2 一週間前の回想

 遡ること、一週間前。


 その日の終礼の時間帯、担任から英検一次試験合格者に対して、二次試験の受験票配りが行われていた。


「えっと、次、門井」


 おめでとう、一次試験合格と書かれた証明書が俺の手に渡された。


「おっ、お前も受かってたのかよ」

 先に受け取っていた友だちが言ってきた。一次試験を一緒に受けに行ったやつだ。「あんなに自信なさげな顔してたのに、良かったな」


 そう。受かっているとは思ってもいなかった。


 一次試験当日。リーディングやライティングは勉強したかいがあったようで、それなりに解くことができた。


 だが、最後のリスニングが難しかった。


 正直、最初の二問は焦ってしまい、何も書けなかった。三問目からは少し落ち着いたので、放送された内容に一生懸命耳を傾けたが、それでも完全に内容を把握できたのは手で数えられる程度。


 さすがに何も埋めないのはまずいから、聞き取れた英単語と己の勘を頼りにマークシートを記入していったものの、背筋がブルブルした。当たり前だが、以前受けた準二級よりも難易度が上がっている。もっと勉強すればよかったと、解いている最中も、終わって家に帰る道中も後悔した。


 しかし、意外にも結果は合格。あと、二問落としていれば不合格だったようで、危ないところだった。


「まぁ、俺、こう見えて天才やからな」

 なんやねんそれ、二人でふざけた会話で少々盛り上がるも、


「二次試験の会場はどこやろ?」

 友だちに訊いた。「前は近畿大学やったやん。次も同じところやろか?」


「俺はそうなってるな。近大の東大阪ひがしおおさかキャンパス」

 友だちは言った。「また一緒に行く?」


「一緒に行こう」

 いいよ、じゃあ何時集合にする?——そんな会話をしようとした時だった。


「あれっ?」

 ペラっと、合格証明書をめくって、俺の思考は完全に停止した。頭が真っ白になるとは、まさにこういう状況のことをいうのかと、後々感じた。


「おい、どないしたん?」

「……嘘やろ」

「はっ?」

「ごめん……やっぱ、行けへん」

「だから、どういうことやねん?」

 そして、俺は合格書に同封されていた二次試験受験票を友だちに見せて、

「受験会場……福井に、なってる」



 

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