを完全に理解した女性は明るい笑顔になった。


「じゃあ、福井に来るのは初めてなの?」

「まぁ、そうですね。昔、富山に家族で旅行に行った際に通過したことはあるんですけど、観光とかで来たことは本当に初めてです」


 へー、女性は頷く。それから、思い出したように、「ごめん、そういえば名前まだ言ってなかったね」、えへへと笑ってから自己紹介をしてくれた。


「私、竹内由芽子たけうちゆめこ。今、大学生で福井県立大学に通ってるの」

「門井学といいます。もんに井戸ので、門井です。大阪の公立高校に通ってます」


 まもなく、バスは終点、福井駅に到着した。大阪には梅田駅、天王寺駅などたくさん大きな駅があるが、福井駅も地元のそういった駅に劣らないぐらい大きい。


 運賃を支払って降りた俺に由芽子さんは、

「ねぇ、ちょっとこっち来てよ」

 俺の腕を引っぱった。

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