3 とりあえず動き始める

 ということがあって、俺は福井大学文京キャンパスで二次試験を受けることになったのだ。


 もちろん、友だちには涙を流すぐらい笑われ、母親には、


「なにやってんのよ、ほんまアホやな」


 と、あきれられたのはわざわざ言うまでもない。


(たしかに、ちゃんと一次と同じ受験地の番号をマークしたはずなんやけどな……)


 間違えたからこうなってるんだろう。


 なんとかして、受験地を変更できないものか。そう思って、色々と調べてみたけれど、結局、一度決定してしまった受験地を変更することは絶対に不可能であることが分かった。


 こうなってしまったら、選択肢は、

「福井に行く」

 これしかない。


 大阪から福井までのアクセスは幸いにも簡単だった。大阪駅を始発とし、途中京都、滋賀県を経由して、石川県金沢までを結ぶ特急列車「サンダーバード」号が走っている。最短2時間31分で結ぶこの北陸アクセス特急は、関西ではかなりお馴染みの存在だ。


 唯一心配だったのは、受験会場の集合時間に果たしてまにあうことができるのか、ということだった。福井に行ったとしても、時間内にたどり着けなければ意味はない。


 しかし、これもまた幸いなことに始発のサンダーバード1号に乗車すれば、なんとか集合時間内に到着できることが分かった。


 ということで。

 受験当日の二日前に、最寄り玉造駅から福井駅往復切符をみどりの窓口で仕入れた。


 値段は、

「11220円……」

 一月3000円のお小遣い四ヵ月弱の値段が一瞬にして吹き飛んでしまった。行きも帰りも自由席でとり、これでも最安値であるものの、貯金の半分が軽く手元から羽ばたいていった。


「移動中の時間も快適に勉強できたと思えば良し、かな……」


 改めて、石碑を見てみるも出るのはため息だけ。


 しかし、こんな知らない土地で暗くなっていても仕方がない。


「とりあえず、福井駅に戻るか」

 色々あったもののお世話になりました、福井大学様。小さく一礼をして、門を出た。


(たしか、バス停はあっちやったよな)


 門を出て右折しようとしたその時だった。

 

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